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「それに、ポインターも今や御堂進の一部だ。どこまで本物を騙し通せるかだろうな」

「騙すだなんて……」

「戦争しているくせに夢を見すぎなんだよ。敵の正体もわからん、自分たちを守る技術も正体不明で、いつか必ず化けの皮は剥がれる」

 まあ、と溜め息と共に言ってタキは背もたれから背を離した。

「その時には俺もめでたくあの世に行っていられたら嬉しいが」

「医局長!」

「はいはい。仕事、仕事……おっと」

 部屋が微かに震えた。どうやら戦闘が始まったらしい。艦の中でも最奥に位置するこの部屋にまで振動が伝わることは稀だった。バランスを崩したホシノは壁にはりついて天井を仰ぐ。

「今日は激しいですね……」

「敵も、何を好き好んで喧嘩しに来てるんだか」

 ホシノはよろめきながらコンソールに戻り、タキの横に立った。

「もし敵に勝てたら、『ミドーの海』を使わずに済むようになるんでしょうか」

「無理だな。便利な道具を簡単に手放すわけがない」

「戦う必要がないのにですか?」

 タキはコンソールを操作する手を動かしたまま、ホシノを見ずに答える。

「地球は人類が戻るにはまだ厳しい。戻れたとしても根底から環境を変える必要がある。なら今は宇宙に留まり、生きるしかない。留まるのなら周囲を調査して、あわよくば資源を得ておきたい。その為に宇宙への進出を更に進めなければならない」

 どうよ、とタキに言われ、ホシノは「そうですね」と肩を落とした。ホシノは息をついて体を起こし、端末と窓の表示を見ながら操作を始める。

「いつかしっぺ返しをくらいそうですね、人類」

「もうくらってるだろ」

「じゃなくて、ミドーに、です。御堂君って言った方がいいのかわからないですけど。利用するだけ利用して、私たちは何も返していないじゃないですか」

「向こうは利用されているなんて、思ってないかもしれないぞ。御堂少年をこんな状態にまで貶めてしまった懺悔で動いている、とかな」

「それって、御堂君を人間じゃないものにしたんじゃないか、って生命体のことですよね。どうしてそんな事をしたのかは未だにわかってはいませんけど……」

「わかるわけがない。当事者を閉じ込めたのは俺たちだ。まーそれはさて置いて、少なくとも進んでこっちにしっぺ返ししようとは思わないんじゃないかね」

 ホシノは端末から顔を上げてタキを見る。

「なぜです?」

「現状、そいつがどういう状態でいるのかはわからないが、何にしても御堂進から分かれて無事でいられる保証はない。ほら、隕石が落ちた日を忘れる人間はいないだろ。恨み末代までってな」

「……じゃあ医局長は、人類は報復のつもりでミドーを利用していると?」

「当時はいただろうな。今も多少はいるんじゃないのか」

 ホシノは黙ってタキを睨み付けた後、奥の扉の上にある時計を見上げた。時計の針はホシノの腕時計とは違う時間を刻んでいる。

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