第30話 新ダンジョン発見

 ●○●


「――警戒ッ!」


 鋭いチッチさんの声に、瞬時に全員が臨戦態勢を取る。直後、ジョンさんが頭上を見上げる。それに合わせて、僕、ラダさん、ケーシィさんも顔を上げた。グラは、それで地上への警戒がおざなりになるのを避ける為か、周囲への警戒を強めていた。


「鳥だ! 退避ィ!!」


 ジョンさんの声を聞いた全員が、いっせいに散開すると、太い木の幹を背にして警戒を強める。ベテラン冒険者パーティの彼らに聞いた、もっとも安易な飛行能力対策である。

 一撃でへし折るのが困難な木を背にすると、上空からのヒット&アウェイを防げるらしい。勿論、相手が飛行可能な竜種だったりすると、一気に木ごと後衛職などが餌食になる可能性もあり、各個撃破の原因にもなるので、必ずしも飛行対策として有効な手立てではないらしい。

 ただまぁ、一撃のパンチ力に欠ける鳥系には、結構有効な手法らしい。ふむふむ勉強になるな。パンチ力のある鳥系か……。

 そんな事を考えていたら、一番弱そうで油断もしている僕に対して、上空からの飛来者が襲い掛かってくる。三、四回り大きなだけのただのとんびが、木に激突しないコースで滑空してくる様子が確認できた。

 そして、【魔法】持ちでもない鳥系モンスターが迎撃準備をされてしまえば、もはやただのバッティングセンターだ。

 舐めるなよ。こちとら地元のバッセンにて、一二〇㎞/hで三振した事もあるスラッガーだぞ?


「投擲します!!」


 場合によっては、横合いから攻撃を仕掛ける者がいる場合もある為、一応宣言してから右手の斧を投げる。勿論、流石にフェイントもない、正面からのこんな攻撃が、そうそう当たるわけもない。

 とはいえ、自らの高空からの落下スピードに加えて、真正面から迫る斧は、巨大鳶からすれば銃弾並みの速度に感じるだろう。避けるにも全霊を注ぐ必要に迫られ、結局、僕への攻撃を諦めてコースを外れる。

 そこにいるのはもう、地上数メートルという場所で落下エネルギーというアドバンテージをほぼ使い切った、大きすぎる的でしかない。襲い掛かってくるラダさんとケーシィさんに、慌てて上空へ逃げようとする巨大鳶の鼻面を、上空から飛来したグラの踵が迎え撃つ。

 お株を奪われ、無様に地面に転がった巨大鳶は、憐れラダさんとケーシィさんに群がられ、ろくに反撃もできずにその首を討たれた。南無南無。


「やっぱ、猛禽だけあってこないだの巨大緑スズメとはダンチの速さでやしたね。難なく倒せたのは、お二人のおかげでさぁ」

「ん間違いない。あれだけの速度に合わせて、即座に迎撃と撃墜できたおかげで、厄介な鳥系モンスターがまるっきり雑魚扱いだからな」


 チッチさんとジョンさんに褒められて、やや面映ゆい思いに駆られ、僕は話を逸らすように訊ねた。


「先の一羽に加え、さらに一羽、別種の鳥系モンスターです。先の、チッチさんの言うところの巨大緑スズメと、今回のこの巨大猛禽が、ただのはぐれだという可能性はかなり低いと見ていいのでは?」


 あからさまに話を逸らした僕に、二人は顔を合わせて肩をすくめてから、真面目な表情に戻って頷いた。その仕草が、いちいち一昔前のハリウッド映画のようで、実に様になっている。ちょっと羨ましい。


「まぁなぁ……。俺たちも、シタタンやサイタンを拠点にして長いが、鳥系モンスターと出会したのなんざ、片手の指で数えられるくらいだ。それが、この短期間に二体ともなれば……」


 ジョンさんが深刻そうな顔つきで、物言わぬ骸と化した巨大鳶を見やる。僕とチッチさんも、その仕草につられてそちらを見れば、ケーシィさんがやや適当にその胸を開いて、魔石を探しているところだった。

 ギルドに持ち帰れば、羽や肉などに需要が見込めるかも知れないが、今回は長期間の探索も予想される、調査及び未発見のダンジョンの探索依頼だ。その序盤で、余計な荷物を背負い込むわけにはいかない。今回は、魔石を摘出するだけで、その骸は放置される。

 無論、食料調達という意味では、獲物の肉は貴重ではあるのだが、見ず知らずのモンスターの肉を無警戒に口に入れる程、ここにいる冒険者は迂闊ではない。帰り道に、この骸が食い荒らされていたら、少なくとも致死性の毒だけはないという、期待だけはできる。味はどうだかわからないが……。


「ほんじゃ、あっしらの任務は、本格的に新しいダンジョンの探索となりやすね。いつだかの、アリのダンジョンを思い出しやすねぇ」

「そうですね。あのときと違って、今回は無理する必要がないので、気は楽ですけど」


 あのときは、宝箱の存在を秘匿する関係で、結構急ぎ足だった。おまけに、ミルメコレオの討伐後は、その宝箱を独占する為に探索を続けたチッチさんたちとラベージさんとは、すぐに別れたからなぁ……。


「あのときと違って、こちらにシッケスさんはいません。その分、戦力が落ちてるので、その意味でも無理はできませんからね?」

「合点承知でさぁ。好き好んで無茶はしやせんよ!」


 チッチさんが、勘弁してくれとばかりに手を振って了承する。応答のないジョンさんの方を見たら、木の上の栗鼠を狙ってナイフを投擲するところだった。あの巨大鳶が食べられない以上、食糧の現地調達は大事だもんね。


 その二日後に、僕らは山中にぽっかりと開いたダンジョンの入り口を見付ける事となる。そして、問題が発生した。【愛の妻プシュケ】の二人が、サイタンの町に帰らないと言い出したのだ。



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