第29話-匂い
思いっきり吹き出した時についたであろう、タレ
臭いからしてヤバそうだったのを口に入れたんだから、あの反応にも頷けた。オレなら絶対、吐く
りとは熱で鼻が詰まってて、食べるまであの異臭に気付かなかったんだろうな。ドンマイりと。
当分あれはトラウマレベルになるんじゃ…、
そう考えると一周回って笑えてくるけど、
『って、あれ…脱衣所ってどこだっけ』
歩きながら不意に足を止めたのは、目の前が行き止まりになったからだった。もしかして…迷った?
いやいやいやなんで?何事?
どんなに記憶力が鳩並みでもこれは…、
『…あっ、そーいえばあんま、来たことないんだった』
そう呟いたのも無理はなく、
りとと佳名斗、大賀が住むこの家に。多分、片手できた回数を数えても余るくらいだ。
よくよく考えれば人様の家に行く事はあっても、脱衣所に行く事はあまり無い。実際、この家に来ても、お邪魔する部屋はリビングだったわけで。
りとの部屋の場所が分かったのは、何度かりとが自室の出入りをしていて知っただけ。
決して方向音痴とかじゃない、はずだ。
まぁ、確かに広いデパートとかに行ったら出口が分からなくなるなんて事は皆あるあるだし。
閉まってるドアに顔面ごとぶつかるのだって、あるある話だ。
…あれ、オレってもしかして…方向音痴?
『そんなまさか…』
認めたく無い事実、
辿り着きそうな結論に慌てて頭を振ったその際、視野に入った存在に『…あ、』っと、声を漏らしていた。
しっかりと閉まりきっていない茶色いドアは少しだけ開いていて、その隙間から部屋の様子が窺えた。
夕方とはいえ、開けっ放しのカーテンから日が入り、部屋の中をオレンジ色へと染め上げていて、
思わずそっと、ドアノブに手を伸ばしていた。
『この部屋って、』
僅かに開いたドアから香る、シトラスの匂い。
それが誰の香りなのかなんて考え無くても知っている。
横を歩く時、
たまに中庭でオレが寝ちゃって肩を貸してくれる時
配信での打ち合わせで話し合いをしてる時、
ふとした時に鼻を掠めるこの香りは、
大賀の
オレはちびっ子男子 しず。 @sizu06
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