第180話:異世界賢者は連絡を受ける

 広めの宿の一室を取り、いつの間にか眠ってしまった。


 目が覚めると、朝の五時。まだ薄暗くはあるが、朝日が上っている。


「……」


 隣には、当然のようにアレリア、アイナ、ミーシャ、アリス。隣というより、俺に抱きつく形になっている。


 いつものことなのでさすがに慣れるべきだが、いつまで経っても慣れることはなかった。


 俺は皆を起こさないようにベッドを離れ、水を飲んだ。


 ……それにしても、変な時間に起きたな。


 昨日は遊び疲れて早めに寝てしまった。その分早く起きてしまったらしい。


 普段は七時頃に起きて朝の修行をしているので、今日は早めに始めていつもより量をこなすのもいいが……いや、リズムを崩すのは良くないか。


 こういうのは習慣付けるのが大切なのだ。毎日少しずつでもコツコツとやって効果を発揮するもの。


 一日や二日頑張ってもあまり意味はないし、今日頑張ったからという言い訳で明日サボるようなことがあってはならない。


 とはいえ、目が冴えてしまって二度寝しようにもできないし……どうやって時間を潰そうかと考えていた時だった。


 プルプルプルプル……。


 ポケットの中で着信を示す通信結晶の振動があった。


 通信結晶を渡したのは、レグルスと、レグルスがリーシェル公国に送った王国の使い。それと、アレリア、アイナ、ミーシャ、アリスの合計六人だけ。


 その内、アレリアたち四人は俺の目の前で眠っているのでありえない。


 オズワルド王国へ戻っている途中の使いが何か俺に直接連絡を取ることも考えにくい。


 ……となると、連絡してきたのはレグルスしかありえない。


 でも、なんでこんな時間に……?


 俺は疑問に思いながらも部屋の外の人気のない場所に移動。通話を始めた。


「俺だ。レグルスか?」


『おお、ユーキ。繋がって良かった……』


「どうしたんだ? こんな時間に」


『朝早くにすまないな。どうしても耳に入れておきたいことがあったんだ』


 朝の五時に連絡をしなければならないほどのこと……となると、かなり重大なことなのだろう。


『シーリが眩ませたようだ』


「シーリって、勇者のだよな? どういうことだ!?」


 回復の勇者——シーリ・ガルティエ。


 俺にとっても様々ないざこざがあった相手。勇者ということもありシーリは回復魔法に関しては高い能力があったようだ。


『俺もまだ詳しい情報までは……。シーゲル帝国にいる王国の人間が二週間前にシーゲル帝国内で騒ぎになったということを伝えてくれたんだ』


 情報をキャッチしてからオズワルド王国に届くまでが二週間。報告を受けてすぐに俺に連絡を飛ばした形だろう。


「なるほどな……。でも、どうやって……」


 シーリは確かに回復魔法の能力は高いが、戦闘能力は並の冒険者にも劣る。


『わからん。だが、普通に考えれば協力者がいることは確かだ』


 レグルスも俺と同じ推測をしているようだ。だが、この言い方だとその協力者の目星すらもついていないことは伝わってくる。


「どの方面に逃げた……とかもわかってないんだよな」


『残念ながらな。だが、色々と推測はできる。出国するなら、シーゲル王国の北側はかなり寒く、山岳地帯が多い。避けるだろう』


 レグルスは続ける。


『南はユーキがいるリーシェル公国があるが、海を隔てている。船でチンタラ逃げることは考えにくい。消去法で西か東だが……東にはオズワルド王国がある。逃げるならそっちを選ぶとは思いにくい。となると、西じゃないか?』


「なるほど、もっともな推測だが……」


『何か気になることがあるのか?』


「いや……なんでもない。気にしないでくれ」


『ん、そうか。何か気になることがあったら言ってくれ。できる限り調べる』


「ああ、頼む」


 通話を終えた俺は、通信結晶をポケットに戻した。


 常識的に考えれば、レグルスの推測で間違いないだろう。


 だが、協力者まで用意して逃げているのだとすれば、簡単に予測できるルートで出国するのか?


 俺がシーリの立場なら、裏をかいて長くシーゲル帝国内で潜伏して隙を見て抜け出すか、予測されにくいルートで出国する。


 とはいえ、何か根拠があるわけではない。レグルスの常識的な予測にケチをつけるほどのことではなかったので話さなかった。


「一番ありえないルートは……ここか」


 俺たちが今滞在している。リーシェル公国。大陸から、わざわざ逃げ場のない海を隔てた島国に逃げるというのは想像しにくい。


 だが、シーリがリーシェル公国を目指す理由はある。


 王国で勇者として活動していた時代。シーリとファブリスは恋人関係だった。


 シーリがどの程度ファブリスに好意があったのか、本当のところはわからないが……ここにくる動機はあるともいえる。


「いや、まさかな……」


 最終的にここを目指すのだとしても、時間を置かずに直接来るのは頭が悪すぎる。さすがにないだろう。


 だとすれば今の俺にできることは……特にないな。


 シーリが越境するなりすれば、必ずどこかのタイミングで痕跡が出てくるはずだ。焦らず報告を待つとしよう。

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転生無敗の異世界賢者 〜ゲームのジョブで楽しいセカンドライフ〜 蒼月浩二 @aotsukikoji

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