第2話 ドラゴン殺しのユーリ②

 ヴァシリがここまでの経緯を思い出してみると、何だか雲を掴むような話だった。

「ヴィーチェ・ドラスク(ロシア語でドラゴンを見たところの街)か、おい爺さん。あんたそこから鉄を運んでるんだろう。もしかしてドラゴンを見たことあったりするのか?」

 ヴァシリが冗談めかして質問すると「さぁな」と、船長が答えた。

「さぁな、ってなんだ? 見たのか? 見ないのか?」

「旦那、周りを見てみろ。ここはシベリアだぞ。殆どが未開の世界だ、何が出てもおかしくない。トラを育てるオオカミや、でっかい大蛇なんかの噂もある。マンガゼヤからアルハンゲリスクへの航路なんかじゃ―――」

「ああ、分かった。もういい」

 やれやれ、ヴァシリはどこまでも続く白樺の森へ目線を移した。

 ドラゴン。それはトカゲのような蛇のような姿をし、翼で空を飛び、火を吐く怪物。 このおとぎ話の生き物を政府が怖がる根拠は、何も原初年代記だけではない。同じような話が、年代を同じくして他国にも記録されていた。現にドラゴン襲撃の際には、『一切の戦争、および紛争を中断し、国家の枠組みを超えて団結しドラゴンに立ち向かうことを誓う』というドラゴン条約の合意文書が、実際にロシア帝国を含む四ヵ国で発見されていた。

 だがドラゴンに関する物的な証拠は何一つ今日には現存していない。記録には残っているのだが鱗にせよ、骨にせよ、戦火で亡くなったり、長い年月を経て紛失してしまったりしていた。それがドラゴンという存在に対する胡散臭さを余計に助長していた。

「やれやれ」

 今の時代、どこもかしこも伝統や迷信よりも科学だ、近代化だと子供まで叫んでいるくらいだ。アメリカはイギリスから独立し、フランスでは革命が起きて王政が倒れ、ロシアはシベリアでドラゴンを探してるわけだ。

「さて、幻の生物ドラゴンは実在するのか、請うご期待! って感じだな」

 ヴァシリが自嘲気味に独り言をつぶやいていると、

「よぉ!」

 と船員が声をかけた。

「ウォッカでもどうだ? 兄さん」

「遠慮しておく」

「そうだな、既に酔ってるみたいだしな」

 船員はそう言ってヴァシリの下げた銃を指差した。

「そいつが銃って奴か? 俺触ったことないんだ、触ってもいいか」

「ダメだ。危ない。お前、酔ってるだろ」

「そうか」

 船員は意外なほどあっさりと引き下がった。田舎者だから銃を見るのが初めてなのだろう。興味よりも畏怖が勝った格好らしい。

「ならあの鳥を撃って見せてくれないか?」

「あん?」

 船員が指差す。その先には宙を飛ぶワタリカラスが再び姿を見せていた。高度は低くない。十分、この銃の射程圏内だろう。

「いいだろう」

 ヴァシリが手すりから手を離して銃を構える、と突端に視界が揺れて尻餅を付いた。更に耐え切れずに甲板の上に倒れてしまう。

「おいおい兄さん、大丈夫かい?」

 船員は笑うのを通り越して驚きの表情を浮かべて言った。

「今度から酔いたいときは船に乗るよ」

 そう言ってヴァシリは甲板に寝転がった状態で仰向けに銃を構え、カラスに照準を合わせた。さっきまで笑って囃し立てていた船員たちは、今は固唾をのんで見守っている。

 するとそのとき、ワタリガラスへ向かって大きな影がヴァシリの視界へ飛び込んできた。オオワシだ。普段は水辺の魚を主な獲物にしているオオワシは、珍しく視界に飛び込んできたワタリガラスに狙いを定めたのだ。

