メアリー・スー(1)
『トマソン達を待っていたのは明けない夜、人気のない都市、無作為に散らばる瓦礫、荒んだ真夜中の中に彼らは立っていた。トマソンはすぐに察する、ここは終わってしまった世界、天より世界の選定から外されたと思われる世界、科学も魔術も文学も芸術も哲学も武術も、そして、平和さえも育まれなかった世界』
「なんて素敵な世界なんだろう、なんて羨ましい状況なんだろう、なんて夢のある物語なんだろう」
「いきなりなんだよ? 頭ばぐったのか? 頼むぜ、てめーが連れてきたんだろ?」
「今までの世界はどれも憧れが強かった、前向きな願いが多かったんだ。でも、人が願うものってそれだけじゃないよね? 性質は真逆なのに、それもまた人へ力を与える……帳の分野で話すなら陽ではなく陰に位置する感情、なんて絶望的な世界、なんて惨たらしい展開、なんて救いのない結末、あぁ、それに比べたら自分はなんて恵まれているんだろうって、自分よりも酷い目にあっている人がいればいいと、ただただ誰かを
「なるほどな、だからこそか」
「うん、きっとここがツクヨミの為の世界なんだ」
二人の会話が頭に入ってこない。
大きく変化してしまった価値観などから生じる乖離現象がノイズのように精神へ影響を及ぼす場合があると、そう教えてくれた友人の言葉は思い出せるのに……名前が思い出せない。
『辺りは静寂に包まれている、だからこそ……トマソンはスーの様子がおかしいことに気付いた。振り返ると彼女は呼吸が乱れていて、焦点もどこか定まっていない。今にもその場で倒れてしまいそうだ、トマソンは視界の隅に錆びついたフェンスを見つけると彼女を支えながら移動し、フェンスへ背中を預けるようにして彼女を座らせた』
「スー、苦しそうだけど大丈夫?」
天の声から肉声に切り替えて、トマソンが私に言葉をかける。
「あの……トマソン……私……」
「うん、わかってるよ、スー。苦しいんだよね? 僕はどんな逆境でも主人公だから大丈夫だけど、理想に依存する君には、この世界は息苦しいはずだ」
「おいおいおい笑えねぇ、全然笑えねぇよ、そいつが戦闘は何とかしてくれるって聞いてたんだぜ?」
「僕は反対だったんだ、安心してよ、戦闘なら僕がいるじゃないか」
「俺が数に入ってねーなら、ぶっちゃけそこらへんはどうでもいーわ」
「ねぇ、スー……僕の傍に居てくれるのは本当に嬉しいんだ、でも、それで君を失ってしまうのは悲しいよ」
『それはトマソンの本心から出た言葉だった、彼女とは長い付き合いだ、そして、今でも味方で居てくれる唯一の仲間だった……どうすれば彼女を失わずに済むのか考える、この世界ではまだ何が起こるか分からない、戦闘が起きてもトマソンは自力で何とかできる』
「スー、君にお願いしてもいいかな?」
収まらない動悸、ただ黙って頷いて見せた。
『倉橋帳は呆れているようだった。だが、トマソンは理想少女の彼女にもっと相応しい場があるとして説得し、スーをこの世界から離すことを決意する』
「大丈夫、僕らはまた必ず再会できる。僕が主人公なんだから、必ずだよ、安心して」
『スーは頷いてくれる』
「たとえ世界が終わっているとして、もし救世主が現れればまた蘇るかもしれないとして、その為に異世界からやってきた誰かが主人公になる必要があるとして」
『
「それは
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