第20話 野生の本能?
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諸々の準備を整え、僕、グラ、チッチさん、ラダさん、ウーフー、イミの六人は早々にアルタンの町を発った。またぞろ、【
「だんなさまっ! 周辺、異常なしですっ!」
黒豹族に生まれてしまった
それはまぁ、一メートル近く身長が違うのも理由だろうが、やはりなんといっても、目に宿るバイタリティの差ではないかと、個人的には思う。
こう言うと彼女も気にするだろうから口にしないが、やはり森という環境にはあまりそぐわない見た目だ。というより、白さが際立ちすぎてどこか神々しさすら感じてしまう。まぁ、それは日本人的気質かも知れないが……。
いっそ、迷彩柄のフード付きマントみたいな装備を用意しようか。
勿論、いまも顔以外は丈夫なチュニックに革鎧、下はカーゴパンツのようなズボンにブーツを装着し、革の肩当、肘当、膝当、手袋を装着した、完全に斥候用の装備に身を包んでいる。
年が明けた事でようやく年齢が二桁になった、少女というか童女であるイミだが、仕事をしなければ生きていけないのがこの世の理だ。
しかし、残念ながら子供である彼女にできる事は少ない。他の使用人たちと同待遇にすると、いろいろと不満の元になる。なので、専門技能を学ばせて別の仕事をさせる事で、使用人内の軋轢を予防しようと考えたわけだ。自由人すぎるウーフーもまた、使用人の中では割と浮いている為、この二人に斥候の技能を習得させようとしているのである。
「まぁ、スパイス街道沿いのこんな場所に、そうそう異常なんてあるわけないんだけどねー」
軽い口調で笑うウーフーは、小人族のハーフリングだ。どうでもいいが、僕、グラ、イミ、ウーフーといった面子は、まるでチッチさんとラダさん夫婦が、子供を連れてピクニックにでも赴いているみたいだ。まぁ、チッチさんとラダさんは、二人組なんだし、そういう関係でもおかしくはないが。
「しかしショーン様、今回は例の竜には乗らなかったんですね」
チッチさんが二人の様子を確認しながら、特に問題ないと判断してか、軽い口調で世間話を振ってくる。僕もそれに、笑いながら返す。
「ええ。二人の斥候能力の確認という意味では、竜は少し邪魔ですから」
「そうでやすねぇ。竜の気配を察したら、大抵のモンスターは逃げてっちまうでしょう。まぁ、同時に人間の気配を感じたらどうかわかんねぇですけど」
ただでさえ、街道を使った峠越えで、危険といえる危険はほぼない旅程だ。さらに獣避けまで使ったら、流石に緊張感に欠ける。そこまで急ぐ旅でもないしね。
モンスターは、その性質上人間に対しては強い攻撃性を発揮するものの、人間以外に対しての反応は個体差が大きい。大抵の弱いモンスターは、強いモンスターの気配からは逃避する傾向が強い。まぁ、そうでなかったら雑魚モンスターの駆除とか、冒険者なんて制度ができるまでもなく、自然調整に任せられただろう。
「しかし惜しいでやんすねぇ。酒場で語られる、ショーン様の雄姿をあっしも見てみたかったんでやすが……」
「勘弁してくださいよ……。酒場の話を鵜呑みにするようなタマでもないでしょうに。そもそも、いまは戦場用のガチガチ装備じゃないですから」
からかってくるチッチさんに、降参とばかりに両手をあげて答える。あんなうるさくて動きにも支障がでる装備で、冒険者活動なんて冗談じゃない。完全装備は、今後も対人限定だな……。
「――ちなみに、この旅程が長引くと、竜の餌が足りなくなって食用の鳥が使われます。当然、売りに出される肉にも影響しますので、そのつもりで」
「おっと、そいつぁご勘弁! せっかくアルタンでも、安く、安定的に肉が手に入るようになったってのに、また魚介の干物だけの生活に戻んのはごめんでさぁ」