 ヴァシリは引き金を引く。

 パン、という音がして次の瞬間、空に羽が散って川へばしゃんと何かが落ちた。浮かんできたそれを船員が見ると、それは先ほどまでワタリガラスを狙っていたオオワシだった。

「ひゅぅ!」

 船員が口笛を吹く。様子を見ていた他の船員も「ハラショー(すげぇ)!」と手を叩いたのを聞いて、ヴァシリの気分もいくらか良くなった。

 ワタリガラスは礼も言わずに再びヴァシリの視界から消えていった。

「鳥は気ままなもんだな」

 ヴァシリは口の中で小さくつぶやくと、再び目を閉じた。



 トボリスクから川を下り続け、スルグトという街へたどり着いた頃にはすっかり夜になっていた。遠くからランタンの微かな茶色い光を見ると、ヴァシリは故郷に帰ったような気分になった。船酔いもすっかり良くなっていて、しっかりと空腹を感じた。

 都市部からは辺境の地、流刑地、田舎、魔境と言われるシベリアではあるが、実際に見て見ると、少なくともトボリスクやスルグトはレンガ造りの建物なども並んでいて、中々に都会的だ。水辺に並ぶ家々は中々に大きくて立派だったし、建築様式も現代的である。ヴァシリはシベリアの生活になんだか希望が湧いてきた。

 宿に着くと宿の主人はパン、キャベツのシチュー、更に丸々と太ったサーモンをヴァシリたちに振舞ってくれた。

 その時、テーブルにはヴァシリとオリガが着き、船乗りたちは別なテーブルでやかましく会話をしていた。ふと、ヴァシリがオリガを見ると、彼女もサーモンを食べてひたすら「うまいうまい」と言っていた。

「少佐、ここらで一杯どうです?」

 ヴァシリが宿に来る途中、居酒屋で買ったスピリッツ(蒸留酒)を薦める。

「おー、いいじゃないか!」と、オリガが応じた。

 乾杯して最初の一杯を飲み干すと、オリガは「そうだ。飲み比べをしようじゃないか大尉」と言ってきた。

「ええ、負けませんよ」



 ヴァシリとオリガはスルグトから再び船に乗り、川を遡行した。シベリアでは天然の水路が張り巡らされ、交通に利用されている。東のヴィーチェ・ドラスクまでは川を遡る格好になるが、シベリアの海抜は概して低い。風向きと漕ぎ手がいれば、川を遡航するのは容易かった。

「おいおい昨日よりひでぇな、大丈夫かヴァシリの旦那」

 船長が甲板に倒れるヴァシリの顔を覗き込みながら言った。

「そんなに船が駄目なら、船乗りは無理だな」

「あいにく、今回は二日酔いだ」

 ヴァシリは熱病に浮かされるような気分で言った。

「なんでぇ、二日酔いかよ」

 船長は興味を失ったようにその場を離れた。ヴァシリはみじめな気持になって昨日の顛末を思い出していた。オリガは底なしの化け物だった。船乗りに金をやって居酒屋へ使いに寄越し、次から次へと酒を持ってこさせた。船乗りも面白がって、しまいには彼ら自身が金を出して酒を買い、二人のテーブルを囲んでどちらが飲めるか賭けを始めた。

 やがてヴァシリは意識を失った。次に気が付いたときは食堂の小間使いに支えられてせっかくご馳走になった鮭を川へ吐き出していた。吐き出したものを集まってきた魚たちが食べた。塵は塵へ、土は土へ、魚は魚へ還っていくのだ。

「面白そうだな、私にもやらせてくれ!」

 遠くの方でオリガのやかましい声が聞こえた。一体、何をやるつもりなのだろうか。ヴァシリが耳を澄ますと今度は「うわっ、その紐にさわんな姉ちゃん!」という悲鳴が響いた。

