第12話 激突
サリバン先生のちんまい心臓は、緊張でキュンキュンと鼓動が早くなっていた。そうなると、彼女の身体にも異変が起こってしまう。
息が詰まり、肩はこり、喉が乾く、さらには、発汗が促進され手に汗をかいたりもする。緊張の諸症状、この状態に陥ると、人間は実力を発揮出来なくなる。
緊張を克服する手段は、人それぞれだ。
サリバン先生、二十五歳、身体がちんまりしていても、大人の女性。緊張した時の、対処法もしっかりと、彼女は、心得ている。
最初に、自らに気合を注入!
「きょっ、今日こそは、ビシッと言ってやるんだからっ!」
ガンバッと自らを鼓舞するため、両の手で拳を握り、ゴゴゴォーと気合を注入する。
次に、サリバン先生は、クラリスお嬢さまたちの位置を確認し、覚えると目をギュッとつむる。
相手を見ないことで、緊張を忘れてしまうという、彼女が独自に研究し、編み出した、これが極意。
そして、彼女は、小さなお腹にためた空気を吐き出しながら声を出す!
「こらぁ、クラリスゥー!」
高位の者を呼び捨てに出来るのは、彼女の特権。サリバン先生のみ、爵位に関係なく生徒を呼び捨てにすることが許されている。それは、法が許しているのでは無い、彼女の人柄が、それを、皆に許容させている。
クラリスお嬢さまたちは、いつも校門で、生徒たちに愛敬を振りまく、サリバン先生を見知っていた。いや、それどころじゃない、いつもじゃれついてくるサリバン先生とは、仲良しと思っているぐらいだった。
さらにさらに、クラリスお嬢さまの中身であり、人格と理性を
ここに、クラリスお嬢さまの理性と本能が一致した。
サリバン先生が目をつむりながら、一生懸命、腕を振って走ってくる姿は、飼い主に駆け寄ってくる、愛らしい仔犬そのもの。
「こらぁ、クラリスゥー!」
そんな、愛らしいサリバン先生から、二度も名前を呼ばれて、クラリスお嬢さまがジッとしてられる訳がない。
「おお、サリー殿ぉ!」
クラリスお嬢さまは、目を星のように輝かせながら、きぁーっとサリバン先生を出迎えに動き出した。
メアリーだって、可愛い物が大好きだから、同時に動き出した。「もうっ! なんで、わたしの名前は、呼んでくれないのっ!」とやきもちを焼いてるぐらい。
ソフィは……。
彼女の頭の中がどうなっているのか、よくわからないが、「ハァー、ハァー」と
きっと、数日前の夜に、メアリーが彼女の胸を揉みしだいだせいに違いないが、この光景のどこに、その要素を見出したのかは、不明だ。
ちなみに、ソフィの頭の上に乗っかっているモフモフ精霊は、ここ数日、メアリーがしっかりと
なんにせよ、十四歳の彼女が早く立ち直るよう祈るしかないだろう。容姿は、清純な金髪巨乳美少女なのに、すぐに、「ハァーッ! ハァーッ!」しちゃうなんて、もったいない。
ところで、アレンは? というと、彼は、クラリスお嬢さまとメアリー、そして、ソフィの行動を苦笑いしながら見ている。女子が、「きゃっきゃっ!」しているときに、首を突っ込んでいくほど、彼は無粋ではない。
そういう無粋なことを、自然にできそうな、剣聖アルフレッドは、まだ、先ほどのダメージを完全に回復していなかった。
ソフィのダメ押しの一言で、撃沈された彼を、そのまま船に例えるなら、船底の補修は完了し、浮力は回復したが、干潮で潮が引いており、水位が低いので、座礁している、といったところ。
それにしても、驚異的な回復力。
剣聖アルフレッドは、ついさっき、見目麗しい三人の乙女たちから、連続で「キモい」と言われたのだ。
普通の男子なら、心に深いキズを負い、その治療には、数十年単位の時間が必要だろう。
それを、たった数分で、しかも、場が整えば、本領を発揮できるまで、メンタルを回復できたのは、驚異的と言える。
これは、剣聖アルフレッドが、王国最強の一角と称えられる、その片鱗と言えるだろう。しかしながら、彼のオーラは、いつもには、まだ、程遠い。これでは、見知った人でも、彼とは気付くことはできまい……。
さあついに、サリバン先生とクラリスお嬢さま達が校門の前で激突をする!
