第二十六幕 人形が怖い人形少年
「ええ、今は私は渡り狼アニマですよ。」
彼女は堂々と答えた。
「あら、そうなのね。私はネモに頼んだつもりだったのだけれどあなたも行くのね。」
「はい。」
「ネモが運転して私が精霊銃を撃つのですよ。」
「どうゆう事?」
「俺は精霊が使えないんだよ。」
頭痛を抑えるように頭に手を当てて答えた。
ザラは自分を見た。
彼女は自分の言葉に驚いた様子だった。
「精霊が使えない人なんて始めてだわ。」
彼女は自分に近づいた。
自分は少しだけ後ろに後ずさったが遅かった。
「あんたが手だけじゃなくて顔は仮面を被っているの?」
彼女は自分を舐めまわすように回りながら自分の身体を検分していた。
「あなた頭は義体なの?」
「いや全身だよ。」
諦めて白状した。
彼女は少しだけ目を見開いた。
「驚いたわね。身体全部が義体の人なんて始めて見たわ。あなたも月都の人なの?」
「いや俺は今住んでいた場所は違うけど昔月都に住んでいた。」
「なるほどね。月都の技術なら合点がいくわけじゃないけど納得だわ。」
彼女は興味深々で自分の身体を見ていた。
「精霊が使えないのはどうして?」
「それは・・・。俺の唯一残っている身体は精霊だけだかららしい・・・。」
「へぇ~。面白いわね。まぁ、いいわ。一緒に狩りに行きましょ。」
「ええ、よろしくお願いします!」
アニマが笑顔で答える。
「ああ・・・。よろしく・・・。」
自分は顔を逸らして不満げに答えた。
「さっそくドッペルマイスターの所に行きましょう。」
彼女に連れられてドッペルマイスターの作業場に行った。
町のドッペルマイスターの作業場は村とは違って少しだけ立派に感じた。
中は灯りがついており、広さは村とは大差ないが椅子や机は多少豪華に作られており、足の部分や背もたれの部分に精巧な意匠が施されている。
机の奥にはやはり椅子にだらんと生気がないように座っているドッペルマイスターがいた。
ザラは作業場の扉の外で待っており、作業場はアニマと自分だけだった。
自分は鞄から手紙帳を取り出し、頁を一枚取り外してアニマに渡した。
アニマは身体から自分の精霊を出して、村の時と同じように何も入ってない灯りのような硝子の入れ物に精霊を入れた。
入れ物に繋がっている管から精霊から漏れ出ている光を吸い取ってドッペルマイスターの方に流れていく。
それはまるで川の流れか身体を動かす血液のようにも感じる。
ドッペルマイスターはびくりと身体を動かして生気を得たように身体を姿勢正しくした。
二度目も同じ光景を見たが慣れない。
自分と似ている動かないものが突然動き出すのはなんだか少しだけ不気味だ。
「アニマはドッペルマイスターが動く時って怖くないの?」
「そうですか?私は別に可愛いと思いますけど。」
「そうか、なんか襲ってきそうで怖いなと思うんだよな。」
アニマはドッペルマイスターに頁を手渡した。
ドッペルマイスターは頁を受け取ると片手に持っている止まり木で恐ろしい速度で字を書き始めた。
「人形が人を襲うわけがないじゃないですか。」
「それもそうなんだけどな。やっぱ最初の印象の良くないからそれを引きずってるのかもな。」
「そうですよ。ネモも仲良くして下さい。」
彼女は手を添えて笑った。
「仲良くって生きてないやつにどう仲良くするんだよ。」
「仲良くするっていうのは例えですよ。そうですねお話してみるのはお話して怖さを和らげるとか。」
「なぁ、ドッペルマイスター。なんでそんなに字を書くのが好きなんだよ?」
ドッペルマイスターは丁度書き終えたようで自分たちのほうに頁を突き出した。
やはり聞こえないていないのだ。
アニマはそれを受け取って精霊を戻した。
そしてドッペルマイスターは再び最初のだらんと姿勢に戻った。
さっきとは対照的に抜け殻のように萎れているように見えた。
「ほらやっぱりこいつと仲良くなれそうにないよ。」
「そんなこと言わないで上げてください。さぁザラと代わりますよ。」
そうして部屋を後にした。
作業場を出る途中、ドッペルマイスターの顔を見た、動かなったドッペルマイスターの首が一人でにゆらりと傾いてこちらの方を見た。
自分は薄気味悪くなって顔を逸らした。
「ネモ、どうしたのですか?」
「いや、なんでもない。」
「終わった?」
作業場に寄りかかって俯いて待っていたザラが自分たちが出てきたことに気付いて顔を上げた。
「ええ。」
「そう。じゃあ、私の番ね。少し待って頂戴。」
ザラは扉の奥に消えて、扉が閉まった。
「やっぱ仲良くなれねえな。」
誰にも聞こえないように呟いた。
しばらくするとザラが戻ってきた。
「お待たせ~。待った。」
「いや待ってないよ。それよりお前なんも無かったのか?」
「ん?作業場でなんかある訳ないでしょ?」
「それもそうだよな。」
「なんかあるって逆に何がある訳よ。」
「例えばドッペルマイスターが勝手に動いたりとか?」
「あんたも同じようなもんでしょ。まさか人形が怖いの?」
彼女はにやにやした様子で見つめた。
「そんなことは・・・ねぇよ。」
「やっぱり図星ね。」
「さぁ、行くわよ。」
自分たちは作業場を後にした。
「ネモ、ネモ。」
「ん?なんだよ?」
アニマが自分の肩を叩いてきた。
何かと思って顔を横に近づけるアニマが耳打ちしてきた。
「もし作業場に行く用事があったら私もついて行きますので。それなら怖いないですよね。」
「・・・。うるさいよ。」
自分の顔の色が変わるとするなら今は真っ赤だろう。
第二十六幕 人形が怖い人形少年 完
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