第24話 異例の少女
緑の王、消滅...。┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
(シヴァと詩音の夢の中)
シヴァは目を開けると、布団の上で仰向けになっていた。
「詩音のところか...」
天井が木造だったことから、シヴァは夢の中であることを理解する。
布団から起き上がると、シヴァは部屋の襖に手をかける。
襖を開くと、詩音がいつもの縁側に座って5冊ほど積み上げた本を読んでいた。
「詩音、おはよう」
シヴァは本を読む詩音に話しかける。
真剣に本を読む詩音の隣にシヴァはそろりと近づき腰を下ろす。
詩音は本を閉じると縁側に寝転がる。
「疲れた...。ここ最近ずっと本ばかり読んでいるからな...」
シヴァは思わず笑ってしまった。
「はははは、お疲れさ」
詩音は左に座るシヴァの方に体を傾けて話し出す。
「白い樹化異(きかい)、久しぶりに見た」
シヴァは詩音の言葉からあの日のことが頭の中に浮かぶ。
詩音は話を続ける。
「"ロスト"と"エデン"。この2人に私は薬を飲まされて樹化異にされたんだったな...。今でも時々思い出すよ、"識神神社(しきがみじんじゃ)"で起きたあの日のことを...」
シヴァは両手を固く握りしめる。
「未熟な自分が悔しかった...、どうしてもっと早く...」
詩音はシヴァに話した。
「どうして私だったのかな?"式神家(しきがみけ)"は有名なのは事実だが、"7人の魔導師一族"でもない...。不思議だ、ここだけが納得いかない」
シヴァは詩音の方に視線を移す。
「ねえ、詩音。君はあの日、何があったんだい?」
詩音はシヴァから天井に視線を移す。
「式神家は、代々"魂の回収"をする一族でさ、簡単に言えば、"除霊"だよ。この世に未練を残して留まる霊魂(れいこん)、それを祓わないと人々に影響を与え始める。例えば病気や事故の災難が起きやすくなったりするんだ...」
シヴァは詩音と同じように縁側に寝転がる。
詩音はシヴァに話を続ける。
「私の魂は未練しかなかった。いや、樹化異にされた殆どの人が未練しかない"霊魂"になる。あの日、私は魔導樹(まどうじゅ)を養分に白い樹化異にされた。私は真っ暗な夢の中で人間の欲望で溢れかえった世界だった...」
詩音はシヴァの方に顔を向ける、自然と目には涙が浮かんでいる。
「シヴァが魔導樹を切り倒した時、私の魂は完全に霊魂となるはずだった...。でも、私の魂は生き続けていた。魔導樹(まどうじゅ)を介して私はシヴァの体内に"生きた魂のまま"入ってしまったんだ...」
シヴァは詩音に尋ねる。
「魔導樹の幹に埋まっていた君が樹化異になって出てきた時は流石に驚いたさ。逆を言えば、魔導樹は生命樹と繋がっているってことかい?」
詩音は頷く。
「おそらくな...。私の体はそこに眠っている。これは世界が初めて認めた例外だ。"式神の血を絶やさない為に魂が還るのを阻止した"ってことだ。式神家って何があるんだろうな?」
シヴァは起き上がる。
「きっと謎があるのさ。それも戻った時の楽しみになったじゃないかい?」
詩音も縁側に座る。
「そうだな...。私が元の世界に戻らないといけない理由が何かあるんだろうな...」
シヴァと詩音は何もない空を見上げる。
真っ白な和紙のような空は、どの空よりも高く、美しく見えた。
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(緑聖国 王都ビクトルグリーン)
目が覚めるとそこは病室だった。
シヴァは起き上がろうとしたが、左腕に大きな火傷を負っており、上手く起き上がれなかった。
「そうか、あの時...」
巨大な樹化異を倒した時、シヴァの左半身は炎の精霊魔法の力に耐えきれずに燃えたのだ。
シヴァは右手側にある窓の外を見ようと視線を移す。
すると、シヴァの右手を掴んだままソフィアが眠っていた。