「ういやつでござるっ!」
「きゃーっ! サリーちゃん、かわいいっ!」
「ハァーッ! ハァーッ!」
「こら! やめろ! はなれろ! あっちいけっ!」
「ハァーッ! ハァーッ!」
必然的に、揉みくちゃにされちゃうサリバン先生……。
そこから、興奮した少女たちの声が聞こえてくる。
動きが早いので、誰が、どんな状態で発した声とセリフなのだがはっきりしないが、なぜか、艶かしい吐息がハッキリと聞こえてくるから不思議だ。
「きゃーっ! サリーちゃん! サリーちゃん!」
「ういやつっ! ういやつっ!」
「こらっ! 変なとこ、引っ張るなっ! そんなとこ揉むなっっ!」
「ハァーッ! ハァーッ!」
艶かしい吐息が混じっちゃうから、少女たちの乱れた姿を、聞くものに想像させてしまう。
だから、男子生徒諸君は、顔を赤らめ、鼻の下を伸ばし、校門前で繰り広げられる事態に魅入っている。
アレンだって、例外ではない、彼だって男の子だ。しっかり健康的な反応を見せて、顔は、真っ赤か!
そんな、少女たちのきゃっきゃっうふふを主食としている生き物が存在する。
王国が誇る、最強の一角、剣聖アルフレッド、ついに復活!
ひとしきり、サリバン先生を堪能したクラリスお嬢さま達は、落ち着きを取り戻した
サリバン先生の服と髪は、ぐしゃぐしゃに乱れていた。しかし、どのように動けば、ソフィの制服が、はだけて、ブラひもが見えてしまうのかは、説明できない。
ソフィは、生徒たち諸君の熱い視線に気づき、顔を赤らめながら、恥ずかしそうに、制服を正す。
「ふうーっ、楽しかったでござる」
「そうですね、お嬢さま!」
クラリスお嬢さまとメアリーは、とても満足そう。
サリバン先生は、口を尖らせながら、髪に手ぐしを入れ、その後に、パンパンと服に付いたホコリをはたき、身なりを整える。
いつもの彼女なら、このまま、クラリスお嬢さま達を見送ってしまう。
でも、今日の彼女は違う。
「クラリスゥーッ! 待ちなさいっ」
とお嬢さま達を引き留める。
ある人物を発見し、うーっとサリバン先生は、髪の毛を逆立てる。
「あたしとしたことが、あんな、不審者を見逃してたなんて……」
サリバン先生が、いつも投稿時間に門に立っているのは、風紀指導のためだけではない。
不審者の侵入を阻止する役割も、彼女は、担っている。
王国最高峰の学園、そこの魔法クラブの顧問を務める彼女は、王国の魔女と呼ばれ、近隣諸国が、その動向に注目するほどの実力者。
「こらあっ! そこの変態、アルフレッド! ここは、通さないわよっ!」
いつもは、仔犬のようなサリバン先生が、小さい狼のように吠えた!
「相変わらず、サリーは、お間抜けさんですね……」
剣聖アルフレッドが、女性に敬称を付けないのは、大変珍しい。
「いつも、あなたの髪、サラサラでキモいのよ! 髪の手入れより、剣の手入れをしたらっ!」
サリバン先生の魔力が、ゴゴゴォと高まっていく。
クラリスお嬢さまが、妖刀ムラマサを手に取る。
「やはり、あやつは変態でごさったか……」
校門前の雲行きが、怪しくなってきた。
お嬢様! 大変でござるっ! 小鉢 @kdhc845
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