第6話 決意

  戦争……?


 どこか、遠い外国の話でもしているのだろうか。普段ニュースを意識してチェックしていないので、世界情勢には詳しくないのだけれど……


 美守理は視線を私に据えたまま、口いっぱいにドリアを頬張ほおばっている。


 私は雑多ざったに会話が繰り広げられるファミレスの店内を見回した。家族連れ、カップル、学生、スケベそうなオヤジ、ママ友……色々な人達がいるが、みんな思い思いに休日を楽しんでいるようだ。


 今日も平和だ……


 軽く伸びをした後、美守理を見る。美守理は変わらず私を見つめていた。どうやら私は当事者から逃げられないらしい。


「現実逃避している場合ではないわ」


 いつの間に平らげたのか、空になったドリアの皿をはしに寄せながら美守理が言う。


「まあ、信じられないのは無理もないけれど。あなたはまだ完全には目覚めていない訳だし」

「目覚める……?いったい何の話をしているの?」

「順を追って説明するわ」



───そして美守理が語ったのは、あまりにも衝撃的すぎる事実だった。


「そんな……そんなことって……」


 信じられない───


 そう言いかけて、言葉を飲み込んだ。美守理が言った通り、私のが、それが厳然げんぜんたる事実であることを訴えかけてくるのだ。


「もし戦争になれば、そうね……少なく見積もっても人類の半数は死ぬわ」

 

 つまり約40億人……なんとも馬鹿げた数字だ。過去に起きた戦争による死者数を全て足したものより多いんじゃないだろうか。


「奴隷として使役する分は残すよう神は言われてるわ。けれど過激派の動き次第で死者数はもっと膨らむでしょうね。そう考えると、これは戦争というより、一方的な虐殺と言った方が正しいのかもしれない」


  何の感情も交えず、淡々たんたんと語る美守理に対して無性に腹が立ってきた。自分の役割を果たせれば後はどうでもいいとでもいうのだろうか。


「美守理は何も思わないの?大勢の人が犠牲になるんだよ!」

「それが嫌なら、あなたが止めるしかないわね」

「……どういうこと?」

調整者コーディネーターは、あなたを含めて全部で5人いる。全員の意見を共存でまとめることができたなら、戦争は回避できるわ」

「それなら……」


 私の言葉をさえぎり、美守理が指を一本立てる。


「ただし、期限は約一か月。その日がくれば、神託は実行に移される」



 私は良子や家族の姿を思い浮かべた。大切な人達を、神の都合で無残に殺させたりはしない。



「やるわ。私が必ず、全員の意見をまとめてみせる」


 私は強く拳を握り、戦争を止めることを決意した。




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