幕外 ガールズトーク
雨頃心春(1)
「じょじかいー」
「わーどんぱふ」
「ところで
「たぶんじょしかい、女児ではなく女子、女の子で集まって美味しいもの食べたり飲んだりしながら、なんかわいわいお喋りする感じです、たぶんきっと」
秋葉原のジャンク通り、器用に詰め込まれたビルだったりビルだったり、あとビルに紛れたビルの地下には、なんと魔王城があります。まるで迷宮、でも安心、最近のゲームは親切設計だからね、ナビゲートしてくれるんですよ、具体的にはお姉ちゃんが魔王城の上の上、雑居ビルの二階でお店をしているので、心春はカーナビよりもストレスフリーな道案内をお約束できます。
次は右折です、ここは左折です、信号は一時停止です、ここのコンビニでは立ち読みできません、なんて先輩面しても瞳をきらきらさせて律儀にリアクションを返してくれるお友達二名。
そうです、心春はいま、
ふわふわと羽毛のように軽やかな黒い長髪、星屑をちりばめたような大きな瞳、溌剌とした印象を強めるオーバーオール、そして……店内の天井を覆い尽くすほどの圧倒的な星空を後頭部付近から容赦なく広げている夜空ちゃん。
淡い金色の髪の毛をツーサイドアップにして、贅沢にフリルをあつらえた暗色気味のワンピース(お姉ちゃんと旺磨さんの仕業らしい)を違和感なく着こなす朔ちゃん……なぜか袖を男前にまくり上げているけど。
二人とも、とびっきりの美少女で、そんな可愛い子ときゃっきゃできること……これを青春と呼ばず何と呼びますか?
心に春が訪れ、ようやく立派な心春になれた気分です。うん、うまいこと言えてるようで全然そんなことないので口には出さないでおきましょうか。
「それでは記念すべき第一回のトークテーマは、MP……なんてどうでしょうか?」
「わーどんぱふ」
……あれ? 五十メートル走と十キロマラソンぐらいは心春の思ってる女子会とかけ離れてそうなテーマが夜空ちゃんの口から飛び出し、それに対して朔ちゃんは感情がすっぽり抜けた、ゲームのNPCが同じ台詞を繰り返すような反応。
ペース配分を見誤ると、後半息切れして女子会からリタイアかぁ? なんて脳内心春の実況がよくわからん忠告をしていますが、正直心春はこうしてお友達と青春を満喫できるのが楽しくて仕方がない状態です。理性溶けてます。
「う、うぇーい、夜空ちゃん、MPって?」
「そりゃあもちろん、
と、話題の中心になりました旺磨さんへ三人がほぼ同時に視線を向けます。
魔王城の店主さんは心春たちの関心が自分へ向けられていることに気付いてか、グラスを拭く手を止めて、カウンター越しにひらひらと手を振ってくれました。
「MP低そう」
爽やかな笑顔を返してくれた旺磨さんへ辛辣な評価を下す朔ちゃん。
「蒼ちゃんは……どう?」
心春が名前を挙げると、夜空ちゃんと朔ちゃんもつられて旺磨さんの近くに立つ蒼ちゃんへ視線を移します。
ちなみに男です。でも、夜空ちゃんが彼のことを蒼ちゃんと呼ぶので、心春たちの間ではちゃん付けがすっかり定着しています。
蒼ちゃんは光の粒子を漂わせた綺麗な蒼い長髪をツインテールに結んでいて、スカート丈の長いメイド服に身を包んでいます。
しかし男です。どうやら夜空ちゃんとの約束に原因があるらしく、めっちゃくちゃ機嫌悪そうな表情をこっちへ向けています。離れてるのに舌打ちがマシンガンよろしく聞こえてきそうです。
「蒼ちゃんはもちろん満点」
「確かにあの表情は魔王って言われても納得かも」
「
「あ、あれー」
「蒼髪ツインテ毒舌ツンデレ男の娘メイド……業が深い」
突然、テーブルががたんっと悲鳴を上げて、見ると注文していた飲み物やらパンケーキやらが出現していました……パンケーキは二段目がずりおちてて、旺磨さんがなにやらチョコソースでメッセージを添えてくれていた気配がありますが、ずりおちたパンケーキで潰れて解読できません。
「蒼ちゃん激おこ」
「配膳放棄だ! 全部転移でこっちに飛ばしてきた! 蒼ちゃんこっち来てよ!」
夜空ちゃんが手招きすると、唾を吐く真似をして露骨に不機嫌アピールを見せながら、でも優雅な足取りで心春たちのテーブルまで近寄ってきます。
「おかえりですか? 出口はあちらになります、さぁどうぞ、さっさとどうぞ、いますぐどうぞ」
「まだ来たばっかだけど!?」
「君の星空が周りのお客さんの迷惑になっていますので、旺磨が出禁にしろと」
「旺磨さんいっつも褒めてくれるもん! ほら、流れ星だってできるし!」
「つかさとお泊り、つかさとお風呂、つかさとこたつ」
「朔ちゃん、流れ星は同じ願いごとを三回だよ」
「そうなんだ……つかさとこたつ、つかさと、あ、間に合わなかった」
欲望フルアクセルの朔ちゃん、言い争いを続ける夜空ちゃんと蒼ちゃん。
想像してた女子会とはかなり違いますけど、それでも、心春はお姉ちゃん以外とこうして自然に話せるのがとても嬉しくて……楽しくて……
「あぁもう眩しすぎて目が潰れそうです」
「小春ちゃん!? いきなりどうしたの!?」
「私は実際、目が潰れたけど」
そう呟きながら前髪を手でかきあげ、隠れていた片方の目……を覆い隠す白い眼帯を晒す朔ちゃん。
「あばばばずみまぜん! 朔ちゃんゆるじでぐだざい、そんなつもりでばばば」
「心春が濁音だらけ、ジョークだから、気にしないで」
「これが本当のじょじがい、なんつって、やかましいわ」
「へー窒息しそうなほどくっそつまらないですね、殺人未遂で警察呼びましょうか?」
「蒼ちゃん、そんな褒められるとてれます」
「褒めてないんだよなぁ!! てめぇの翻訳機能ばぐってんのか!? それとも脳みそ全部星空に溶かしてんのか!?」
「そういう言い方よくないと思いますが!?」
夜空ちゃんも朔ちゃんも色々な問題を乗り越えて、こうして自然に笑える(疑問形)ようになったんだと、お姉ちゃんからちょっとだけ事情を聞いていました。
二人にとっても、このひと時が……辛い過去を上書きできるくらいにとまでは言えないですけど、でも、かけがえのない時間になりますように。
心春は心からそう願うのでした。
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