第二十七幕 二度目の狩り
しばらく歩くと町の出口の一つにたどり着いた。
明るい町とは対照的に門をくぐると窮屈から解放された代わりに一気に暗くなったような気がした。
空は一面星空で上だけでなく横にも黒が広がっている。
門の前には他の渡り狼の集団が止まっており、何か話し込んでいた。
ザラはその渡り狼たちに話しかけた。
「ねぇ。あなたたち狩りに行くの。だったら一緒にパック組まない?人手は多い方がいいでしょ。」
「ああ、お前みたいなガキがか?」
三人の渡り狼たちは自分たちと少しだけ年が離れているみたいでなんだか粗暴な印象を受けた。
「実力なら問題ないわよ。私五年も渡り狼やって狩りも慣れてるのよ。だから安心していいわよ。」
「それは本当か?」
「ええだから言ってるじゃない。」
彼女は腰のホルスターから銃と精霊銃を取り出してそれを手で回し出した。
三人の渡り狼たちは顔を近づけて自分たちに聞こえないように話し込んでいる。
そして話終わったようで渡り狼の一人が答えた。
「ああ、いいぜ一緒に狩りに出ようぜ。」
男はにやにやした顔をしていた。
その顔を見てなんだか自分は嫌な予感がした。
そして再び自分たちは夜の世界に身を乗り出すことになった。
連なる鉄馬の快音は丘の静寂を切り裂きながら進んでいる。
みんなが精霊灯を消した頃、アニマも精霊灯を消した。
しばらく走らせていると隣で並走していたザラが隣につけてきた。
「話に聞いた通り、あんたが運転して後ろのアニマが撃つのね。」
「ああ、そうだぜ。なぁ、ところでよ。」
「ん?何よ?」
「あいつら何だか怪しくないか?なんかよからぬことを考えてそうな顔をしていたけど。」
「そうね。それがどうしたの?」
「呑気なやつだな。もしなんかあったらどうするんだよ。」
「渡り狼は狩りに出る時は悪い顔になるもんなのよ。」
ザラも口を薄く広く釣り上げて、悪そうな顔を作った。
「いや絶対狩りとは別のこと考えてるぜ。」
「だったらあんたの肩に提げてあるものの出番じゃない。」
「肩に提げてるって銃の出番か?それは・・・。」
「何怖気づいてんのよ。そのための銃でしょ。」
彼女は特段それの意味していることに深く考えてないようだ。
「ああ・・・。でも三人は俺にも無理だぜ。」
「安心しなさいそれなら私の出番よ。」
彼女は不敵に笑った。
彼女のその不思議な自信がどこから出てくるのか自分にも分からなかった。
前を走っている三人を見た。
三人は背中しか見えず顔を見ることはできなかった。
しばらく進んでいるいると前から叫び声が聞こえた。
「いたぞ!」
緊張が走る。
最初の狩りと同じような張り詰めるような感覚。
鉄馬の舵を握る力が強まっていく。
「さぁ、踏ん張りなさいよ。」
隣につけていたザラが離れた。
目の前に注意すると自分とは倍ほどの大きさの悪魔が迫っていた。
霧の村の近くで見たものとは小さかったが緊張が起きないわけがなかった。
「アニマ。頼むぞ。」
「ええ。」
後ろからかちゃりと金属音がして仄かに光った。
隣のザラに目をやると腰の部分がかすかに光を放っているのが遠くから見えた。
最初は前から激しい閃光、そしてすぐさま自分の後ろから光が通りすぎていった。
様々な色の光が闇を切り裂いて悪魔に殺到する。
そして弾のいくつか悪魔に命中した。
弾丸の一つ一つが鉄の弾丸を通さないような筋骨隆々とした肉体を貫いていく。
悪魔は大きなうめき声を上げて身体を大きくよろめかせた。
「おいクソガキ!お前一つも撃ってねぇじゃねぇか!」
前から怒鳴り声が聞こえた。
その声はザラに向けられたものだった。
彼女は何故か攻撃に参加していなかったのだ。
彼女の精霊銃は光を放っているがまだホルスターに入っている状態だった。
彼女はまだ鉄馬の舵を握っている。
「お~い。なんで撃たないんだよ。」
自分は声を上げて、ザラに質問した。
ザラは自分の声が聞こえていないのか前に集中している。
すると前の鉄馬が全部後ろに下がってきた。
「お前らしっかり働けよ!」
そう怒鳴りながら下がってきて完全に列が逆転してしまった。
目の前には悪魔が迫ってきた。
するとザラが加速してそのまま悪魔に突っ込んでいった。
「ザラ!危ないぞ!」
自分はザラに向かって叫んだが叫び声さへ彼女に追い付かない。
アニマの精霊銃が発射されたが弾丸は悪魔に当たることはなく通り過ぎていった。
「ザラさん!逃げてください!ザラさん!」
アニマも懸命に叫んでいるがザラに聞こえていない。
ザラも悪魔も互いに道を譲る気はないかのように互いに真っすぐ直進している。
このままだと二人も衝突してしまう。
それにもかかわらずあろうことかザラは鉄馬の舵を思いきりひねり速度を上げたのだ。
「ザラ!」
自分も鉄馬の速度を上げてなんとか並走をしようとした。
ザラに近づいていき、ようやく彼女の顔を見ることができた。
その時彼女は何も怖がっていないどころかにやりと口を尖らせた。
そして自分たちを置き去りにしてしまった。
次の瞬間、アニマと悪魔が衝突。
すると同時に激しい光を放った。
ザラは衝突することなく紙一重で躱し、通り過ぎて、急旋回して鉄馬を止めた。
悪魔の方はそこから数歩よろめくように歩くと倒れてしまった。
近付いてみると悪魔の頭は吹き飛んでいて黒い淀みを吐き出していた。
彼女を手を見てみると片方は鉄馬の舵を持っているがもう片方はいつの間に抜いたのか光を放つ精霊銃が握られていた。
「どう仕事したでしょ。」
自分の他の渡り狼も何が起きたか分からない様子だった。
そして一人が声を上げた。
「あぁ、確かにガキにしてはいい腕してるじゃねぇか。」
「そうでしょ。」
彼女は握られた精霊銃を回すとホルスターに収めた。
そして彼女は腰に手をあて態度をでかくした。
全員が悪魔の死体の元に集まり、渡り狼の一人が精霊結晶を回収した。
出てきた精霊結晶は濁った白色で微かに透明色だった。
「あら、透明色ね。まず味ね。その分簡単だったけど。」
「ああ、そうだな。」
「まぁ、いいわ私たちはちゃんと仕事したわ分け前を分けて頂戴よ。」
「ああ、分け前ね・・・。」
渡り狼は一人だけにやりと怪しい笑みを浮かべて自分に向かって顎を突き出した。
すると肩に提げてある霧狼を奪われてしまった。
「な?!」
どうやらさっき顎を突き出したのは自分の後ろにいた渡り狼たちに合図を出すためだったらしい。
「きゃっ?!」
アニマの短い悲鳴が聞こえた。
横を見るとアニマも別の渡り狼に夜梟を盗られてしまったようだ。
「おい!何すんだよ!」
自分の霧狼を取り返そうと後ろを振り返ると目の前に大きな穴が口を開いていた。
これは穴じゃないこれは銃口だ。
「動くなよ。悪いようにはしねぇ。お前ら全員荷物を置いていきな。」
男は舌なめずりをし、陰惨に微笑んだ。
恐れていたことが現実になってしまった。
第二十七幕 二度目の狩り 完
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