罪深き『悪漢』

結城藍人

罪深き『悪漢』

 アニソンの歌詞に英語が使われるようになったのは1980年代前半のことで、『超時空要塞マクロス』(1982年)、『スペースコブラ』(1982年)、『キャッツ・アイ』(1983年)あたりを嚆矢こうしとするのですが、それより5年も早く主題歌に英語を使っていたアニメがありました。


 その名は『あらいぐまラスカル』(1977年)。世界名作劇場の第二弾として名高い不朽の名作です。もっとも、英語歌詞の部分は冒頭イントロ部なので、歌えない子供は無視してメインメロディーの歌詞から歌っていたものです(笑)。


 さて、この『ラスカル』(以下、番組名の場合は二重カギ括弧付きで略記)は、野生のあらいぐまの赤ちゃんを拾った少年とあらいぐまの交流を丁寧に描いた作品で、今日でもCS放送などで再放送が繰り返されている名作でして、私も夢中になって見たものでした。特に主役のあらいぐまラスカルの可愛さは驚異的で、ぬいぐるみを非常に欲しかったおぼえがあります。


 ただ、この頃はまだキャラクターマーチャンダイズが今ほどではなく、ラスカルのぬいぐるみは市販されていませんでした。その代わり、番組のメインスポンサーである「カルピス」のプレゼントとしてラスカルのぬいぐるみがあったのです。


 今日でも贈答用として残っている瓶入りカルピスが、当時は市販商品の主力でした。その包装紙のラベルを5枚集めて送ると、抽選でラスカルのぬいぐるみが当たるという仕組みだったのです。


 私も親にねだって応募してもらったのですが、残念ながら当選しませんでした。ただ、私の場合は前年度作品『母をたずねて三千里』のマスコットキャラクターである「アメディオ」のぬいぐるみを、同じ応募方法で前年に当てていたので、そこで運を使い果たしていたのかもしれません。普通ならアメディオを当てるだけで充分に幸運なのですが、私はラスカルの方が欲しかったので残念に思ったという罰当たりでした(笑)。


 この『ラスカル』なのですが、ストーリーラインの最後の部分においては、成長したラスカルが凶暴化して飼いきれなくなり、涙の別れで野生に返すということがしっかりと描かれています。


 また、リアルタイムで見ていた子供たちが大人になった頃に、トリビアとして「ラスカルは実は『悪漢』という意味」というのが流布してガッカリした人も多かったのではないかと思います。ただ、今調べたところでは、「悪漢」というのは古い意味で、実際は「いたずら小僧」的なニュアンスだったようですが。


 さて、こんな話を何で長々としてきたかというと、実は昨晩、我が家の裏庭に野良あらいぐまが出没しまして(笑)。


 昨晩深夜、子供を寝かしつけて一緒に寝ていた私を女房が起こしまして、開口一番「狸が出て裏庭のゴミ箱を押し倒した」と言うのです。


「野良猫かと思ったら、尻尾がふさふさのシマシマ模様で、顔は目の周りが黒い狸が……」


 狸の尻尾ってシマシマ模様じゃないよな……と思いつつも区役所のホームページを調べてみたところ、区内でハクビシンとあらいぐまの害獣被害が出ているようでした。特にあらいぐまは平成29年度には320件以上の害獣相談があったようです。


 それで、ホームページに載っていたあらいぐまの写真を見せたところ「これだ!」と(笑)。


 まあ、ウチの場合は前にカラスに生ゴミを荒らされるという被害があったので、しっかり蓋にロックがかかるゴミ箱に生ゴミを入れておいたので、ゴミ箱が押し倒されるだけの被害で済みましたが。


 それにしても、いくら都内の外れで田舎くさい所だとはいっても、まさか23区内で野良あらいぐまが出没しているとは思いませんでしたよ(笑)。


 もっとも、元は都市部で飼われていたペットのあらいぐまが捨てられて野生化したみたいですから、このあたりに住んでいるのは当然なのかもしれませんが。


 ただ、『ラスカル』作中でも大自然が残る20世紀初頭のアメリカの片田舎ですら「成獣になると凶暴化して飼えない」ということが明確に描かれていたあらいぐまを20世紀末から21世紀初頭の東京でペットにしようとしたこと自体が間違っているのは確かでしょう。


 類似のアニメにNHKが作成した『子鹿物語』(1983年)というのがありまして、親を失った子鹿とそれを育てる少年との交流を丁寧に描いた名作なのですが、こちらは何と、成獣となって害獣化してしまった子鹿を最終回で主人公が猟銃で撃ち殺すという残酷な結末になっており、このためトラウマアニメと呼ばれることもあります。


 どちらも原作付きアニメで原作通りの終わり方ではあるのですが、この結末をきっちりと描いたあたり、さすがNHKと言えるかもしれません。安易に野生動物を飼ってはいけないということを考えると、『子鹿物語』の残酷すぎる結末の方が適切だったように思えます。


 結局、安易にペットにしようとした連中が悪いとは言うものの、そのきっかけとなったのは明らかに『ラスカル』です。同じような例に、シベリアンハスキーブームの原因になった少女マンガ『動物のお医者さん』というのがあり、面白いコメディマンガなので作品自体が悪いわけではないのですが、ブームに乗って育てにくいシベリアンハスキーを安易に飼おうとしたあげくに、しつけに失敗して飼いきれなくなって捨てるというタチの悪い飼い主が多発して問題になったことがあります。


 名作であることは確かなのですが、やはりこの『悪漢ラスカル』は罪深いのかもしれません。

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