第3話 いきなり勘違いされた

 そう考える最中に、後ろから「ガチャ」という音が聞こえてくる。

「誰?」と私は振り返えた。

 その視線の先に座っているのは、小さな盆栽を愛でる金髪の美しい青年。予想以外のその美しさに気が動転する私は、声すら出られなかった。

 青年は、こちらを見ている。

「君は、そのう」と彼は少し躊躇していた。「もしかしたら、飛び降り自殺しようと考えているのかな?」

「え?」

 確かに死を求めることでこのゲームを強制終了することを考えていたが、まだ実行する気はない。

「そうはさせない!」と青年は私に向いて叫び出す。叫び声と同時に、その小さな盆栽から、何本の木の枝が伸び、私を襲ってきた。

 と、思っていたものの、私は木の枝に包まれ、引っ張られて青年の前に連れてこられた。

「痛っ」

 そして、木の枝は縮み、また小さな盆栽になっている。

 青年は私に手を伸ばした。

「ねぇ、君は、名前なんて言うの」と聞いた。

「オリヴィアだけど、いきなり何をするの、痛いんだよ」と私はその手を取って立て直す。

「君、自殺しようとしなかった?そんな危険なところに立ちやがって…それは、心配しちゃうからさ」

 意外に素直だね。

「そんなことはないよ、自殺とかしないから」

「じゃあ、なんで来たの」

 さすがにこの世界に脱出する方法を探すとは言えない。

「あなたこそ、ここに何をしているのよ。名乗っていないし」

「ごめんごめん、俺はジェフリー・シーウェルだ。ジェフリーでいいよ。ここで、こいつを世話しているんだ」と青年は盆栽を手にした。

「こいつ?」

「うん!誰か捨てられたみたいで、可哀想だと思ったら、ここに連れて来たんだ。教室にこんなもの持ち込むのは、ちょっとあれだから…まあ、こう見えて、俺は園芸とか結構得意だよ、植物を操ることもできるし。な、なんだよその顔!」

「意外と喋るね、ジェフリーは」

「だ、だって、聞いたから」とほんの少しだけ彼の頬を赤く染めた。「君こそ、こんなところに来ないで、会場に戻りな」

「会場?」

 勝手に頭に入ってきた記憶の中に、確かにそういうものがあるみたいだ。

「知らないの?新入生のための歓迎パーティーだよ」

「あ、そうじゃない。一人だから、ちょっと不安で」

 そうよ、話が少し脱線するかもしれないけど、こんなイケメン、放ってはいけない。

「そうなの?ちょうどいい。こいつの調子はたいぶ良くなったみたいで、よかったら一緒に行こう。俺の知り合いを紹介してあげるよ、まあ、変なやつばっかりだけど、友達ができたら君はもう自殺とかしないだろう」

「またその話かよ!」


 会場に入って、大勢な若い男女がここに集まっている

 通常、乙女ゲームにこんな場面があっても、一々同級生全員を設定せずに済むはずだけど、このゲームの情報量すごい。

「おい!オルランド」とジェフリーが誰かに手招いた。

「おや、これはこれは、シーウェルさまではないでしょうか?」

 炎のように赤い髪の男性が目の前にやってきた。優雅な仕草で私たちに一礼をした。

「だからその呼び方やめろ。今は同級生だから普通に呼べばいいのに」とジェフリーが私に振り向いた。「この子はオリヴィア、友達がいないみたいで、仲良くしてあげて。じゃないと自殺するかも」

「その話、二度としないでください。シーウェルさま」と私が強気に出る。

「ちょっ」

 ジェフリーの声が出る前にもうオルランドの「ふふふ」という笑い声が聞こえた。

「どうやら貴女と気が合いそうですね。わたくしはオルランド・スキーラです。以後、お見知りおきを」

「オリヴィア・グラノジェルス。よろしくね」

 フルネームを口に出す瞬間、二人も少し目を開いた。

「ああ!君があの噂のグラノジェルス?」とジェフリーが聞いた。

「噂のグラノジェルスって何?」

 入学初日なのに、もう知られたのかな。ヒロインすぎないこれ。

「グラノジェルス家からすげえ新入生が来たって聞いたんだ。まさにここに会えたな、自殺寸前にも救ったしね~」

「ちょっと!」

「そうですね、私も聞きました。グラノジェルスさまは、何の魔法を使えるのですか」

「魔法?」

 頭の中のデータがまた蘇る。

「水属性の魔法なら、少し使える。決してすごいものではないからあんまり期待しないで欲しい」

「水属性か」ジェフリーがしばらく沈吟した。「じゃあ今度は一緒に俺の盆栽に水をやろう」

「そういうこと自分が何とかしなさい!」

 その時、オルランドは通りすがる男の人を呼び止めた。

「リュミエールさま」

「ああ?なんだよ」と無愛想の声を後ろから聞こえてくる。

 この声、どこかで聞いたことがある。

 私は振り向いた瞬間、銀髪の肌が白い男が視線に入ってくる。

「なんでお前は…おい、オルランド、知り合いか」

「ええなんで俺に聞かないの」と小さな声でジェフリーが抗議する。

「お前が誰に対しても気持ち悪いほど馴れ馴れしいから、聞く必要はない」

「き、気持ち悪い?ひどいなレオンス!友達だと思ったのに…」

「ふふふ、リュミエールさまは、すでにグラノジェルスさまに会いしましたか」

「グラノジェルス?こんな女いたっけ、覚えていない」

「じゃあなんで知ってんの」

「さっき校舎の前にたまたまに会っただけだ」

「そういえば、リュミエール家は確かグラノジェルス家と代々付き合っているのですね?前に彼女と会ったことはありませんか」

「代々付き合っているといっても、父の世代までだ、僕は知らない」

「あそう、幼馴染だと思ったのにな、違うか」とジェフリーが軽快な口調で言った。

「ちょっと待って、みんな」私はようやく話が見える気がした。「グラノジェルス家は何なの?代々付き合っているのは何なの?うちは父と母と私、三人しかいないから、さっきのは何なの?」

「えっ」と三人は唖然とする。「ただ同じ苗字か…」

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新感覚乙女ゲームに飛び込んだら逆ハーレムにならないと現実世界に戻れない! 羽弦三千(うつる みせん) @sxfg1997

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