「猟師の成果だけに頼ると、どうしても肉の供給が不安定で、値は高くなりますからね」
そう言いつつ、僕はイミを見る。彼女の武装は、フェイヴやフォーンさんが使っていた登山用のピッケルのようなものに加え、腰に携えた短弓だ。他にも、彼女にも扱えるナイフなどはあるが、基本的には作業用だ。戦闘においては、精々投擲か不意打ちくらいにしか、使い道はないだろう。
だが、まだ子供で力の弱い彼女には、それ以外に使える武器がない。というより、近接武器など使わせられない、というのがラベージさんや僕の意見だ。いっそ【魔術】でも覚えさせるか、とも思ったのだが、獣人は身体能力に優れる代わりに、魔力運用能力が低い種族だ。その身体能力も、子供のいまは然程でもない。
……まぁ、十歳の頃から大人並みに動けたら、そちらの方が怖いが……。
弓を使う冒険者というのは、かなり少ない。その一番の理由が、モンスターに対する効果の低さがある。弓矢の通るようなモンスターというのが、あまりいないのだ。
剣でも傷付くかわからないような相手に、矢勢の弱い矢などまるで小雨でしかない。まだしも、投石の方が効果が高いまである。
稀に強弓使いがいないでもないが、それでもモンスターが強くなる程、弓矢の効果は低くなっていく。強弓を引けるだけの力があるなら、斧で直接斬りかかった方がいい。
普通の猟師が使うような弓では、せいぜい下級の鬼系や獣系、あとは鳥系モンスターしか倒せないだろう。その系統でも、中級になるともう、ほとんど効かないが。
イミが使っているのも、そういった猟師用の弓だ。山鳥や野生生物、そして人間に対しては、当然ながら弓矢は優れた遠距離武器である。
「ショーンさまっ! 見て見て! イミ、獲った! イミが獲ったんだよ!」
そんな短弓を片手に、イミが嬉しそうにぴょんぴょん跳ねながら、己の獲物をアピールしてくる。その手には、大人の手の平に収まるような山鳥が、矢に射られた姿で掲げられていた。
珍しい満面の笑みだ。家の中だと、彼女からは隔意を感じる事もしばしばだが、冒険者活動が獣人としての性に合っているのか、この旅程における彼女は、常に明るい顔をしている。
「おめでとう。じゃあ、イミの初めての獲物だし、自分で捌いて食べてみようか」
「うん! あ、でも、最初に食べるのはショー――だんなさま。最初の獲物は、群れの長が食べる」
「そういうもの?」
「たぶん」
僕が首を傾げて問い返したら、自信なさげにイミも首を傾げた。同族に迫害された彼女は、それ程自分たちの部族の風習に詳しくないらしい。
「だったら、やっぱり自分で食べたら? 初めて己の手で得た獲物とか、やっぱり自分で食べてみたくない?」
僕が初めて魚を釣ったときは、嬉しくてはしゃぎ回った挙句、父にせがみまくって塩焼きにしてもらって、その場で独り占めにした。ただの鰯だったが、極上の味だったのだけは、いまでも鮮明に記憶に残っている。
やっぱり、最初の獲物というのは特別なのだ。是非とも、イミにも味わって欲しい。と思っての提案だったのだが、どうやらイミのお気に召さなかったらしい。
「うー……、ショーンさま、ダメ?」
「ダメではないけど……」
どうやら、獣人たちの群れにおける、本能に近い感覚らしい。いや、豹って群れ作ったっけ? まぁ、好意の一種だろうから、ありがたく最初の一口を貰って、その後は自分の成果を堪能してもらった。
なお、他の人の食い扶持として、ラダさんが数十キロの鹿型モンスターを狩ってきていた。僕も、小さな山鳥一口だと足りなくて、そっちを食べたのだが、イミ的にはそれは不満だったらしい。
……よくわからん。
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