第18話 チッチの苦難
●○●
ショーンが旅立った翌日、早くもサイタンのギルドからの要請が届いた。これはショーンが予想した通りである。私は、留守居を【
そこからさらに四日。諸々の準備や、交代要員を引き連れて、新ダンジョンと呼称されている、私たちのダンジョンの開口部へと辿り着く。
「グラ様! お早いお着き、
到着早々、小汚い顔のチッチが駆けてくる。背後にいるのは相棒のラダだ。こちらも薄汚いが、既に幾日もダンジョン探索に費やしているのだから仕方がない。
「いえ、私も資料を見ましたが、三層が普通のダンジョンのそれと違いそうだという事は、情報からも感じ取りました。もしそれが、階層そのものの異変ではなく、ダンジョンの主が直接介入した事によるイレギュラーだったとしても、早期に助力を求めたのは、懸命な判断力だったといえます」
面目なさそうに俯きつつ頭を掻くチッチに、私は首を振って答える。その言葉に、チッチもラダも驚いたような表情で私をまじまじと見詰める。
どうやら私が、彼らを気遣うような言葉をかけた事に驚いたらしい。付き合いの浅い【
別にお為ごかしを述べたつもりはない。おべっかや気休めでもない。あの子が用意した、モンスターという罠を相手に、あれだけの犠牲で乗り切ったこのチッチという男の指揮能力は、十分にたしかなものだ。我々ダンジョンにとっては、厄介な相手といえる。
その点に不満がないわけでもない。もっと多くの犠牲を生み、我々の糧とし、人間どもの恐れと畏れを集め、足を踏み入れた者の
しかしだからこそ、雄敵を認め称賛する事こそが私の矜持である。そしてその一挙手一投足から多くの学び取り、強くなり、敵を討ち果たし、食らい、
「えっと……。う、うす。恐縮です……」
困惑のままに頷いたチッチが、隣のラダと一度顔を見合わせてから頭を下げる。まぁ、以前の私であれば特に声もかけず無視したか、かけるにしてももっと棘のある形であっただろう。その辺りは私も、人と交わる内にいろいろと学んだのだ。
「それでは、早速ではありますが、今後の事について指示をしなさい。我々は、あなたの指揮下に入ります」
「え? い、いやいや! グラ様や【
「自慢ではありませんが、私に他の人間の指揮は不可能です。私に任せるくらいなら、その辺りの木っ端冒険者どもに任せても同じです」
ある程度、人間どもの間に溶け込める言動を取る事は可能になったが、だからといっていきなり大規模な人間組織の運用をできるなどと、思い上がるつもりはさらさらない。私の言に、ラダや【
「そして、この【
「そういうコト。悪いけどチッチ、指揮は変わらずアンタがやって。この場合、アンタの指示の下でグラちゃんが動き、グラちゃんの意を汲んで私らが動くって形が一番丸いわ」
私の言葉を継ぐ形で、【
実際、【
「そ、そうはいうがよぉ……。あっしは、ただの五級……、つまりは中級だぜ? 上級冒険者がいる状況だったら、冒険者どもの心情を考慮しても、指揮を譲るのは道理でしょうや?」
「特段指揮能力が高いわけでもない、反発が予想される私らや、指揮能力に関しては低いとわかり切ってるグラちゃんが就くより、よっぽどいいわ。少なくとも、引き継ぎに時間や手間をかける意味は皆無でしょ?」
「しかしなぁ……」
「いやぁ、チッチちゃんが言いたい事もわかるけどねぇ……」
チッチとフロックスの会話に、カメリアが割って入る。この者は、私の人間に対する認識に与えるノイズが大きい為に、ショーンからは例外として扱うようにと言われている者だ。
外見上は女性で、その内面も女性でありながら、基本的な肉体構造は男性で、声、身体能力もそれに準じるといわれれば、なるほど意味がわからない。他にも【
「でも、依頼の順番からしてぇ、アタシらがサイタンのギルド支部から依頼を受けるわけにはいかないわよぉ。先約の依頼を優先する以上ぉ、アタシらがグラちゃんの上につく形は問題があるしねぇ」
「そういうコト。まぁ、やりづらいって気持ちはわかるけど、ここは堪えて踏ん張りなさい。その分きっと、ギルドからも評価されるから」
最後にそう締めくくったフロックスの言葉に、チッチは渋々頷いて、ダンジョン外に設営された天幕へと私たちを案内した。
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