第19話 情報屋の二人と見習いの二人

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 ジューさんがウェルタンに発って数日で、セイブンさんと【アントス】一行がアルタンに帰還した。どうやらフラウジッツ双伯爵領の上級冒険者が、トポロスタンに到着したところで、報告と周辺にバラ撒かれたモンスターの駆除も、ほぼほぼ終えたらしい。

 僕はといえば、基本的には家に篭りきりで、幻術と魔導術の研究三昧の日々であった。特に、いまは【黒神チェルノボーグ】の改良を進めている。やはり、いかに撒菱とはいえ、あれではパンチ力に欠けるのだ。ダメージではなくインパクトという意味で。

 さらに、属性術、死霊術の勉強。そして、幻術そのものの研究や【影塵術】の改良、新たな死神術式の開発等々に時間を費やしていた。

 なお、ティコティコさんはあれから我が家を訪れる事はないが、代わりにシッケスさんからのアプローチが増えたのが悩みの種だ……。なお、ティコティコさんの性欲問題に関しては、一時的にウェルタンに移る事で解決したらしい。それでなんで解決するのかは知らないが、たぶん港湾都市だから物好きも多いという意味だろう。

 そんな中、待ちわびた報告が我が家に届く。


「グラ、お待ちかねの伯爵家からお呼び出しだ」

「ようやくですか……。随分と待たされましたね……」


 仕方がない。向こうは大所帯だ。その分、身動きだって鈍重になる。


「伯爵家も、戦争だ、第二王国軍だ、王冠領軍だで、なかなか大忙しだったからね。たぶん、そういった面倒事がようやく片付いたといったところだろう。その面倒事に、僕らを巻き込まないよう配慮してくれたんだから、お礼は言っても文句は言うべきではないさ」

「そういうものですか?」

「そうだよ。今後その面倒事に巻き込まれるのは、主に伯爵家の家臣になる予定のグラなんだからね。彼らはそれを防いでくれる防壁なんだ」


 まぁ、伯爵家も伯爵家で、グラの性格を知っているからこそ、他家人間と顔を合わせるような事態は避けたいだろう。余計な騒動を起こせば、伯爵家の障りにもなりかねないからね。

 腫れもの扱いではあるが、グラに関してはこのくらいの距離感が望ましい。だがまぁ、いつまでもそれでは問題になるだろう。


「ついでと言ってはなんだけど、チッチさんとラダさんを護衛に雇った。さらに、使用人としてウーフーとイミを選んだ」


 その意味がわかるかといった表情で、グラを覗き込めば、逡巡ののちに答えを出す。


「チッチとラダは、たしかミルメコレオのダンジョンの際に利用した冒険者でしたね。情報屋、でしたか? それと、ウーフーとイミですか……。以前から、私たちの代わりにラベージから、斥候としての手解きを受けていましたね? その成果をたしかめる為、でしょうか?」

「ほとんど正解だね。ウーフーとイミの技術に関しては、門外漢の僕らよりも本職のチッチさんたちの方が、正確な評価ができるだろう。あとは、できればこの二人に、僕らのダンジョンを見付けさせたいと思ってるんだ」

「ほぅ……。なるほど、サイタンから離れた山中の開口部を発見させるのですね?」

「その通り。僕らがトポロスタンに赴いたあと、受肉したモンスターを放出しただろう?」

「はい。既に追い出したあとです」


 僕の問いに、当然とばかりにグラが頷く。ラベージさんに習った冒険者の心得の一つに、見慣れぬモンスターがいればギルドに報告しなければならない、というものがある。それが、未発見のダンジョンを発見する切っ掛けになるかも知れないからだ。

 まだそれ程時間も経っていないし、向こうの冒険者ギルドも異変には気付いていないだろう。このタイミングで、伯爵家の意向で移動し、用事をこなしたあとにギルドが異変に気付けば、僕らは自然な形で事態に介入できる。

 おまけに、チッチさんとラダさんという証人付きで、自分たちのダンジョンを攻略するという心理的アリバイを作れるわけだ。まぁ、これは完全な身の潔白を証明するものではないので、人々の脳裏に僕らがダンジョン側であるという懸念を抱かせにくい、程度の要素でしかないが。


「チッチさんとラダさんが、未発見のダンジョンでどう動くかというのも、既にミルメコレオのダンジョン一度確認している。こちらの想定外の動きを見せる事は、まずないだろう」

「なるほど。あの二人を使いたいというのは、それも理由ですか」

「うん。フォーンさんやフェイヴみたいに、実力がありすぎる斥候が相手だと、早々に四層まで到着されかねない。あの開口部は、最初はあくまでも自然に、普通の小規模ダンジョンとして、人間社会には認知させる。その為には、実力者たちの目を引くのは、まだまだ時期尚早だ」

「はい。そういう意味では、チッチやラダは行動予測も立てやすく、実力も適度で、利用するには丁度いい存在ですね」

「そういう事。ラベージさんって手もあるけど、この場合身内で固めすぎると、あまり良くないしね。その分、完全な統率は取れなくなるけど」


 ラベージさんはすっかり、我が家の施設で冒険者としてのノウハウを教える先生という、セカンドライフを送っているからな。他所から、身内と認識されてもおかしくはない。

 ラダさんは光モノを見せると暴走する事もあるが、普通のダンジョンに見える上部に宝箱はないので、その心配も最低限ですむ。とはいえ、完全に制御する事はできないので、もしかすれば予定外の事は起こるかも知れない。

 まぁ、そのときはそのときと、臨機応変に対処しよう。


「勿論、伯爵家の用事をすませてから、だけどね」

「そうですね。では、いよいよ士官ですか……」


 面倒臭そうにため息を吐きつつ憂うグラ。

 そう。いよいよ、グラが本格的に伯爵家の家臣となる。これはその呼び出しなのだ。……普通は栄達なのだが、グラの表情は暗く、僕も苦笑するしかないが……。



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