シヴァのお腹を枕のように使っており、シヴァは動くことができなかった。
「寝てるのか、ソフィア...」
シヴァは夢の中でのことを思い出す。
「詩音...、あと少しだからな...」
シヴァとソフィアが寝ている病室に誰かが入ってくる。
入ってきたのは、神鹿(かみしか)だった。
神鹿はシヴァの寝るベッドの左側に座る。
「シヴァ、じゃあ俺は帰るよ」
シヴァは手を振ろうとしたが火傷を負った左腕は上手く動かせなかった。
神鹿はシヴァが無理やり左腕を動かそうとするのを止めさせる。
「無理するな。この怪我はどんな治療でも治せないそうだ。多分、治すには炎の精霊魔法使いの人に聞くのが1番早いだろうな」
シヴァは左腕をじっと見る。
「初めてさ、こんな火傷を負ったのは...」
神鹿はシヴァに話し始める。
「話は変わるが、識神神社にあった大きな木のことで分かったことがある。聞きたいか?」
シヴァは大きく頷く。
神鹿はシヴァに話した。
「あの木、世界にたった3本しかないらしい。1本は華の大陸(はなのたいりく)の北の大国"武華帝国(ぶかていこく)"。2本目は南の島国"島華国(とうかこく)"、3本目が和国(わこく)の識神神社。不思議なのが全て華の大陸にあるってことだ。仮に"生命樹"が聖大陸(せいたいりく)にあったとして、この3本の木が何を意味しているかは俺には分からなかった...。ただ、無関係では無さそうだ」
「調べてくれてありがとさ、神鹿」
シヴァは神鹿に笑顔で礼を言う。
神鹿はベッドから腰をあげる。
「礼を言われる筋合いはねえよ。俺らは"同志"、共に詩音を助ける為の仲間だ。俺は式神家について調べておくよ、シヴァは追ってるんだろ?詩音を樹化異にした奴らを」
シヴァは顔を強ばらせる。
「そうさ。僕は彼らを許さないさ!」
神鹿はシヴァの顔を見る。
「そうだな、俺ら皆、奴らを許さない!絶対にぶっ倒してやる!」
神鹿はシヴァに向かって拳を突き出す。
シヴァは悔しそうな顔を浮かべながら何度も頷く。
神鹿は手を広げる。
「じゃあ、待たな。可愛い騎士ちゃんと仲良くな、きひひひ」
神鹿は最後の最後に茶化すようなことを言って病室を出ていった。
「神鹿は何も変わってないさ...」
シヴァはため息をついた。
「シヴァ、起きたのですか...?」
ソフィアは眠い目を擦りながらベッドから顔を上げる。
「おはよう、ソフィア。よく眠れたかい?」
シヴァは上手く動かせない体を動かそうとしながらソフィアに話しかける。
「はい、とてもよく眠れました。動かしてはいけませんよ、シヴァ」
ソフィアは再びシヴァのお腹の上に頭を乗せながら話す。
シヴァはソフィアに尋ねる。
「そうだ、ソフィア。イーサンたちはどうしたんだい?」
ソフィアは再びシヴァのお腹から頭を上げる。
「彼らでしたら先に帰られました。ゾロロたちは再びグリーンライブラリーで本を読みに行っています。私はシヴァの監視が仕事ですからずっと病室に」
「ありがとう、ソフィア。ずっとここで寒くなかったのかい?」
シヴァはソフィアに礼を言う。
ソフィアは首を横に振って答える。
「いえ、問題ありません。夜はシヴァの隣で布団を被ってましたから」
シヴァはソフィアの発言に顔を赤らめる。
「えっ...、そ、そうか...。なら良かったさ...」
ソフィアは顔を赤くするシヴァのことを不思議そうに見つめる。
シヴァは窓の外を見つめて呟く。
「また1歩、近づいた気がする」
ソフィアはシヴァと同じように窓の外を眺める。
今日の空は雲ひとつない快晴だった。
緑の王、軍師の姫編。~完~┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
Hunter & Knight ~Sleeping Soul~ 桃の精霊 @momonoseirei77
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