燦燦。
柊 由香
第1話
僕は小さな約束すら守れない男だ。
「記念日には花束を持っていくね」なんて気前の良いこと言う癖に、当日になればそんなことはすっかり忘れて、隣には昨日の思い出が寝息を立てている。
その横顔を見ながら、少しばかりの後悔と、浮気を繰り返す自分への嫌悪感と共に欠伸で飲み込む毎日。
“小さな幸せが一番大事“なんて周りにはよく言われるけど、僕にとっては記念日だろうと誕生日だろうと、全てがただの日常で、目の前で大粒の涙を流して泣いている君を見ても、正直たいして心は痛まない。
愛しいって感情だけで君は僕を許してはくれないだろうし、嬉しいって気持ちだけでは不安になるのだろう。
さらに言えば、僕が優しくすることすら、もう今の君にとっては無意味なのかもしれない。
だから僕は、君の行きたい場所にどこでも連れて行ってあげるんだ。
だって君は僕にはいつだって純真で、純白で、キラキラと光輝いて見える。
こんな僕でも君が離さないでいてくれるのなら、僕は君の願いを、どんな困難な無理難題でも叶えてあげるって約束する。
僕は君が好きなんだ。
今朝、君と久々に一緒の朝食を食べていると、ふと君が
「これから私たちって、どうなるのかな・・・」
なんて言いだして、だけど僕にとってはやっぱり関係ない事で、今日は誰と遊ぼうかなんて思っていたら、
「今どうでもいい事、考えてたでしょ。」
って、君はそう言って拗ねてしまった。
きっと君にとって僕は、憎くて仕方ないのだろう。
だけど、その感情を持つことも悲しくて、僕がいるのに悲しくなることが君にとっては不満だよね。
だけど、僕は君の、君は僕の笑う顔が好きだから、厳しくなんて言えないしできないよね。
キッチンで洗い物を終えた君が
「ねぇ、ダーリン」
なんて突然言い出すから、僕は驚いてしまったんだ。
だけど、君は続けて
「二人でどこかに出かけようよ。君が手を繋いでいてくれたら、私は君のどんなことでも許してあげるよ。」
なんて言うんだ。
どこに居たって僕は君を探すし、
どこに居ても君は僕を見つけるだろう。
僕らはきっと似た者同士だから、だから僕はLINEで君にメッセージを送ってみたんだ。
『君の行きたいところ、どこでも連れていくよ。ただし、君が僕を離さずに居てくれることが条件』
すぐに付いた既読と、返ってきたメッセージ。
『今日は早く帰ってきてね』
たったそれだけ。
『君のお願いならなんでも叶えてあげるよ。』
また守れない小さな約束をして、僕はLINEの友達リストの中から今日の思い出作りの準備を始めながら夜の街を歩き始めた。
燦燦。 柊 由香 @shouyu0528
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