心霊番組って結構危険(個人の感想)

 僕の家には、霊を感知する人間が、少なくとも2人いる。母ちゃんと僕だ。特別テレビの心霊番組で補給しなくても、毎日家でたーくさん霊と触れ合えている。それはもうおなか一杯に。それでも心霊番組をテレビでやってたら見たくなるのは、一体何がそうさせているのだろうか。




 秋のはじめ。

 まだまだ暑い時期に、心霊番組があるのをCMで知った。

「見ようか」

「うん」

なんで毎日嫌って程本物と触れ合ってるのに、心霊番組は別腹なのか。母ちゃんも僕も、ごく自然に心霊番組を見る約束をした。

 朝だったからCMを見ても怖くなかった。



 心霊番組の何が怖いって、脅かすつもりで映像を作ってるのが一番怖い。霊を見たり感じたりする人ならなんとなくわかると思うけど、普段生活してる中であんなおっかない霊と遭遇する機会の方が少ない。

 長い髪を前に垂らして。貞子みたいに追っかけてくる。呻きながらもたれかかってくる。寝てるときに足を引っ張る。とりあえずよくありそうな心霊現象は、今のとこ未体験ゾーン。


(体の上にのってきて首を絞められるのもないって言いたかったけど、これは実際ありました)


 霊の大半は人間味があるし、表情もそれなりに豊な人が圧倒的に多い。寝室の霊?……彼らは僕の寝姿を見守る係なので、とりあえず直接手は出されてないのでセーフです(?)


 話がそれたけど、僕と母ちゃんときょうだいは、その日の朝心霊番組を見る約束をした。

 そして夜。意気揚々とテレビをつけた。びっくりする気満々!お化け屋敷に入る前ってこんな気持ちなのかなと思っちゃうくらいわくわくしながら、晩ごはんの唐揚げをつまむ。


 心霊番組のすべてが嘘だなんて、僕は言わない。ちゃんと本物もいる。心霊写真なんてのも、大半は「え?」って思うけど、最後の一枚とかはちゃんと本物を準備している番組が多い。

 あと、恐怖映像集も嘘ばかりじゃない。これは、いわくつきの場所にタレントさんが取材をするときも、同じことがいえる。やらせで行ってたとしても、ちゃんと本物が映っている。


 いつも見えたり感じてる人が心霊番組を見ると、見る視点が違う。多分あるあるなんだろうなと思う。

 まず、スタジオ。開始からいる。ゲストとかに、たまに紛れ込んでる。動物の番組はゲストで動物呼ぶでしょ?それと同じです。開始からいます。


 恐怖映像は、見る場所が違う。テレビが「お判りいただけただろうか……」と言っている場面じゃないところで「今いたな?」って場面がたくさんある。母ちゃんも「なんだそっちか」みたいなことを言ってたりする。


 それから、ロケ。はっきり言って、辞めた方がいい。どうにかなっちゃうよ……。山とか城跡とかのロケ、廃病院や学校のロケ。

 前にも触れたけれど、山は土足でウキウキしながら入る場所ではない。「入ります」と心の中で頭を下げるべきだし、草とか虫とか取る時も「(命を)いただきます」と心の中で言った方が絶対にいい。山は人のものではないのだ。

 城跡は実家の戦場跡を見てわかるように、本来のんきに足を踏み入れるべきじゃない。僕は住んでたけど、住むとなると何かあっても「まじか」くらいのスルースキルが必要。


 廃墟は、もともと人が住んでた場所。人が済まなくなった家や建物は、残念だけど死んでいく。建築関係の父ちゃんが「人が済まないと家は死ぬ」って言ってたが、それは本当だと思う。あまり父ちゃんを心から尊敬するタイプではないけど、この時はなんていいこと言うんだと思った。


 廃墟に霊が住む理由。その真相はよくわからないけど、たぶん人が住んでないからじゃないかなと思う。生きてる人間も、空き家や空き部屋に引っ越すでしょ?あれと同じ。だから、廃墟に入るってことは、人の家に土足で入っていくようなものだと思っている。怒られたって仕方がない。


