第16話 あやかしランド2

「ちょっとアンズ。何であなたが全部やるのよ?」


 ココが彼女の服の裾を引っ張り小声で何やら抗議している。


「えー、だってご主人様なんだもん。アンズがお世話する」


「だから何あの人を独り占めしようとしてるのよ?」


 あっけらかんと主張するアンズと早口かつ小声で聞き取りにくいココの声。


「そんなつもりはないけど」


 アンズはちらりと俺を見る。


「ちゃんとアピールしないのはココちゃんがいけないと思うよ?」


 こいつらいったい何の話をしているんだ?


「そ、それができたら苦労しないわよ」


 何やらそそのかそうとしているアンズと、できなくて唇をかむココの対比が謎で首をかしげる。


 黙っていてもどうにもならない気がしたので声をかけた。


「おーい、遊園地の中に入ろうぜ」


「はーい!」


 アンズは笑顔で、ココは仕方ないという顔で、ミヤコは感情の読めない微笑で応えてついてくる。


 アンズがぴょんと跳ぶように俺の左を確保して手を握ってきた。


「えへへ、ご主人様と手をつないでみたかったの!」


「いいな」


 たかが手をつなぐくらいと思うが、ワンコだと人間がやるようなことはできないもんなぁ。


 追いかけっこならできたし、アンズの体力すごかったからいつもこっちがヘロヘロになっていたが。

 

「ちょっと……わ、私だって!」


 驚いていたココが競うように俺の右手を手に取る。

 アンズと比べたら小さいが、それもまたいい。


 左手にワンコ、右手に猫と言ったらせっかくのアットホームな空気が損なわれそうだから黙っておこう。


「引率者と子どもたちという感じかのう」


 少し背後を歩くミヤコが遠慮なく台無しの一言を放つ。


「言わなくてもいいだろ」


 ふり返らずに抗議するとくくくという笑い声がまず聞こえ、


「それは失礼した」


 それから全然悪いと思ってなさそうな詫びの言葉が飛んでくる。

 言い合いしてもたぶん彼女には勝てないので、何も言い返さない。


 それよりもあやかしたちが作ったという遊園地が気になる。

 

「ご主人様、どれにする?」


 横からアンズが聞いてきた。


「そうだな」


 と言いながら俺はゆっくりと周囲を見回す。


 目の届くところにあるのはコーヒーカップ、メリーゴーランド、それから観覧車だった。

 

 離れた場所には池か湖もあるらしいが、他に誰もいないらしい。


「ここには俺たちしかいないのか?」


「うん、いないと思うよ。匂いがしないから」


 俺の疑問にアンズが即答にする。


「音もしないし私たちだけなんじゃないかしら」


 ココもそう言った。

 つまりは貸し切り状態というわけか。

 

 遊園地を貸し切り状態で遊ぶなんて未知の経験でちょっとわくわくしている。


「まずはメリーゴーランドから乗らないか?」


 そう提案してみた。


「はーい。こっちだよ」


 アンズがうれしそうに指さす。

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あやかし家族とやすらぎの国 相野仁 @AINO-JIN

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