第6話悩ましい三角関係

俺の親父はファンキーな男だ。昔、クラブの深夜営業が違法だったころ、月がキレイな夜、ダンスホールで女の子と踊っていて警察に捕まったことがある。それでも親父はクラブ通いを止めなかったらしい。

そんな親父が、俺に昔のフランス映画を勧めてきた。俺が中二のときだ。男二人と女一人の三角関係を描いた作品。その三人は嫉妬でとち狂うこともなく安定的に仲良く過ごしたという。映画のタイトル何んだったかな?


俺は「ある程度鉄之助という男を認めてやらんと、麻美との関係は長く続けられんぞ」と悟り始めていた。

共通のトラウマを抱える麻美と鉄之助。こんな世知辛い世の中をかろうじて生き抜いてきた二人の絆を、苦労知らずな俺が引き裂けるだろうか。いや、無理だ。


「この男誰?」

俺と麻美がいる車の中に割り込んで来た鉄之助がおもむろに言った。俺のことだ。鉄之助は麻美に俺のことを「誰だ?」と訊いている。

「新しい運転手よ」

麻美が即答した。

「ちっ」

俺は大袈裟にいやな顔をした。


俺は車の運転席にすわり、麻美と鉄之助はそろって後部座席に……。

やってられねぇ。


しかし、俺はさっきの麻美の話を思い出した。鉄之助のトラウマ。あんな最悪な経験をしている鉄之助。当時、少年だった鉄之助は途方に暮れたんじゃないか。癒えない心の傷。今も繰り返す悪夢。


神のみぞ知る。俺たち三人がこれからどうなるか誰にも分からん。


「麻美をよろしく」

「……はぁ」

やっぱ鉄之助ムカつく。

鉄之助に困惑しながら、俺は車を出発させた。


俺は春まで様子を見ることに決めた。

結論はすべて持ち越しだ。


もうすぐ春ではないか。春になれば気温は上がり、昼間の時間は長くなる。自然と口笛を吹き、スキップもしたくなるもんだぜ。

少なくとも春になれば雪は消える。


別れぎわ俺はスマホを出し、三人で記念撮影をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

北北東のブラッディーレッド Jack-indoorwolf @jun-diabolo-13

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