しかし、タオルの下からは諦めない声がしつこく響く。

『おーい。いるだろ。聞こえているんだろー……おーいこら』

 声にガラの悪さが溢れ始めた。ミドーは祈るようにタオルを睨み付けていたが、声は一向に諦める様子がなく、むしろどんどん調子づいているようである。呼びかける声から適当な質問、はては独り言まで語りだすものだからミドーはついに立ち上がってタオルをはぎ取った。

 その下から現れたのは古びた鉱石ラジオであった。ミドーは箱を持って椅子に戻り、箱の上部で折り畳まれている棒を起き上がらせて軽く押してやる。すると、棒の上半分がひし形に開いた。それから側面の小さな引き出しを引いて中を確認する。引き出しの中には艶めかしく光る黒い石が入っていた。引き出しを戻し、ミドーは溜め息をつく。

「おはよう。うるさい」

『あ、こら、やっぱいるじゃねえか』

 箱の前面のメッシュ部分からなれなれしい声が響いた。

『人の呼びかけにはすぐに答える。常識だぞ』

「俺にだって選ぶ権利がある」

『ほー権利とはね。そうくるか……いたたたた、わかったわかった、定時連絡』

 声の主の傍に誰かいるらしい。ミドーは安堵の息をつき、応えた。

「本日も良好。詳しい内容はいつも通り送るよ」

『はいよ。良好良好、いいことだ。じゃあ、また昼に』

 また、と言いかけてミドーは思い出す。

「待った待った。そうだ、用紙が足りないんだよ。もう棚にない」

『用紙い?』

 声はしばらくの間沈黙した。数秒後、ざざ、という音の後に声が戻ってくる。

『……いやー、足りないとかないよ。補充したばかりだ』

「でも今朝取ったら、あと少ししかなかったぞ」

 はは、と笑い声がする。

『寝ぼけていたな? もう一度確かめてみろ。本当に足りなければ昼の定時連絡で言ってくれ』

 ミドーはテーブルの端を掴んだ姿勢で箱を睨み付ける。絞り出すような声で「わかった」と告げ、連絡がぷつりと切れると駆け足で二階に上がった。そして机の引き出しを開けて覗きこむ。

「……マジかよ……」

 引き出しの中には真新しい用紙の束が収まっていた。

 ミドーはとぼとぼと一階へ降り、冷めた麦茶を一気に飲みほした。そして大きく息をついてやかんに触れる。まだ温もりがあった。そこから再びマグカップへ注ぎ、こちらも一息で飲み干す。空になったマグカップを持ってしばらくぼうっとし、外から聞こえる音の揺らぎに身が浸かる。外界の音が窓ガラスを叩くごとに、灯台の中で海が広がっていく。

 かくん、と首が落ち、ミドーは目を覚ました。手に持ったマグカップは落としていない。安堵の息をつき、そして辺りを見回してうたた寝の様子を誰にも見られていないことを確認した。誰もいないのだが、時折、見てきたかのように例の声は言い当てる。

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