第28話-新世界は焼きそば

バン!っと、激しすぎるドアの開く音に肩が跳ね上がったオレとは違い、りとはどこか冷めた目で「タイミング最悪だなー」なんて、意味の分からない事を呟いていた。


そんなオレらを他所に、にんまりと笑う佳名斗。


けれどどこか…危なげな光を宿らせた瞳で、こちらを捉えて離さないまま、一歩、


ゆらり、とふらつくような足取りで近づくと共に香る、甘い匂いと、



何かが混ざった様な、


そんな、なんとも表現しにくい変な匂いが鼻を掠め、自然と眉に皺が寄った。


『佳名斗…それって、』


それって何?と言いたかった言葉は途切れ、嫌な予感が脳裏を過った。オレを先にりとの部屋に行かせたのは、なぜ?


その間、佳名斗は何をしてたのか。


いや。正確には“何を作っていた”のか。



問いたいのに、言葉を紡げなかったのは佳名斗が片手に持っていたお盆の上に乗るソレが…


既に答えていたからだった。




「はい、お待ちどーん!腹減ったろ、りと。


オレっちが精の出る飯つくったぞぉ〜。朝はお粥だったし、飽きたっしょ?」



爽やかすぎる笑顔で、軽く首を傾げる様はアイドル並み。いや、アイドル以上だが。


そんな佳名斗が手にしている“それ”が、全てを打ち消している。


というか、“それ”の正体が何か気付いてしまったから、惑わされないだけで。



何も知らずに手渡されたら疑わない。



「おぉ、さんきゅ。持つべきものは友達だよな」



「だろだろー?佳名斗様に惚れるなよ〜


この焼きそば期間限定らしいぞー?」



『佳名斗…勘違いだったらごめん、この焼きそばって、』





コンビニで買ったあのケーキ味焼きそばじゃないよね



そう言いかけた言葉は、『ぶふぉおっ!!』っという音で遮られ。


恐る恐る音がした方へ視線を向ければ




「なんっ…げほっ…ま、…まっず…おまっ…ざけんなよ」


何度もむせ込みながら、目には涙をうっすらと浮かべたままりとが睨みつけた先は、


言わずもがな、佳名斗で。




「いえーい、はっはっはっ!悪戯だいせいこぉー!


ふぅうううううー!!」




りととは対極的な顔で、生き生きとした笑みを浮かべ


天へと拳を振り翳す。



ちょっと前にスポコンアニメにハマっていた事があるけれど…、


仲間とのハグ、


仲間に向けたガッツポーズ、


仲間で流す涙。どれも青春めいていて、胸が踊った記憶は新しい筈なのに、




色褪せていく、あの感動。


同じガッツポーズでも…状況が変われば芽生える感情が変わる、と言う事を改めて知ったのは言うまでもなく、


流石にりとが可愛そうだ、と思うと共にターゲットが自分にならなくて心底ホッとした。


ケーキ味で焼きそば、なんて色々味が渋滞し過ぎだ


それを考案した人はきっとあれだ、何かを求めすぎて脱線したとか…そんな感じだ。たぶん。




「どうよ、新世界開いちゃったぁ?


誰も買ってなかったっぽいからさぁ、オレなりの親切心みたいな?店に貢献しとくかー、みたいな?」



そう発したのは佳名斗で、「絶対りとに食わそうと思ってたんだ〜」なんて告白していた。


持つべきものは友達。


ではなく、持ってしまったからやって来た焼きそば


ではないだろうか。



『あ、りと服が汚れてる。待っててタオル持ってくる』

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