第二十五幕 少女狼
「私の名前はザラ・マンデンよ。よろしく。」
目の前の少女は無邪気に笑った。
「ザラさんですか。私はアニマ・フォン・アインホルンです。よろしくお願いいたします。」
「ザラでいいわよ。あなた年はいくつなの?私は十五なんだけど。」
「まぁ奇遇ですね。私も同じ十五なんですよ。」
「まぁ、やっぱり。」
彼女たちは嬉しそうに顔を綻ばせた。
「ところで。」
ザラが自分の方を見た。
「あなたは誰なの?」
「俺か?俺はネモ・ホフマンだ。」
「アニマは町の子だと思うけど、あなたは渡り狼なの?肩に銃を提げてるみたいだけど。」
「いや、俺は・・・。」
自分が渡り狼と言っていいものかどうか悩んだ。
「私は月都に暮らしていて、ネモに月都に送ってもらっているところなんですよ。」
「月都に?だったらそんな渡り狼じゃなくて教会に言えば保護してもらえるんじゃない?」
「それが・・・。」
「何よ?」
「それで教会に行ったんだけど記録がなくて追い出されたんだ。」
「記録が無いの?月都の子だったら記録を取られるでしょう。」
「それが無いんだ。アニマが何故か霧の村の近くの俺の家の近くで倒れてたんだよ。アニマは月都から倒れた場所までの記憶は無いって言うし。」
「旅行とか仕事じゃないの?」
「いえ。母は教会で働いていて月都から外を出たことはないんですよ。私も何故あの森の中で倒れていたのか見当がつかないんです。」
「そうなの?大変ね。それであなたはこの子を教会まで送っているってことね。大体把握したわ。」
彼女は頷きながら自分たちの事情を咀嚼するように呑み込んでいった。
「まぁ、他の町を当たってみるよ。」
「それがいいと思うわ。」
彼女は両手を組んで自分の方針に頷いた。
「それよりも。」
自分は彼女の手に持っている楽器に視線を移した。
「それ楽器だよな?」
「ええそうよ。ギターっていうのよ。」
「ギター?聞いたことない名前ですね。」
「ああ、聞いたことのない名前だな。」
「それもそうよこれは私のおじいちゃんが作ったものだもの。私のこれ一つしかないわ。」
表面は木で茶色く塗られており上が細長く、下は楕円が乗っかているように作られている。下の部分に穴が開いていて、中は空洞、そして上から下まで糸が伸びている。
その形を身近な例で例えるなら・・・。
「馬の尻みたいだな。」
「何よ馬の尻って失礼ね!」
彼女は怒って、両手に握りこぶしを作って、怒鳴った。
「ネモ。いけませんよ。」
アニマにも諫められた。
「全く失礼しちゃうわよ。」
彼女は不機嫌そうに後ろを向いてギターと呼ばれる楽器を黒い入れ物に戻した。
そして入れ物には紐がついており、彼女はギターの入った入れものを肩に掛けた。
このギターという楽器はなかなか大きい彼女の背丈の半分くらいだった。
いや彼女が小さいのかもしれない。
「それ重くなのか?」
「いや、軽いわよ。あなたも背負ってみなさいよ。」
ザラは自分にギターの入った入れ物を渡した。
確かに彼女の言う通り、見た目ほど重さは感じなかった。
「お前渡り狼なのか?」
「ええ、そうよ。」
彼女は外套を少しだけ広げて自分の腰巻のホルスターに入っている二丁の銃を見せた。
「私は渡り狼として町とか回りながらさっきみたいにギターで演奏をしているの。」
彼女は自分からギターを受け取ると肩に掛けた。
「ねぇ、所であなた渡り狼なんでしょ。一緒にパックを組まない?」
パック。それは霧の村で会ったヨーゼフの言っていた渡り狼が狩りをするために組む集団のことだった。
だが自分は狩りをするかどうか悩んでいた。
前回の狩りで狩りがいかに危険がどうか分かったからだ。
だがアニマを別の教会に送るまでに燃料が足りるかどうか分からない。
できればアニマを狩りに巻き込みたくはないと思った。
そして答えを出した。
「いや俺はいいよ。今はお金に困っているわけじゃないし。」
「あらそう?残念ね。せっかく狩りにいけると思ったのに。今日のおひねりだけじゃご飯を食べるのも難しそうね。」
彼女は少しだけ顔を俯いて残念そうに答えた。
アニマを宿に送り届けた後にザラにもう一度狩りの誘おうと考えた。
自分は精霊銃を使えないが悪魔の陽動くらいなら役割は努められるはずだ。
アニマだけは狩りに参加させたくはないと考えた。
「あら、そうなのですか?なら一緒に行きませんか?」
アニマがザラに手を差し出した。
「ちょっと待てよ。アニマ。前の狩りで危ないって分かったじゃないか。」
「だってこのままこの子を狩りに行かせることなんてできません。私は精霊銃が使えるのですよ。」
彼女は鞄から夜梟を見せた。
「待て待て、だからって君が危険な目に合う訳にもいかないんだよ。」
「だからって友達を見捨てることなんてできません。」
「友達ってさっき会ったばかりじゃないか。」
「ネモも会った時からお友達ですよ?」
「だからって・・・。」
アニマは素直で優しいという印象があったがどこか人のことをほっておけない所があると感じた。
「ネモ。次は上手くやります。」
彼女は真っすぐ自分の目を見つめた。
彼女は自分の意見を変えるつもりはどうやら無いようだ。
「・・・。分かったよ・・・。」
自分は渋々狩りに協力した。
「え、あなた渡り狼なの?」
「ええ、今は渡り狼です。」
ザラの質問にアニマは躊躇うことなく答えた。
第二十五幕 少女狼 完
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