「うわっ、紐が解けた!」

「帆がッ!」

「どうしてキチンと結んで置かなかった!」

「結んださ! けどこの姉ちゃんの指の力が尋常じゃねぇんだよ!」

「すまん、結んでおく………」

 これはオリガの声だ。

「待て! やめろ! ………くそっ、ほどけねぇ! だれかナイフを持ってこい!」

「あの兄ちゃんはどうした! この女をどうにかしてくれ!」

「あの兄ちゃんならあっちで倒れてっぞ」

「何、本当か!」

 ドタドタドタと足音がこっちに向かってくる。

「あっ、本当だ! また倒れてる!」

 どうも船乗りは自分の目で見たことしか信じないようだった。甲板の上で寝込む姿を見られたと思うとヴァシリはみじめな気分になった。オリガも周囲にまんべんなく迷惑を振りまいているようで、いっそのことヴァシリはヴィーチェ・ドラスクに着くまでの間こうして寝ていたいと思った。

「ヴァシリ!」

 船長の声だった。ヴァシリは狸寝入りを決め込んだが「おい、起きろヴァシリ!」

と鼻をつままれてしまい、仕方がなく目を開けると、船長は手に茶色い小瓶を差し出した。

「二日酔いに効く薬だ」

 と、船長は笑った。

「俺の家に代々伝わる薬だ。良く効くぞ」

「スパシーバ(ありがとう)」

 ヴァシリは小瓶を受け取って、飲み干した。極めて苦々しいその薬は後味は実に爽やかだった。胃に入った後も口から透明感のある感触が続き、確かにそれで多少は気分も良くなった。

「どうでぇ」

「ああ、効くなこりゃ」

「こんでしばらくすりゃ、もっとよくなる」

「すまないな」

 船長の言葉に、ヴァシリは感動を覚えたが、船長は続けて、

「そんで連れの姉ちゃんを止めてくれ」

 と言った。どこの世界も、ただより高いものは無いらしい。



「少佐!」

 産まれたばかりの小鹿のように足を震わせながら、ヴァシリはオリガに声をかける。雑談でどうにか気を引く算段だ。あたかも海の怪物クラーケンのような猛威を振るうオリガと小鹿のようなヴァシリの対決は正視に堪えなかったのだろう。船乗りたちは二人から目を逸らして一心不乱に帆を直していた。

「どうした」

 オリガ振り返る。

「あそこに虹色に輝く何か見たことのねぇ魚が泳いでいます!」

「ほう」

 オリガ船から身を乗り出して水面を探す。当然、そんなわけのわからない魚がいるはずがない。

「どこだ大尉、いないぞ!」

「水面に隠れてしまったようですね。残念です。少佐は動物がお好きなんですか?」

「ああ、と言っても詳しい方ではないがな」

「動物と言えば俺の地元はモスクワでしてね。夏場はよく領地でウサギやキツネだかの動物が作物を食い荒らすんで、困ったもんですよ。少佐はどうです? 地元は?」

「私か? 私はノヴコロドの生まれだ」

 オリガ・アントヴァナ・ペレスベータはロシア帝国南部にある都市ノヴコロドに領地を抱える世襲貴族家、三人兄弟の長女である。彼女の父は大軍人で、子供も立派な軍人に仕立て上げようとしたが、長男が熱病で死に、次男は落馬して首の骨を折って死んでしまった。まだ一族が現在のような世襲制を取っていない時代を知る父は何としても子供を軍務に付かせ、そこいらの世襲貴族とは違うというところを見せつけたかった。そこで白羽の矢が立ったのが長女のオリガだった。この長女は兄と同じ熱病に罹っても死なず、次男と同じ馬から落馬しても死ななかった。父親はこの無敵の長女に一縷の望みをかけ、大金やコネを駆使して軍人に仕立てあげたというわけだ。

 ところが彼の望みはあっけなく潰えることになる。オリガは士官学校を最低の成績で卒業し、軽騎兵になったものの「馬をもっと早く走らせる方法だ」と言って馬の尻尾に火を点けたのがいけなかった。

 次の日から厩舎の馬はオリガを避けるようになり、目を合わせず、無理やり乗ってもペタリと地面に座り込んでしまう有様となった。馬という生き物には不思議なネットワークがあるのか、別な部隊の厩舎の馬も、野生の馬でさえ彼女を避けるようになってしまった。

