第8話 会敵②

 しばらくすると、辺りは再び静寂せいじゃくに包まれた。


「行ってみましょう」


 様子をうかがっていた美守理が、私に手招きをした。私も音を立てないよう慎重に後についていく。恐怖を感じているはずなのに、美守理の姿を見ると何故か安心してしまう。早くもパートナー意識のようなものが芽生えているのだろうか。



 ───公園の入り口付近まで来ると、うめき声のようなものが聞こえてきた。


 闇に目を凝らして見ると、十を超える人影が地面に倒れているのが見えた。呻き声はその人達があげているらしい。そして、それを見下ろすように、筋肉質で屈強そうな三人の男達が立っている。


 突然立っていた人物の一人が、倒れている人の腹部を蹴り上げた。鈍い衝撃音がして、蹴られた人物が地面の上を二、三メートル転がっていく。


 筋肉質の男が倒れている人を、容赦ようしゃなく土のう袋のように引きずり回す。蹴られた方は呼吸もままならない様子で、悶絶もんぜつしている。


 このままじゃ死───


「何をしているのかしら」


 不意に美守理が姿を現し、三つの影が弾かれたように距離をとった。


「……巫女プリーストか?」


 顔見知りなのだろうか、美守理の姿を見て三人が警戒を解く。


「ってことは、そっちが調整者コーディネーターか」


 一人が物陰に隠れている私に向けてあごをしゃくる。おそるおそる顔を上げてみると、男の矢のようにするどい視線が私をつらぬいた。心臓をわしづかみにされたかのような恐怖感に足が震える。


「瑠那、倒れている人を介抱してあげて。大丈夫、こいつらに手出しはさせないから」


 美守理が月を見上げながら、私を落ち着かせる様に言った。


 その言葉を聞いた瞬間、かせをはめられた囚人のようだった体が軽くなった。急いで倒れている人達のところまで向かう。足がもつれて転びそうになりながらも、何とか怪我人の元まで辿りつくことができた。


 ……思った以上に怪我がひどい。口から血の混じった泡を吐き、苦悶くもんの表情を浮かべながら涙を流している。私は目をそむけたくなるのをこらえ、怪我人の口をハンカチでぬぐった。


「いったいどういうつもりなの、無暗むやみに人を傷つけるなんて」


 美守理の問いかけに、男が下卑げびた笑いを浮かべる。


「あんたこそどういうつもりだ。どうせを迎えればこいつらのほとんどは死ぬんだぜ」


 他の二人も馬鹿にしたように追従笑いをする。


「どういう結末を迎えるかは、調整者コーディネーターが決めることよ。この愚かな行為を隼人はやとは知っているの?」


 美守理が隼人という人物の名前を出すと、三人は明らかな狼狽ろうばいを見せた。


「こいつ、隼人さんにチクるつもりか!」

「かまうこたあない、俺達でやっちまおうぜ」

「そうだな、その後で調整者コーディネーターをさらい、教育してやろう。正義は我らに有りだ」


 男達が物騒な会話を繰り広げているなか、美守理は月から視線を男達に移した。気のせいか虹彩こうさいが輝いて見える。


が近づいて、小物の気も大きくなっているようね。一つ、いいことを教えてあげるわ。あなた達が抱えているのは正義でもなんでもなく、ただの狂気ルナシーよ」


 三人が美守理から一定の距離をとり、周りを囲んだ。どうやらタイミングを合わせて一斉に飛び掛かるつもりらしい。


 美守理が中腰に構えて、深呼吸をする。そしてあろうことか、なんと目を閉じてしまった。それを好機と悟ったのか、三人が恐ろしい速さで美守理へと飛び───



「ロックンロール!」



 ───反射的に閉じてしまった瞳を開くと、三人の男達は白目を剥いて地面に横たわっていた。そして、その中心に美守理は神秘的なまでにしていた……



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