第7話 MT
子供の頃、毎年夏になると、母方の実家へ帰省するのが我が家の習わしで、訪れた祖父宅の軒先で冷やしたスイカを食べたり、近くの墓へ蚊に食われながらお参りするのが例年の過ごし方だった。年経た今もそれは変わらず、祖父母に代わり今では叔父夫婦があたたかく迎えてくれるのだった。
今年は仕事の都合で、叔父宅へ直行する旨を母に伝えると、最寄りの駅まで迎えに行こうかと気を使ってくれたが、それには及ばないと言いながら、ある計画に思いを馳せた。
一人暮らしの今の住まいから叔父宅までの道のりは、距離にして約800km。最近手に入れた二輪の性能を試すにはちょうど良い距離ではないかと、にやけながらショップに週末のメンテナンス予約の電話を入れた。
当日、早朝の高速SAで天気予報の雨雲マークをにらみながらうどんをすすっていると、帰省ラッシュによる下りの自然渋滞がアナウンスされていた。だが、オイル交換され完璧に整備されたMTは快調そのもので、何の支障もなく昼過ぎにはあっさり到着した。
車庫に駐められたCBの脇に自分のMTを駐めると、二輪で到着した娘に母はあきれていたが、自分でも二輪を運転する叔父は、並んだ二台を眺め、笑いながら迎えてくれた。
しばらく休んだ後、皆で近くの温泉センターへ出かけ、帰り際、せっかくだからとついぞ訪れた事のなかった小高い丘陵地へ向かった。
昔、小学生の私を後ろに乗せて連れてきた事があったのだが、と叔父は言い、当時乗っていたのはXZだったと聞き、その頃納屋に駐まっていた黒い大きな二輪を思い出したが、訪れた場所には記憶が無かった。
温泉センターで着替えた浴衣の袖が日焼けした腕にこすれ、ひりひりしたが、夕立の去った高原には涼しい風が吹きわたり、暮れかけたうす闇の中に、開き始めたユウスゲの花がゆれていた。
Motorcycle Monologue 3時のおやつ @3jinooyatsu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。Motorcycle Monologueの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます