第173話 やり直し

メ「起きて、お兄ちゃん!」




まるで恋愛ゲームに出てくる従妹役のような感じの声がする……。あれ、この声は……。




レ「メィル! 無事だったのか?!」




慌てて起き上がり、辺りを見回してみると、そこは6畳一間のマンションの一室のような部屋だった。そして、小さなメィルがちょこんと座っている。ここは、メィルの部屋か? 一緒に転移したはずの皆はいったいどこへ行ってしまったのだろうか? まあ、前回はたまたま俺と弥生が同じ場所に居ただけで、アヌビスもイルナも元の居場所に戻っていたようだし、今回もそういうことだろうか。




メ「なんで私の名前を知っているの? 生き返らせたばかりなのに。」


レ「生き返らせた? 俺は死んでいたのか?」


メ「うん、お兄ちゃんは電車にはねられて死んだんだよ。それを私が練習の為に生き返らせたの。」




メィルは指を鉄砲の様な形に変えると、パーンと撃つマネをする。いや、電車にはねられたのであって撃たれて死んだわけではないだろ? って、そもそもさっきクロノス様に転移させられたばかりのような?


自分自身に鑑定をかけると、やはりステータスはそのままで、電車ごときに殺されるような肉体じゃない。




メ「お兄ちゃんは何で私の名前を知っているの? 実は私って有名人? それとも、お兄ちゃんが女神ストーカー?」


レ「女神ストーカーってなんだよ?! 転移出来るやつをストーカーするとか無理だろ!」


メ「えっ、やけに詳しいね。よくわかんないけど、それならなんで私の名前を知っているの?」


レ「誰かに教えてもらったような……誰だったかな? 地球の女神様だったかな?」




今更だけど誤魔化す事にする。さすがに何でも知っていては不審がられる気がするからな。




メ「あっ、女神様の知り合いがいるんだね。それなら改めて自己紹介するね、私はメィル=ルシフィルって言うの。まだ見習い女神で、女神になるための試験中。試験には異世界人が必要なんだけど、地球ってところ見てたら電車事故があって、丁度いいやってね、てへっ。」




メィルはくるくる無駄に回った後、ほっぺたに右手の人差し指を当て、舌をちょっとだして、左手であたまをコツンとたたいた。この流れは前回と一緒だ。違うのは、メィルのフルネームを知った事くらいか。




メ「それでね、お兄ちゃんにはダンジョンをクリアして欲しいの。私が女神になるために。」




メィルは目をきらきらさせながら、両手を胸の前にグーでもってきて、いわゆるぶりっ子ポーズをとっている。


あの世界の出来事がこちらでも起きるのなら、いずれメィルは悪魔に連れ去られてしまう。俺に出来ることは、それよりも先にメィルを女神にしてやる事だろう。




レ「分かった。ダンジョンをクリアすればいいんだな。」


メ「いいの? やったぁ! そうそう、私も神の端くれだから、能力を付けれるよ!」


レ「能力ってどんな能力だ?」


メ「それこそ自慢じゃないけど、まだ見習いだからね! あなたに付けてあげられる能力は一つだけ。ダンジョンで最初に倒したモンスターの能力を得る能力よ!」




メィルは真剣な顔で、顔の前に右手の人差し指だけ立てた。




レ「最初に倒したモンスターの能力……。」




メィルはビシッと俺の額に立てていた指を当ててきた。額に光の波紋が広がると、これで能力付与終了よ! と言った風にドヤ顔のまま腕を組む。前回は分裂だったが、それはもうすでに持っている。まあ、それは後々考えるとしよう。




メ「あっ、能力を得たから、もう地球には帰れないよ。」


レ「ああ、それは大丈夫だ。」


メ「珍しいね? 大抵、未練がーとか、親がーとか言い出す人が多いって聞いてるのに。大丈夫なら、さっそくはじまるのダンジョンへ行こう、お兄ちゃん!」




メィルは前回とは違い、一緒にダンジョンへ向かうようだ。自分で転移できるけれど、今回はメィルの転移で一緒に転移する。見慣れたダンジョンの入口だ。メィルはインターフォンに向かって飛んでいき、インターフォンを押す。




ラ「はい、こちらはじまるのダンジョン受付のラヴィです。お名前とご用件をお願いします。」


メ「メィルです。見習い女神の試験を受けに来ました!」


ラ「あらメィル、人材が見つかったのね? 今、扉を開けるわ。」




扉が開き、慣れた足取りでフロントへ向かうと、やはりラヴィ様が居た。その姿を見た瞬間、色々な事を思い出してウルッと来てしまった。バレない様に涙をぬぐう。




ラ「改めまして、ようこそおいでくださいました。私はラヴィと言います。このダンジョンの受付と、説明役を兼ねております。」




ラヴィは両手を前に組み、丁寧にお辞儀をした。そして、カウンターに置いてあるパンフレットを取る。




レ「あっ、説明は大丈夫です。それより、弥生もこちらに来ていますか?」


ラ「いいえ、いらしておりません。 先に来られる予定の方がいらっしゃるのですか?」


メ「え? お兄ちゃん以外の誰も転移してないよ?」


レ「居ないんかい! 俺と同じ場所に居たはずの女の子は?」


メ「後で転移しようと思ってコアを保管してあるよ。私のMPじゃ1回につき一人しか蘇生できないからね!」


レ「すいません、ラヴィ様。ちょっとメィルに話があるので席をはずします。」


ラ「どうぞ。私はそのままカウンターの方に居ますので、ご用件があればまた寄って下さい。」




話がややこしくなりそうなので、少し場所を離れる。弥生はコアになっているらしい。この場合、弥生は死んでいる扱いなのだろうか? 




レ「MPは回復しているか? 回復しているなら弥生を蘇生してくれないか?」


メ「いいよ。じゃあ、アイテムボックスからコアを取り出してー、蘇生! あれ? 蘇生! ……蘇生できない。なんで?」




恐らく、弥生は亜神となったためにメィルよりも格上の判定になっているのだろう。俺の場合は、丁度蘇生した後に俺と入れ替わったのだろうか? ちなみに、俺も弥生と同ランクなので蘇生できないだろう。ラヴィ様に頼めば蘇生できるだろうけど、今の状況を理解してもらえるだろうか? いや、早いか遅いかだけの問題だと思うのでラヴィ様に相談しよう。




レ「ラヴィ様、よろしいですか?」


ラ「はい、どのようなご用件でしょうか?」


レ「このコアを蘇生して貰いたいのですが。さっき言っていた弥生という女の子です。」


ラ「一緒にダンジョンを攻略される方ですか? それならば、決まりとなりますので担当の見習い女神……この場合はメィルが行った方がよろしいでしょう。」


レ「それが、メィルでは蘇生できなかったので。」


ラ「蘇生できないコアですか? 鑑定させてもらってもよろしいでしょうか。」




ラヴィ様はメィルからコアを受け取り、鑑定したようだ。そして、驚いた顔をしてキッとメィルをにらむ。




ラ「……メィル、ちょっとこっちへ来なさい。」


レ「いえ、ここで言っていただいて大丈夫です。大体予想はついているので。」


ラ「そうですか……それでは。まず、メィル。あなた、このコアをどこで手に入れたのかしら?」


メ「え? 普通に電車でひかれた人間2人をこちらに転移させただけだよ? 私はMPが足りないから、コアになった人間の内の一人を先に蘇生しただけで……。」


ラ「嘘……ではないようね。それなら、あなたの勘違いではないかしら? どう見ても、あなたが蘇生できるような人物では……それどころか、電車にひかれた程度で死ぬ人物に見え無いわ。」


