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 その衝撃は半径数百キロ圏、爆風はその倍以上にまで広がり、被害は甚大。更に奥深くまで抉られた大地は大気圏に到達するほどの土煙となって全世界へ拡散、津波、地震などが押し寄せ、「崖っぷち」の人類は突き落とされたのである。

 その一方、最後の一手を隕石という外からの力で押し込まれた人類だが、何もしてこなかったわけではない。もはや元に戻れる分水嶺を過ぎたと察した人類は、地球を脱して種を存続させる方向へ舵を切っていた。それが宇宙への進出である。隕石の墜落によって計画に要する艦や人員を失いはしたものの、状況が計画の中止を許さず、集められるだけの人手や技術や知識を総動員してどうにか実行にこぎつけた。

──その矢先、人類は正体不明の生命体による襲撃を受ける。

「まー……隕石も敵の仕業だって見方もあるが……」

 敵の技術は当時の人類より進んだものだった。宣戦布告も要求もない攻撃が繰り返され、人類はその趣旨と正体を図りかねて混乱、また、圧倒的な戦力差が人類を一歩も攻勢へと立たせなかった。

 防戦一方となる人類へある日、一つの報告がもたらされた──隕石の墜落地点に生存者を発見した、と。

 これまで焦土と化した墜落地点に人の手が入る余地も、そして「何もない」はずの場所をわざわざ調査する余裕もなかった。だが、偵察機が上空を飛行中にあるはずのないものを見つけたのである。

 大きく抉られ、高温で焼き尽くされたクレーターの中心に一人の少年が倒れていた。着衣や姿に乱れはなく、まるで眠っているようだった、と後にパイロットは語っている。

 少年の名は御堂進、近くに住む十四歳の中学生で親類縁者は隕石によって全員死亡していた。外傷はなく、脳や内臓にも損傷は見られない。しかし、彼は発見された当初からずっと、深く眠り続けていた。

 奇妙な発見に学者たちは首を傾げたが、ある時、その眠りに特徴を見出したことが人類にとって活路となる。

「その眠りは彼を中心とした宇宙の観測を行うためのものであり、その際に現れる脳波とコミュニケーションを取ることによって、人類は数日先の宇宙を垣間見ることが出来るようになった……」

 御堂進に関する報告書の一文をタキがそらで呟いてみせ、ホシノはぎょっとした顔になる。

「医局長、そういうの進んで忘れたがる人だと思っていました……」

「お前はどこまで俺を貶めたいんだよ」

「だってうさんくさいっていつも言っていたじゃないですか」

 艦が数隻、窓の下方から上方へと移動していくのを見送ってから、タキは再び歩き始める。

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