第179話:異世界賢者は友達ができる②

 少し重い話が続いてしまったので、少しだけ空気を変えるとしよう。


「友達の俺が今度はアルフレッドに一つ注意しておくぞ」


「ん、注意?」


「アルフレッドの仲間……お前を持ち上げさせすぎじゃないか?」


 おそらくあの四人はアルフレッドのことが好きで他のことが見えなくなってしまっているのだろう。だが初対面ではギョッとさせられるし、そんなグループの一因であるアルフレッドの評価も下げかねない。


「ああ、それなあ……俺も注意してるんだが、勝手に褒めてくるんだ。悪気はないっぽいしもう諦めてたんだが……気になるか」


 あれ……? 注意していたとは意外だな。


 アルフレッド的にも気にしていたことだったのか。


「まあな。言っても聞かないなら仕方ないとは思うが」


「粘り強くやっていくしかねえな……。こういうこと、あんまり他人は言ってくれねえから助かったぜ」


 変わった環境だとしても、ずっといると感覚が麻痺していつしか日常になってしまう。まさにそんな状態になっていたのだろう。


「だが、これはユーキ……お前にも言えることだぞ?」


「俺にも?」


「……さっきの試合を思い出してみろ」


 そう言われ、さっきのビーチバレーを思い出す。


「ユーキの戦略が上手くいった時。どんな会話をしていたかだ」


 あまり細かく物事を記憶しているタイプではないので、断片的にだが記憶を掘り返してみる。確か、上手く小細工が成功した時——


『ユーキ、さすがです〜!』


『やっぱりユーキはすごいわ!』


『大事なときにちゃんと成功させるってすごいことだよ!』


『ユーキ天才』


 アレリア、アイナ、ミーシャ、アリスの全員から絶賛の嵐だった気がする。


 いつもと変わらない光景のはずだが……?


「よく考えてみろ。俺のとそんなに変わらないぞ」


「何言ってんだ。全然ちが……わなくもないな……」


 俺の中では違っていたのだが、視点を変えて客観的に見ると大して変わらない気もしてくる。


「だろ?」


「となると、何か言っても変わらない気がするな」


 褒めるのを辞めろというのも変な話だし、自然に溢れる感情を抑えることはできない。


「そうなんだよ。で、俺なりに色々考えたんだ。どうすりゃいいかってな」


 得意気に話すアルフレッド。


「本当にすごくなりゃいいんじゃないかって思ってな。実際ユーキの場合は本当にすごいから大して違和感ないだろ? 逆に俺が評価に追いつけばいいんだ。一応そのために頑張ってる」


「ハハ……なるほど」


 一見バカバカしい脳筋作戦だが、一番効果的かもしれない。


 俺はアルフレッドが普段何をしているのか知らないが、確かに皆が納得するくらいの実績を見せつければ、嫌味にはならない。


 そんな話をしているうちに、少し肌寒くなってきた。南国の国とはいえ、さすがに夜は気温が落ちる。


「ちょっと寒くなってきたな。そろそろ帰るか」


「そうだな」


 気付けば、夕焼けが刺していた。


 俺たちがリーシェル公国に来たのが午後一時頃。それから行政区の王宮に挨拶に行き、水着を買ってビーチまで移動してきた。あっという間だったような気がするが、意外と時間が経っていたようだ。


「オズワルド王国にはいつ戻るんだ?」


「まだ決めてないが、少なくとも一週間くらいはいるはずだよ」


 ファブリスが本当に改心したのか慎重に見るためには、じっくり時間をかけたい。他にも様子を確認するべき勇者はいる。このタイミングを逃すと次はかなり先になるだろうからな。


「おお、じゃあまた会えそうだな。俺たちの方は明日ちょっと本業を頑張らなきゃいけないが……一週間もありゃチャンスはあるだろ」


「本業?」


「言ってなかったか? 冒険者をやってるんだ」


「なるほど、そうだったか」


 ビーチバレーでは技術だけでなく、それなりに身体能力もあったし、ファブりすの仲間は魔法も使えた。


 そこそこ戦闘能力もありそうだと思っていたが、冒険者だったか。


「じゃ、またな」


 アルフレッドは仲間たちの元へ向かい、一緒に帰っていった。


「ユーキ、アルフレッドと何を話していたのですか?」


 俺たちも一旦今日は撤収することになり、テントを畳んでいる途中にアレリアが尋ねてきた。


「大したことは話してないよ」


「ふーん。本当にですか?」


「ほ、本当だよ……」


 大事な話をしていたのは事実だが、内容的に今はまだ話す時じゃない。


「まあいいです。男の人との話ですし」


 女の人との話ならアウトだったっぽいな。


 俺は苦笑しつつ、畳んだテントをアイテムスロットに収納した。


 それから——


「スイ、頼む」


「わかったー」


 スイが、以前アイナと出会ったばかりの時に使った洗濯魔法を俺たち五人にかけてくれた。


 ちなみに、洗濯魔法というのは俺が勝手に名付けたものなので、本当は何か別の呼び方があるのかもしれない。


 身体が薄い膜に包まれ、水で満たされる。口や鼻まで水に浸かってしまっているが、問題なく呼吸は可能なので溺れることはない。


 膜内の水流でしっかり洗い流され、潮でベトベトだった体がスッキリする。


「サンキューな。後は仕上げに俺が乾燥魔法で……」


 風邪をひかないようしっかり俺を含めた五人の体を乾かした。


「じゃあ、宿に戻ろう……っていうか、まずは探すところからか」

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