第28話 男臭いコンビ

 ●○●


「お待たせしました。こちらが今回、調査に加わっていただく、サイタン在住の五級冒険者パーティ【愛の妻プシュケ】のお二人です」


 先程の事務員が、二人の男性を伴って戻ってくる。プシュケと聞いて、てっきり女性主体のパーティかと思っていたが、現れたのはかなり男臭い面子だった……。

 とはいえ、別にむさくるしいという事はない。一人は、ケツ顎だが爽やか系のイケメンであり、がっしり体型の戦士といった風情だ。だが、たぶんスーツ姿も似合うだろう。

 ガンアクションとかしそうだが、腰には細身の剣を帯び、背中には一メートル半程の三日月斧クレセントアックスを携えている。ここまで刃渡りがあると、機能的には薙刀やグレイヴに近い。

 もう一人は結構やせ型で、格好から斥候職であると判断できる。やや額が広い傾向はあるものの、こちらもまたイケメンだ。先の男性より、男臭い色気が強い男性だ。笑ったときの表情が、特に魅力的だろう。

 どちらもタレ目という特徴はあるが、むしろ正反対の印象を受ける凸凹コンビだ。僕は一目で、とある名作映画を思い出した。僕が生まれる前の映画だが、主人公が僕に近い名前なので良く覚えている。まぁ、そうでなくても、あの名作は忘れないが。


「どうも。【愛の妻プシュケ】のケーシィだ」

「俺はジョン。あんたらが、有名な【ハリュー姉弟】か。そっちの、チッチとラダの事も知ってるぜ。アルタンじゃ有名な冒険者だもんな」


 二人は冒険者らしいといえばらしい、荒々しい口調の自己紹介をする。昨日の、伯爵家家臣団との顔合わせを思えば、堅苦しさがない分好感が持てる挨拶だった。


「どうも。僕はハリュー姉弟の弟、ショーン・ハリューです」

「姉のグラ・ハリューです」

「俺は【バクスタン】のチッチ、こっちがラダだ」

「よろしく。アタシらも、あんたら【愛の妻プシュケ】の名は聞き及んでるよ。サイタンじゃ一頭地を抜くご同業だってな」

「よせやぃ。照れるじゃねえか」


 ジョンさんが、本当に照れたようにはにかみながら手を振る。案の定、かなり人好きのする笑い方だ。きっと、豊臣秀吉もこんな風に笑ったに違いない。


「今回の、新種と思しき鳥系モンスターの調査、及び新ダンジョンの探索に加わるパーティは、上級冒険者である【ハリュー姉弟】に、五級冒険者パーティである【愛の妻プシュケ】と【バクスタン】の三つとなります。その点に関して、なにかご質問はありますか?」

「では、俺から」


 そう言って手を挙げるケーシィさん。理知的でありながら、優し気な声音に事務員の女性の頬がちょっと赤くなっている。まぁ、男の僕からしても、なかなか柔らかい色気のある声音に思えるからな。


「ホルミー、今回のこの三パーティはどこも二人ずつのパーティで、合計人数は六人でしかない。できればもう一パーティくらいは加えた方がいいんじゃないか? というか、そっちの二人はなんなんだ?」

「ああ、この二人は我が家の使用人で、いってしまえば斥候見習いなので、今回の探索には加えられないんです。斥候としても、戦闘要員としても実力不足ですから」


 ケーシィさんの質問に、事務員さんより先に答えを述べる。たぶん、この事務員さんも知らないだろうし。二人とも、まだ冒険者登録してないんだよな。上級冒険者にならないとノルマがあるし、使用人をしながらそれをこなすのは、なかなかに骨なのだ。

 まぁ、僕らに関しても、斥候としての能力は並み以下だ。人の事は言えない。


「ふぅん。まぁいいさ。そういう事なら、なおさらもう一パーティくらいは加えたい。万一、本当にダンジョンがあった場合、その内部の探索をする為にもな」

「その事なのですが、当ギルドといたしましても、新種、もしくははぐれのモンスターの調査に対して、三パーティ以上の冒険者に依頼するのは、予算の関係で少々厳しいのです。これが、新ダンジョンが確実にあるという事であれば、予算も付くのですが……」

