シンビジウム

@ohfuji

第1話

「私は今月末をもってアイドルを卒業して、新しい夢を追いかけます!」

「まじか。」


青天の霹靂。月並みだがそんな表現が彼の頭をよぎった。

応援していたアイドルの卒業。アイドル、といってもテレビで取り上げられるような一線級のアイドルではなく、いわゆる地下アイドルというやつだ。

彼も最初からオタクだったわけではない。最初は友達に誘われるがままライブ会場へ足を踏み入れたのだが、これがなかなか彼の性分と合っていたらしい。最寄りの駅から在来線で1時間ほどのライブハウスまで足しげく通うようになっていった。2週間に1度。1週間に1度。3日に1度。公演に足を運ぶ回数は日を追う事に増えていった。相当入れ込んでいた、と言っていいだろう。

そんな生活が半年程続いたある日に突然の卒業宣言。彼は目の前がまっくらになった。目が覚めたら、ポ〇モンセンターにワープしているのではと錯覚するほどに。


「はぁ…」

溜息まじりにライブ会場から帰路に着いた。普段であれば街並みに目を向けることなく最寄りの駅までまっしぐらだが、今日は風景が鮮明に目に入ってくるように感じた。

(ここ、こんな店があったんだな。)

全国チェーンの牛丼屋やらメイドカフェやらが軒を連ねており、客引きの店員の姿もちらほら見えた。


そんな街並みを眺めていると、後ろから不意に声を掛けられた。

「ねぇねぇ!」

振り向くと可愛らしい衣装を着た女の子が、チラシを差し出してきた。

「はあ、どうも。」

「すぐ近くのライブハウスでこの後ライブがあるから、ぜひ来てね!」

そう言うと、彼女は小走りで別の歩行者にもチラシを配りに行った。


受け取ったチラシに目をやると、彼女と同じテイストの衣装を着た5人組が写っていた。

「ま、帰ってもやることないし行ってみるか。」

それが彼、藤浪宏樹とそのアイドルグループの邂逅だった。

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