 馬に乗れない騎兵が騎兵としてやっていけるはずもなく、また馬の尻尾に火を点けるような暴挙は騎兵として問題があった。オリガは歩兵に格下げされた挙句、シベリアへ飛ばされることになったのである。士官学校を卒業した生徒の階級は少尉から始まるが、オリガはヴィーチェ・ドラスク駐在の新しい駐屯兵長として特別に少佐へ昇進した。だが都市部と違って人の少ない辺境の地で少佐の階級に何の意味があるのだろうか。階級を誇示できず義務ばかりが増えるこの仕打ちを、どうもオリガ本人は理解できていないらしい。

「三階級特進は異例なんだぞ!」

 オリガは素直にこの偉業、もとい異形の昇進を素直に喜んでいるのを見てヴァシリは先が思いやられた。オリガが酒に酔わないのは、脳が無いからかもしれない。

 


 そうこうしている内に三日が経って、ヴァシリとオリガはトムスクという町に到着した。そこから更に馬に乗って東はクラスノヤルスクへやはり三日かけて辿り着き、そこから再び船に乗ってエニセイ川を下流へ向かって進んでいくことになる。そこからヴィーチェ・ドラスクまでは北へ一直線だった。船乗りたちはマストに帆を張って、パドルを漕ぎ、順調にヴィーチェ・ドラスクへ向かって突き進んでいく。

 クラスノヤルスクを出発して二日目、その日の昼過ぎまでには、二人はヴィーチェ・ドラスクの停泊場へ辿り着くことが出来た。ヴィーチェ・ドラスクの村へは岸へ上がり、針葉樹林の森を、もう少し北へ行かなければならなかった。背景には木の陰に隠れて切り立った山脈地帯、ドラゴ・ドゥーマ山脈が見えた。

 この世界の地図において、ドラゴ・ドゥーマ山脈から東側は空白となっている。八千メートル峰の山々が、北はカラ海から円を描くようにバイカル湖の北を通り、オホーツク海まで連なっていた。山脈の描く縁の内側へ入ったものは誰もいない。

 ドラゴ・ドゥーマ山脈はその険しさだけでなく、その向こうにはドラゴンの住む世界が広がっていると言われているからだ。無論、単なる伝承に過ぎない。そもそも誰も見たことがないのに、どうしてドラゴンの世界があるなどと言えるのだろうか。しかし現実として、まだ誰も確かめた者はいなかった。

「世話になったな」

 ヴァシリとオリガは船長と船員に挨拶する。

「おう、気を付けてな。この辺はときどき虎とか出るからよ」

 クラスノヤルスクから船を出してくれた船長、船乗りたちと別れ、ヴァシリたちは荷物を背負って村へと出発した。

 桟橋から目的地までは数キロの道のりだった。しかし我々の行く手には道らしきものは存在しない。これはヴィーチェ・ドラスクの村が比較的新しい集落であり、桟橋まであまり人間の往来が無いことに起因するようだった。

 ヴァシリは昨日から吐き続けなのと、二日酔いとで左右にふら付きながら、丈の短い草むらの上を歩いて行った。

 その時はオリガを先頭にヴァシリが後ろから付いく形だったが、後ろから見ると長身と恰幅のおかげでオリガが頼もしく思えた。

 しばらく経って、どうも様子がおかしいことにヴァシリは気が付いた。もう十キロほど歩いているのに目的地にたどり着かない。更に東方にそびえるドラゴ・ドゥーマ山脈の山々が徐々に右手に逸れていく。

「少佐、方向は合っているのですか?」

 ヴァシリが訊くとオリガは疲れを微塵も感じさせない元気な声で「何を言う、まっすぐ進むだけだろう!」と答えた。ヴァシリはがっくりと肩を落とした。

 人間が長距離を真っ直ぐ歩くということは存外難しく、歩いている内に知らず知らずのうちに右へ左へと逸れていってしまう。だから遠くからでも見える目標物を目印にしたり、地図やコンパスを使うのだ。

 ヴァシリは少佐を呼び止めて、地図を広げ、コンパスで方角を確認した。コンパスの東は間違いなくドラゴ・ドゥーマの山々を指していた。どうやら我々は桟橋から左へ左へと逸れていってしまったようだった。正確な現在位置は分からないが、ヴィーチェ・ドラスクはエニセイ川沿いの村だから、まず川を見つけてそれに沿って北へ向かえばよい。