メ「えー? それはちゃんと鑑定アイテムで見たから大丈夫だよ。それに、実際私の蘇生で一人蘇生出来たもん!」


ラ「失礼ですが、鑑定させてもらってもよろしいでしょうか? メィルが言っていることが本当かどうか確認したいのですが。」


レ「大丈夫ですよ。そうなると思っていましたから。」




体にゾワリとした感触がしたので、鑑定をしたようだ。そして、ラヴィ様が「やっぱり」と言う風にため息をつく。




ラ「メィル、あなた、本当にこの方を蘇生したの? このコアと同じく、あなたより格上の神よ。どう考えても電車にひかれた程度で死ぬとは思えないわ。あなた、一体何をしたの?」


メ「ほ、本当だもん! ステータスも確認したし、コアになったところも見たし……ぐすっ。」


レ「それには深い訳があるのですが……、ラヴィ様、少し時間は取れますか?」


ラ「そうですね……メィル、あなた私の代わりにしばらく受付をしておいてちょうだい。」


メ「わ、わかりました。」


ラ「それでは、食堂の方へ移動しましょう。」




メィルを置いて食堂へ移動する。今からする話は、メィルには聞かせない方がいいと思うので丁度いい。




レ「結界を張っていただいてもよろしいですか? あと、出来ればはじまる様にも聞いて欲しいのですが。私の話が信じられなければ、アルスリアを呼んでください。」


ラ「そこまでの事なのですか? 分かりました、少々お待ちください。」




ラヴィ様は厨房の方へ入り、はじまる様を呼んできた。さらに、食堂に結界を張る。




は「で、わしと話したいというのはなんじゃ? わしがここに居る事を知っているという事は、ずいぶんとここに詳しいようだな?」


レ「それでは、私が今までに経験した事をお話しします。それが、これからの事に繋がると思いますので。」




俺は自分の体験したことを詳しく説明した。このダンジョンで起きる事、ドラゴンの星で起きる事、魔界で起きる事など。ただ、場合によっては未来が変わる可能性も高いので、クロノス様の事も話しておく。




は「クロノスが関わっているのならば、納得のいく話ではあるが……ラヴィ、どう思う?」


ラ「念のため、アルスリアの記憶同期で確認した方がよろしいかと思います。私は、神界の入口とダンジョン内を確認してまいります。」




その後、アルスリアはここに呼ばれ、記憶の同期を行い、自分の死の体験をして一旦気絶した後、俺が語った事と同じような内容を口にした。緊張しているのか、汗だくで噛みまくっているのは見ているだけで申し訳ないが、俺の事も知ったというか、思い出した事で、一生懸命説明をしてくれている。




は「なるほど。そういう訳だったのか。」


ラ「こちらも、確認できました。ヴェリーヌ様……いえ、ヴェリーヌの巧妙に隠された次元の隙間が確かにありました。」


は「まあ、この時点で出来る事としたら、魔界からコアを持ち帰らない、メィルを女神に戻す、でこの世界は救われるわけか。悪いが、お前さんの世界の助けには成らないかもしれないが、この世界を救う手助けをしてもらえないか?」


レ「はい。はじめからそのつもりです。これは、前の世界で決めたことですので。予想と違って、元の世界ではありませんでしたが……。」


ラ「それなのですが、このままで試験に臨んだ場合、あなたのステータスでは全く試験になりません。そこで、制限をかけさせていただきます。」




メィルが蘇生した以上、俺がダンジョンに参加すること自体はいいのだが、今のステータスで戦っては試験にならないらしい。まあ、今の俺のステータスは下手な女神ランクⅤよりも強いからな……。それに、ただクリアするだけではダメみたいだ。そこを特例で……という訳にもいかないらしく、最終的に一つの案が出された。それは、制限をかけた俺の分裂体に、別次元のダンジョンをクリアしてもらうというものだった。

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ダンジョンクリアで女神に昇神! 斉藤一 @majiku77

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