「ああ、なるほど……」


 ケーシィさんが苦笑して、僕らとチッチさんたちを交互に見る。依頼というのは一件あたりの報酬は決まっている。それを、依頼を受けたパーティ内で頭割りするのが基本だ。複数パーティで一つの依頼を受ける場合でも、まずは構成人数を無視して、パーティ単位で均等に報酬を分け合ったのち、その報酬の配分は各パーティに任せられるのが常だ。

 その場合、当然ながらパーティの人数は少ない方が、一人当たりの報酬は多くなる。

 だが、国や領地、あるいは冒険者ギルドが主体の依頼の場合、一パーティに払われる報酬が決まっている場合が多く、そうなると依頼を安全にこなす為には、人数が多い方が、依頼の達成率が高く、依頼主側からしてもお得感がある。

 わかりやすいのが【雷神の力帯メギンギョルド】だ。あそこは、全員で十一人いるからな。同じ報酬を支払うなら、二人しかいない【ハリュー姉弟】よりも、【雷神の力帯メギンギョルド】を選ぶだろう。

 まぁ、そもそも僕らと【雷神の力帯メギンギョルド】では、実績も実力も雲泥の差なのだが……。

 冒険者も、中級までは人数が少ないパーティは多いが、上級からは依頼の達成率を重視して、人数が増える傾向がある。場合によっては、いくつかの中級冒険者パーティを併合して、上級冒険者への昇格に臨む場合もある。

 なお、上級冒険者は個人に与えられる資格であり、その上級冒険者の率いるパーティを『上級冒険者パーティ』と呼ぶ。その階級にちなんで『○級冒険者パーティ』と呼ぶ場合もあるが、僕らのように四級の場合は普通、一様に『上級冒険者パーティ』だ。

 上級冒険者パーティ内に、中級、下級冒険者が混じっていても、上級冒険者パーティと呼ぶ。なので、人数が多いからと、一概に依頼の達成率が高いとは限らない。

 ケーシィさんの笑いの意味は、できるだけ多く報酬を得ようと、少人数でいた僕ら三パーティが、同一の公式依頼を受けてしまったが故の、自業自得だという自嘲だろう。まぁ、僕らはあまり、報酬にはこだわらないが。


「新ダンジョンを発見した場合には、必ず引き返して、ギルドに報告をしてください。この義務を怠った場合、資格の剥奪や降格などの処分が下る可能性がある事を、予め宣言しておきます」

「ヘイヘェイ! んな事よりホルミーちゃぁん、肝心の報酬について聞かせてくれよ。ギルドからの依頼だ、ケチ臭い事は言いっこなしだぜ?」

「はい。今回の依頼における報酬は、一パーティにつき聖シカシカ金貨で十枚、希望者にはネイデール金貨での支払いも受け付けますが、お支払いは八枚となります」

「んん? おいおい、シカシカ金貨とネイデール金貨なら、相場的にはもう少し帝国金貨の方が高いんじゃねえか?」


 ジョンさんが、報酬に関して不満をもらす。ケーシィさんもそれに頷いているし、チッチさんもラダさんも渋面を浮かべていた。

 たしかに、金貨一枚分くらい、ネイデール金貨で受け取る方が損だ。それなら聖シカシカ金貨で受け取った方がいい。


「先の戦の影響で、ネイデール金貨の相場が不安定なのです。それに【バクスタン】や【ハリュー姉弟】の方々は、第二王国内の相場に馴染みがあるのでかなり安く思えるかも知れませんが、パティパティア山脈を境に、ネイデール帝国発行貨幣はかなり相場が変わってきます。こちらの相場では、そこまで暴利というわけではありませんよ」


 なるほど。パティパティア以西の領地の相場という観点はなかった。ある意味、この辺りは、帝国の経済圏の一部なのかも知れない。そうなると、第二王国の相場が通じないのも当然だ。


「それでも、銀貨数枚は違うだろう?」

「ご不満なら、聖シカシカ金貨で報酬をお受け取りいただけばよろしいのでは? ケーシィさんにとっては、そちらの方がお得なんですよね?」

「まぁ、そう言われりゃそうか。調査依頼で金貨十枚ってだけでも、こっちとしては御の字だしな」


 そう言ったケーシィさんが、ジョンさんにも意見を窺うように顔を向ける。ジョンさんも、暫時考えたのちににへらと笑い、一つ頷いた。


「それでいい。そっちはどうすんだい?」


 ケーシィさんに水を向けられて、チッチさんが僕に視線を送ってくる。ウチから答えるのか……。


「では、僕らはネイデール金貨で報酬の受け取りを希望します」



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