 今度はヴァシリが先頭に立ってヴィーチェ・ドラスクを目指した。するとしばらくして川の流れる音が聞こえてきた。ヴァシリたちは首尾よくエニセイ川へ再び辿り着き、次いで北東へ向かって川沿いに進むことにした。少し進んでいくと森が終わり、水車と塚のような建物が現れた。塚には煙突が立っていて、黙々と黒い煙を吐き出していた。周辺には作業員らしい男たちが休憩している。

「何だおめぇら」

 男の一人が立ち上がって言った。

「ここはヴィーチェ・ドラスクの村か?」

 ヴァシリが訊くと男は「そうだが?」と頷いた。

「トボリスクから来た。ヴァシリ・ヴィクトロヴィッチ・アニシモフ大尉だ。こちらはオリガ・アントヴァナ・ペレスベータ少佐。本日を持ってここに駐屯することになった」

 ヴァシリが説明すると男たちはうさん臭そうな目でこちらを見た。

「トボリスクから来るな波止場から東へ進むはずじゃねーか。距離も近い。なんでお前ら南から来た。まさかこんな単純な道のりを迷ったんじゃあるめぇな」

「………」

「図星かよ、こいつら馬鹿じゃねーの!」

 アハハハハ、と男たちと、何故かオリガが笑った。

「いやオリガ少佐、あなたも笑われてるんですが」

「そこのおっぱいの大きい金髪のねーちゃんも馬鹿そうだね!」

 まだ子供の作業員がせせら笑った。

「何だとぉ!」

 一転、オリガが銃を棍棒のように振り回して男たちに迫った。

「ひぃ! すいませんでした!」

 鬼気迫った様子に男たちがひるむ。意外に小心者の集まりらしい。

「アハハー」

 そんな中で状況を理解しない子供がまだ笑っている。それを男の一人が「コラ」と拳骨を一発かまして「すいません」と頭を下げさせた。

「やめて下さい! 少佐!」

 銃を振り回して男たちに向かうオリガをヴァシリが羽交い絞めにする。暴力沙汰は勘弁だ、住民感情にも影響する。しかし悲しいかな、彼女の怪力にヴァシリはズルズルと引きずられていく格好だ。向かう先は拳骨を食らってもなお、ヘラヘラと笑っているクソガキである。

「あー、そこまでにしてくれる?」

 突然、クソガキとオリガ少佐の間に赤毛の少女が割って入った。

「何だと! 人を小ばかにする子供を躾んでどうする!」

「そう怒らない怒らない。あなたたち軍人さんでしょ? いわば国民を守る騎士様だ。子供の暴言に動揺することもないじゃない?」

「ぐっ………」

 その言葉で少佐の動きが止まる。助かった。

「ところであなたたちは?」

 少女の問いにヴァシリが、

「俺たちはこの村に派遣された―――」

「私はオリガ・アントヴァナ・ペレスベータ少佐だ! ノヴコロドの騎士の家系である!」

 オリガがヴァシリの言葉を遮って言った。

「わーすごい! 偉大な祖先をお持ちなのですね!」

 少女がはやし立てるとオリガは自分であんなことを言いながら照れたように、

「うむ、まぁそうだな」と頬をかいた。

「そうだ、よかったら私が村を案内しようか?」

「うん! 頼む!」

 オリガが頷くと、彼女は腰に飛びついたまま固まっているヴァシリに気が付いて、

「いつまでしがみ付いておる!」と、突き飛ばした。

 ヴァシリは明後日の方向へ飛び、地面をゴロゴロと転げまわり、ようやく動きが止まった頃には船酔いが再来していた。

「大丈夫かい、ヴァシリ、だったか?」

 男たちが心配そうに覗きこむ。

「馬鹿だ馬鹿だー」

 クソガキが笑う。

「シッ!」

 男たちが口に指を立てた。

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