『幻想果実』はどんな味?

ジュン

第1話

「一昔前に、『世界は幻想か』なんてのが、特に若者のあいだで流行ったよね」

「ああ。あれは、60、70年代、ベトナム戦争のときだろう。グループサウンズ(GS

)からフォーク全盛の時代だ」

「改めて、現代から考えてみると、世界は『幻想』なんだろうか」

「よくわかんないけど、素粒子物理学とか、仏教の『空』の思想にしても、全宇宙は0に、収束できるらしい」

「じゃあ、やっぱり幻想なのかな」

「仮に幻想だとしても、それで、人間は悲観したり厭世主義に陥ることはないぜ」

「なぜそう考える」

「『世界は幻想か』は真だとしても、自然はもとより、人間はかなりの仕事をしてきたと思う」

「たとえば?」

「文学や絵画、音楽みたいな芸術だったり、政治を成り立たせる法学だったり、諸現象の統一的見解を表す哲学だったりとか。他にもいっぱいある」

「そうか。けれども、そういう成果も幻想らしいよ」

「幻想だっていいじゃないか!僕らは幻想のなかで果実を生み出すことができる。『幻想果実』の味を味わうことができる。たとえ、『本質』とやらが不確実だとしても、人間は『幻想果実』を生産し、交換し仲間と分かち合うことができる。それで、満足できるし、こと足る存在じゃないだろうか、人間は」

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