第23話 軍師の姫

驚きの姿を目にする子...。┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



(緑聖国 王都ビクトルグリーン "ロス王城")



神鹿の作り出した階段をソフィアとオーロラ王女は登りきり、城の裏門へと出る。



2人は信じられない光景を目にする。



巨大な開花(かいか)の樹化異(きかい)、全身真っ白の巨人の樹化異(きかい)を目にしたオーロラ王女は膝から崩れ落ちる。



「な、何...、あれは...?」

オーロラ王女は思考が頭の中が真っ白になる。


ソフィアはオーロラ王女の背中に手を添える。

「大丈夫ですか、王女...」


ソフィアもオーロラ王女と同様に、巨大な樹化異に恐怖を感じていた。






「あっ!?ソフィアちゃん!」

手を振って城の裏門の方へ希麗(きれい)と紅覇(くれは)が駆け寄ってくる。



ソフィアは巨大な樹化異を指さして尋ねる。

「希麗、あれは一体何ですか!?」


希麗は首を横に振る。

「いや...、分からない...。私たちにも何が起きてるか理解できないの...」


オーロラ王女は何かに気がついた途端、体が痙攣したように震え始める。



ソフィアはオーロラ王女のことを抱きしめながら尋ねる。

「大丈夫ですよ、オーロラ王女。安心して、どうしたのですか?」


オーロラ王女はソフィアの手を握る。

「あれは...、父よ...。樹化異の薬を飲まさて続けていたのよ...。それできっとあんな姿に...、酷い...」


「国王が、樹化異...」

ソフィアは思わず言葉を失う。






ソフィアは再び巨大な樹化異に視線を向ける。




すると、巨大な樹化異は地上を覆い隠すように背中から翼を生やし始める。



「そんな...!?」

紅覇は初めて見る巨大な樹化異を前にただ怯えることしかできなかった。








城の中から溢れるような人が避難する。



城の中にいた樹化異の群れは、逃げ惑う人々の魂を次々に奪い取っていく。


城の付近は今までに経験したことないほど混乱していた。



城の外も中も、安全な場所などひとつもないのである。







ソフィアたちはただ逃げる人、樹化異に魂を奪われていく人を見ることしかできなかった。



オーロラ王女は思わず口にしてしまう。

「もう終わりよ...。この国の何もかも...」






全員が絶望した中、左腕を蒼き炎で燃やした男がソフィアたちの元へ近づいてくる。



「シヴァ...」

ソフィアは目に涙を浮かべながらシヴァが近寄ってくるのをじっと待った。





シヴァとカリティア、エドの3人と合流したソフィアたちは、何も話すことなく巨大な樹化異の方を見る。



「今日が緑聖国の最後の日になるとは思わなかった...」

オーロラ王女は涙を流しながら巨大な樹化異を見て呟く。



「君はここで諦めるのかい?」

シヴァはオーロラ王女に尋ねる。



「諦めるしかない...。ここはもう地獄よ...」

オーロラ王女は天を見上げ嘆く。



シヴァはオーロラ王女の方を向いて話し始める。

「樹化異になった者は元には戻らない。死滅した魂を樹木が閉じ込めているからさ。これが何を意味しているか君に分かるかい?」



オーロラ王女は立ち上がる。

「はあ!?この場に及んで何言ってるのよ?」



シヴァはオーロラ王女に話を続ける。

「彼らの魂は今、死ぬために闘っているのさ。白い樹化異は樹化異の中でも特別さ。肉体の再生するのも格段に速い、加えて破壊力や発動する魔法も桁違いなのさ。でも、その為には人間の魂が数えきれないほど必要になる」



オーロラ王女は言葉を失う。

「えっ...、どういうこと...?」



シヴァはオーロラ王女に真実を話す。

「グリーンライブラリーで奇妙な記事を見たのさ。"毎日数十人が消えてる謎の失踪事件"...。神鹿(かみしか)をここに呼んだ本当の理由は事件について調べてもらう為さ。失踪した彼らの行き先は、"国王の魂の源になること"、つまり"樹化異の養分になること"だったのさ」



オーロラ王女は落胆する。

「つまり、既に布石は打たれ続けていた...。私が気がつかなかっただけ...」



シヴァは魔法陣を地面に描くと、朱殷の槍を取り出す。

「君が君自身を責める必要はない、今必要なのは誰よりもこの国を信じることさ!」



オーロラ王女はシヴァに言う。

「でも何ができるの!?今さら何も...」



シヴァはオーロラ王女に言う。

「オーロラ王女、貴女が僕たちに頼んだのさ。"この国を守って欲しい"と!」



オーロラ王女はグリーンライブラリーでの出来事を思い出して大粒の涙を流す。




オーロラ王女は涙を拭うとシヴァに命令する。

「狩人シヴァ・グリフィン、緑聖国王女オーロラ・ヨハネスから正式に依頼を申しつける。"樹化異を殲滅し、緑聖国を守って"...」



シヴァは巨大な樹化異を睨みつける。

「了解さ!」







『鸞鳥(らんちょう)』

シヴァは地面を思いっきり蹴って、空高く舞い上がる。



シヴァは一瞬にして巨大な樹化異より遥か高い上空へと飛び上がる。




シヴァはあの日のことを思い出す。

「(あの日、僕らは何もすることができなかった。白く染まった彼女を...、樹化異にされた彼女を救うことができなかった...。でも、今度は変えてみせる!)」




シヴァの樹化異に対する怒りが体現するかのように、左腕の刺青の模様が波打つように動き出す。


左腕の刺青は、シヴァの左胸、さらに首から左目にかけて広がる。



「自然豊かな緑溢れる大地にて、安らかに眠れ。『聖火・明王鉄槌(みょうおうてっつい)』」

体の左半身に火傷を負うシヴァ、しかし左手に握った槍を包み込む炎は、何よりも赤く燃え盛り、真朱に染まっていく。


シヴァは巨大な樹化異の頭上に向かって燃え盛る槍を投げつける。




真朱の一筋の閃光は、巨大な樹化異の開いた花を中心を貫く。


貫いた瞬間、巨大な花火が上がったかのような爆音が国中に響き渡る。


貫かれた花は火柱をあげて燃え尽きる。



巨大な樹化異は呻き声をあげながら全身を覆っていた樹木が枯れていき、次第に灰になって消えてしまう...。





「ひっひひひ。やったさ...」

シヴァは天高くで力尽き、地上に向かって真っ逆さまに落ちていく。




「相変わらず滅茶苦茶だな、シヴァ!『大地演舞(だいちえんぶ)・法界定印(ほっかいじょういん)』」

神鹿が城の屋根上に錫杖を持って現れ、魔法を唱える。


城の付近にある大地が巨大な手のひらに変わり、シヴァのことを受け止める。




神鹿はシヴァを受け止めたことを確認すると、城の上から地上を見下ろして呟く。

「げっ...、まだ樹化異が結構残っているなぁ...」








「兵士たちよ!新女王から最初の命令を下す。"樹化異から城を守れ!"、我が元に集え!」

城の瓦礫の上に立ったオーロラ新女王は、逃げ惑う兵士たちに大声で命令する。



すると、恐怖で怯えていた兵士たちの様子が大きく変わる。


目に精気が宿り、樹化異たちを一気に殲滅にかかる。




ソフィアはオーロラ新女王を見て言う。

「貴女は強いお方だ。この国はまだ死んでないですね!」


オーロラ新女王はソフィアの方を見る。

「ありがとう。貴女と彼のおかげです」





緑の大地の手のひらの上で眠るシヴァ。


この戦線に終止符を打つ。





樹化異、殲滅完了!┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

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