第27話 新種のモンスター
僕は知らんぷりしつつ、落ちてきた鳥についていろいろと調べる。
「チッチさん、これはなんていうモンスターですか? 僕、鳥系にはそこまで詳しくなくて……」
「いや、あっしも見た事ないヤツでやすね。というか、この辺りに鳥系なんて出たっけな……」
僕の質問に、チッチさんが首を傾げつつ答える。彼は視線を、相棒のラダさんにも向けるが、彼女も肩をすくめて知らないと応える。
まぁ、僕のオリジナルのモンスターなので、ある意味当たり前だが。
「アタシも、見た事も聞いた事ないね。見慣れないモンスターって事は、はぐれか……? なんにしても、あとでちゃんとギルドに報告しなきゃだねぇ」
「ああ、そういえばそうでした」
以前、ラベージさんから教えてもらった。見慣れないモンスターがいた場合、必ずギルドに報告しないといけない。それを怠ったり、故意に報告しなかった場合には、重いペナルティを科されるらしい。
見慣れぬモンスターの徘徊は、新たなダンジョン発生の兆候でもあるので、それも当然だ。といっても、サイタンの辺りに詳しくない僕らに、本当のところは判断がつかないのだが。
勿論、ラダさんの言った通り『流れ』や『はぐれ』である可能性もある。なお、『流れ』は群れ、『はぐれ』は単体の事であり、『流れ』は大規模な群れが縄張りを変えている兆候であったりもする。これも、周囲の村落に対しては小規模の
「鳥系ですし、討伐の優先度を考えて一度帰りますか? というより、この状況であまり、イミやウーフーを斥候としてパーティから離したくないんですよね」
僕は、ダンジョン側の都合をオブラートに隠しつつ、チッチさんたちに提案する。チッチさんも同意見だったらしく、この提案にはすぐさま頷いた。
「そうでやすね。ただでさえ、鳥系の気配察知は至難です。素人二人抱えてとなると、流石にあっしにも荷が勝ちまさぁ。勿論、こっちの間合いに引き込めれば、お二人のいるこっちが有利なんでやすが……」
鳥系は飛行能力に特化している代わりに、特殊な種類以外は近接戦闘能力は低めだ。おまけに、ちょっとした怪我で、飛行ができなくなるうえ、防御力の面でも低い傾向がある。
恐らくだが、間合いに入ればラダさんでも余裕だろう。無論、その間合いに入るというのが、鳥系の場合は至難ではあるのだが。
鳥系に限らず、飛行能力を有するモンスターは、頭上という死角から、急降下して攻撃してくるというだけで脅威なのだ。草木や地面に触れずに近付いてくるという事は、それだけたてる物音が少ないという事である。羽の構造次第では、風切り音すらほとんどしない種さえいる。
その為、基本は地上の死角や物音に注意を払っている斥候にとっては、いきなり思考の外から奇襲されるような相手になる。素人に毛が生えたような、イミとウーフーの索敵能力に任せるのは、流石に酷だろう。
その点、いち早く危機を察知したチッチさんは流石の手腕だ。この森に、あれを放った僕ですら、上空に対する警戒を怠っていたというのに。いや、これは単に、僕の失態か。
「鳥系はやっぱり、初撃をどう防ぐかが肝ですからね。その点で、未熟な斥候はパーティにとっても、本人にとっても危険です。一度、ギルドに戻って、情報共有しましょう」
「それがいいでやんしょう」
鳥系モンスターに、真っ先に餌食にされるのは、パーティから離れがちな斥候だ。未熟な斥候など、それこそ手頃なおやつみたいなものだ。それでもついつい、上空の警戒を怠ってしまうのは、飛行能力を有するモンスターというのがそれ程多くないからだ。
その根本的な理由が、モンスターの起源がダンジョンであるという点だ。閉所暗所が多いダンジョンでは、鳥系のモンスターというものは、なかなか運用が難しい。
それでもやはり、飛行能力というのは侵入者である人間たちにとっては、なかなかの脅威ではある為、鳥系のモンスターが根絶されるという事はない。だがやはり、運用する為には、ダンジョンを専用の形状に整える必要があるわけだ。
コストを考えれば、鳥系のモンスターの絶対数が少なくなるのも、むべなるかなである。
勿論、虫系や爬虫類系にも飛行能力のある個体はいるのだが、そういったものは、地上数メートルから十メートル程度の、滑空能力や滞空能力に限定される。それはそれで危険ではあるのだが、鳥系の飛行能力に比べればそれは、せいぜい頭上の脅威であって、上空の脅威とまでは呼べない。
「イミ、そいつの頭を持って帰ろう。ウーフーは片方の翼を切り取って。新種だった場合、モンスターの情報になるし、そうでなかったとしても、普段この辺りにいるかどうかの判断に役立つ。あ、魔石の取り忘れもしないように。申し訳ありませんが、帰りの索敵はチッチさんに頼り切りになります」
「合点承知でさぁ。まぁ、あんな馬鹿デカスズメが何体もいたら目立ちやすんで、まず大丈夫だとは思いやすがね」
自信満々に胸を張るチッチさん。そこには、ベテラン冒険者の自負が窺えた。