 心霊番組そのものが、結構リスキーだよな。なんて、視聴者側だからのんきに思う。



 ふと気が付くと、心霊番組そのものがテレビ欄から消えていた。いつどのタイミングでなくなったのか、よくわからない。多分出演者も危ない目に遭ったんじゃないだろうか。



 みたいなことを偉そうに言っているけれど、心霊番組を見るってことはこちら側にもそれなりのリスクがある。

 部屋に霊が集まってくるのだ。家族4人でちょうどいい居間なのに、心霊番組を見ていると霊が集まってきて、ぎゅうぎゅうパンパン、部屋の中が満員御礼状態になったことも多い。そこまでしてどうして心霊番組を見てしまうのか、未だによくわからない。



 心霊番組を見た後。事故にあったとか、金縛りにあったとか、そんな体験をしたことはない。


 でも、一度だけおかしなことはあった。

 テレビを消すと、暗くなった画面に人の姿がうっすら鏡みたいに映るでしょ?自分の姿も映るし、家族の姿も当然映る。


 でもその日、テレビを消したら僕の姿だけテレビに映っていなかった。

 目の錯覚かなと思ってテレビに向かって手を振ってみたけど、どうしても僕だけ映らない。知らぬ間に命絶たれているのか……?と思ってみたが、今の今まで母ちゃんと話してたから、きっと生きてる。でも消したテレビ画面には僕だけが映らない。


 なんでだろう。と、心の中で芸人さんの歌が浮かんだし、何ならちょっと歌った。

 何がどうなってるのか、何かマジックでも起きているのか。不思議でならなかった。じっと画面を見つめていると、廊下を誰かが歩いてきたのが見える。居間には、現在僕しかいない。母ちゃんは洗い物をしていたし、きょうだいは家のどこかに散っている。父ちゃんは単身赴任で帰宅してない。


 見てすぐに、戦時中の人だとわかった。軍隊の服を着て、大きな銃を担いでいる。銃の先にとがったなにかがついていた。その人はテレビに映っているけど、僕は映っていないまま。僕は、テレビの画面越しに彼を食い入るように見つめた。

 というのも、彼がいるのは、僕の真後ろの場所。怖くて振り向けない。

 彼はゆっくりこっちを向いた。首だけ動いていて、あとは棒立ち状態。画面を通してこちらを見た戦時中の男性の霊は、なんとなくだけどうっすら笑っているように見えた。

 息が吸えないほど、体が硬直した。この時、久しく感じていなかった霊に対する恐怖を心底感じたのを覚えている。


 こっちに来るか?どう逃げる?振り向けるのか?いや、できない。でも逃げないと、このままじゃいけない。どう逃げる……


 頭の中が、パニックになりかけていた時だった。


「お風呂入ってよ?」


 母ちゃんの声がして、ハッとした。振り向けば、いつもと同じ母ちゃんがいて、普段と変わらない居間の中にいる。

「何やってんの」

消えたテレビを食い入るように見ていた僕を、母ちゃんは怪訝そうに見ていた。

「……いや。なんでもない」

今あったことを言おうとは思えず、僕はさっさとお風呂の準備を始めた。


 彼がいた場所は、やっぱり何もない。濡れてるわけでもなければ、何かが落ちているわけでもない。何事もなかったかのように、日常が過ぎていく。


 彼が我が家に現れることは、あれ以来なかった。心霊番組も、あの日以来実家で見ていない。

 僕はあの経験でこりごりだと思った。心霊番組は結構危ない。いろんなものを吸い寄せる。気を付けた方がいい。


 そして翌朝。

「昨日、お母さん寝てるときに、大勢から踏まれたんやけど」

寝不足の母ちゃんが、あまり普段しない自分の心霊体験を僕に語ったのは、今でも鮮明に覚えている出来事のひとつになった。


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