「入って入って」


「ありがとう」


「とりあえずシャワー浴びてきたら」


「うん」


「着替え出しとくから」


「うん。うわっ」


「お?」


「ごめんなさい。ありがとう」


「その、ごめんなさいって言うのさ、多いよね」


「安いでしょ。私のごめんなさい。こうやって、ひっしに普通でいたのよ。ごめんね。これからも結構な頻度で使うと思う」


「ふうん」


「それよりなんでこんなところに枕があるの?」


「あ、それ、あなたを変質者だと思って、ちょっとストレッチ代わりに蹴っ飛ばしたの」


「へえ」


「ごめんて。フード引きちぎっちゃって」


「上着なんてどうでもいいわ」


「え、でも」


「高いわよ」


「うわ。五万じゃ足りなかった?」


「高い上着よりも、あなたのほうがいい。一緒にお風呂はいりたいです」


「え?」


「え、だってそういうことでしょ。私に告白したということは。今も私を抱き留めたまま喋ってるし」


「いや、うん。そうだけど、あの」


「一度振った相手と一緒に入るのは、いや、ですか?」


「なんかキャラ違くない?」


「うん。あなたに告白されて。自分から振ったくせにあきらめきれなくて。何度も電話して。そして雨のなかをあなたの部屋まで来たの。そのうえ飛びかかられて。キャラぐらい変わるでしょ」


「ごめんて」


「あなたのごめんなさいも安いわ」


「うっ」


「でも元をただせば私のせいだから。告白されたときに私が一発でいいと言えば、済んだ話なのに」


「あっストップ」


「ん?」


「ごめんなさいは後にして。あなたいつまで枕踏んでるの?」


「え、あ、ごめっ」


「うわ枕びしょびしょ」


「ごめんなさい」


「代わりになってよ」


「え?」


「私の、その、枕の代わりに」


「え、あ、うん。善処します」


「いいんだ」


「なんかね、とっても楽な気分なの。今まで普通とか普通じゃないとか、そういうのを気にしてたのがばかみたい」


「そう。よかったね」


「ね、お風呂。行きましょ。廊下まで濡れちゃう」


「うん」


「うわあ。中までびしょびしょ。乾くかな」


「大丈夫。雨はすぐやむから」


「え?」


「分かるの。風とか雨とか、そういうのを見てると、次の天気が。お風呂上がる頃には太陽出てるわ」


「へえ、そう、なんだ」


「あっ信じてない顔してる。見てろよ」


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普通 春嵐 @aiot3110

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