メジロはスズメ目だから、まぁ、スズメと言っても間違いではないかな。囀るかどうかは、残念ながら創った僕自身も関知していないし、いまもろくに鳴き声をあげなかったので、わからないが。
チッチさんの自負通り、帰りは数匹の下級モンスターと、暗殺者二人以外とは接敵せず、簡単にサイタンまで戻ってくる事に成功した。冒険者ギルドに巨大メジロを届けると、ギルド側でも最近、怪鳥の目撃例はあったものの、それがモンスターなのか、野生の猛禽類なのか判断がつかず、確認作業の真っ最中だったらしい。
また、当然ながら巨大メジロというモンスターは、ギルドとしても未確認だった為、早急に他のギルドと情報共有すると共に、新種であるという前提で動くそうだ。新種という事は、ギルドの把握していないダンジョンが、近場にあるという可能性が高いのだから、ある意味当然の措置だ。
そして、そうなると必然的に、近場にいる上級冒険者に調査の依頼がされるわけだ。勿論、慣れた地元の冒険者の存在も必要だが、戦闘能力だけならそれなりの僕らも駆り出される。まぁ、そこは思惑通りだ。
また、まだ新たなダンジョンが発見されたわけでもないので、わざわざアルタンから【
まぁ、発見されたのが鳥系だし、それも当然か。下手をすれば、帝国領のダンジョンから流れてきたという可能性とてある。その場合、情報伝達が遅れれば、かなりの人的、物的被害を生みそうではあるが。
まぁ、今回はちゃんと伯爵領内にあるので、安心して欲しい。いや、できないか。
「あの、ハリュー姉弟様のパーティ名が登録されていないのですが、こちらはどうお呼びすれば良いでしょう?」
「そういえば、前に付けろって言われてたね。完全に忘れてた」
巨大メジロの頭と羽をギルドに提出したら、そのままギルドの会議室に通されて、事務員のお姉さんに困り顔で訊ねらた。そこでようやく思い出した案件に、思わず苦笑してしまう。もう随分前に、セイブンさんにそんな事を言われていたのだが、その後いろいろとありすぎてすっかり忘れていた。
「どうするグラ?」
「【ハリュー姉弟】で良いでしょう。もうすっかり世間馴染みしていますし、下手に他の名前を名乗ると、この辺りの冒険者や住民たちは誰の事かわからなくなりそうです」
「そうだね。まぁ、パーティに加わる予定のメンバーも、うちの使用人だけだし、問題ないかな?」
「ええ。このパーティは私たちだけのものです。私たち以外は、必要ないといっても過言ではありません」
「特に冒険者としての目標とか、あやかりたい伝説とかもないしね。このまま、無題で放置し続けると、またぞろ【悪魔】だの【死神】だの言われて、そっちが主流になりそうで嫌だ。グラの要素も組み込んで【天魔】とかになったら、中二臭くて恥ずかしい」
この世界の価値観だと、どう判断されるかわからないが、あまり僕が名乗りたくない。
「私は、あなたとセットの名であるのなら、別にそれでも構いませんが?」
「それならまだ、【比翼】とか【連理】の方がマシかな。やっぱり、ちょっと格好付けすぎて、僕としては鼻につく感じだけど……」
「【比翼連理】であれば、私たちの関係を表すのには、最適な表現ではありませんか? 私の炎の翼と、ショーンの水の尾との対比にもなります」
平然と言ってのけるグラに、事務員のお姉さんがドン引きしていた。まぁ、神聖教が根付いているこの国の価値観では、【比翼連理】はともかく【天魔】はちょっと尖りすぎたセンスだからね。でも、冒険者って、尖ってなんぼみたいなパーティ名が多いんだけど、このお姉さんはまだ慣れてないのかな?
「【ハリュー姉弟】でいいですよ。正式にも、それで登録しておいてください。アルタンに戻った際にも、それで申請を出しておきます」
「わ、わかりました。それでは、失礼します……」
そそくさと部屋を退出していく事務員さんを見送り、やれやれとばかりに肩をすくめる。魚偏シリーズの名付けの理由でもあるが、やっぱり格好良過ぎる名前を付けるのって、ちょっと抵抗があるんだよなぁ。
小学生の頃に、鉢植えの朝顔とか、縁日の金魚とかに、とんでもない名前を付けたのを思い出してしまう……。
最大の黒歴史は『セルカリアン・カギュウカク・ラムズ三世』という名を付けたカタツムリかな……。三世もなにも、その日に捕まえてきたヤツだったが……。いま思えば、カタツムリに『セルカリアン』もどうかと思うが、やっぱり『カギュウカク・ラムズ』が一番イタい……。カタツムリの角で、衝角突撃でもさせるつもりだったのか。悪魔かよ。そこ、角って呼ばれてるけど、器官的には目だぞ? 当時は、そこが一番のこだわりポイントだったのだが……。
ああっ……! なんか、思い出したら急激に恥ずかしくなってきた……ッ!
羞恥に視線を逸らした先では、チッチさんとラダさんが気まずそうに目を逸らし、イミがちょっと不機嫌そうにしていた。ウーフーはいつも通り、我関せずといった様子だったが、その仕草もどこかよそよそしい。なんだ……?
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