第12話 第二回・転廻匣体験会
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うん。なんていうか、つくづく性欲のない依代で助かった。
眼前には、身長二メートル程の美女がいた。身長は高く、その肉体も決して弱々しくはない体付きなのだが、断じてゴツいという印象は受けない。ただ美しいというだけでなく、なんというか、生命としての美ともいうべきものが、彼女にはあった。
丈の短いシャツから覗く腹筋は八つに割れ、そのシャツを押し上げる胸部は、文字通りの意味でバスケットボールのようだ。股下何センチというより、股上〇センチくらいのミニスカートから覗く太腿は、実に健康的で筋肉質だ。
うん。実際、美しいというだけでなく、実にエロい……。高校生のままの精神だったら、まともに直視できていたかすら怪しい。いや、こんな事を思う時点で、依代でだってギリギリだ。
というか、この世界の貞操観念基準じゃ彼女の姿はほとんどただの痴女だ。下着姿で出歩いているのと、然して変わらないだろう。
肌は透き通るように白く、髪も新雪のような白さだが、爛々と輝く真っ赤な瞳が、彼女の白さに病的という形容を許さない。というか、お肌がツヤッツヤで、まったく健康的なのだ。
その白髪からは、同色のウサ耳がぴょんと飛び出し、彼女が北大陸ではかなり倦厭されている兎人族であると教えてくれる。
「どうも、初めまして。一応、この家の主をしているショーン・ハリューです」
「おうよ。
快活にそう言って笑うラヴィッティさん。なんと呼ぶか迷うところだが、流石に氏族名で呼ぶのはどうかと思うので、ラヴィッティさんがいいだろう。
「ええ、よろしくお願いします、ラヴィッティさん」
「おいおい、水臭ぇな! あんたと吾ら【
「そ、そうですか……。わかりました、ティコティコさん」
なんていうか、かなりグイグイ来る人だ……。まぁ、大剣を担いだ大柄な姿に相応しい豪放磊落な態度といって言えなくもない。
「ジューだ。お初にお目にかかる。【
「はい。よろしくお願いします」
ティコティコさんの隣に立っていた、身長一七〇程度の細身の男性が、ぶっきらぼうに挨拶をしてくる。正直、隣のティコティコさんのせいで、印象がめちゃめちゃ薄い。
髪は黒髪、腰に一振りの曲刀を提げており、黒を基調としたローブに近いチュニックと生成りのパンツ。装飾のいくつかはマジックアイテムであり、曲刀も魔術を使う前提の代物に見受けられる。
割とスタンダードな魔術剣士のスタイルだろう。
「お二人は、なにやら僕らにご用のとの事ですが、どのようなものでしょう?」
「その前にいいか? 俺たちは、君らが一週間はこの町を留守にすると聞いていたのだが、そちらの用件はすんだのだろうか?」
「ええ、まぁ。といっても、今回僕はあまり貢献できませんでしたが」
「いやいや、ちゃんと役に立ってたって。ショーン君のおかげで、道中の安全はかなり保たれたし、縁の下の力持ちって感じだったじゃん」
シッケスさんがフォローしてくれるが、やっぱり幻術師という魔術師の役割は、基本的に妨害と誘引以外にない。本来、魔術師に求められているパンチ力を出せないから後衛砲台にはなれず、術師である時点で前衛を任せるには頼りない。誘引が仕事である以上、パーティから離れられないので遊撃にも回せない。自分でも、帯に短し
根本的に、パーティ編成に向いていないうえ、目玉の妨害効果もモンスター相手だと、人間と比べて効きが悪いってのが大きいんだよねぇ……。ある程度、幻術という学問を修めた立場から言えば、正直幻術師は冒険者には向いていない。
まぁ、だからって、戦いに向いていないかと言われれば、それはまた別の話だが……。
「それで、ちょっと気になる事があって、急いで戻ってきたんです」
「気になる事? それはどういう?」
「いえ、まぁ、それはちょっと……。この様子だと、どうやら杞憂だったようですし……」
僕は苦笑して、応接室の部屋の隅で座っているフェイヴに視線を送る。フェイヴも苦笑しつつ、肩をすくめていた。
良く考えたら、いまこの室内には、フェイヴ、シッケスさん、ィエイト君、フォーンさん、ティコティコさん、ジューさんと、一級冒険者パーティ【
まぁ、しないけど。部屋の隅で控えているジーガも巻き添えにしちゃうし、なにより残ってるのが、セイブンさん、サリーさん、そして一級冒険者のワンリーさんともなると、デメリットの方が大きすぎる。本当に全滅させられるかもわからないしね。
「トポロスタンに呼ばれた用件、小規模ダンジョンに関しては、きちんと討伐に成功しましたよ。僕らは、ダンジョンを出たその足で、こちらに戻ってきただけです」
トポロスタンの町から、どうやって短時間での帰還したのかといえば、本来運河を経由して大回りしなくてはならない道程を、山中を突っ切って真南に移動したからだ。
そして、当然そんな強行軍で一番負担を強いられたのが、急遽斥候として雇われたフェイヴである。その分報酬は弾んだので許して欲しい。なお、シッケスさんは自分の意思でついてきたので無報酬でも良かったのだが、万が一を考えて護衛として、同額の報酬を出している。
そんなわけで、僕ら三人は事後処理をすべてセイブンさんと【
……今回は、ダンジョンコアのコアなんて、絶対に手に入らないしね。むしろ、そちらのコアが出た事で、僕の手元にバスガルのコアがやってくる可能性が高くなるかも知れない。
「ふむ……」
なにかを考え込むジューさんだったが、そんなしかつめらしい表情は長くは続かなかった。彼を押しのけるようにして、ティコティコさんが僕に話しかけてきたからだ。
「吾の用件は、オマエが吾の子の親に相応しいか否か、たしかめに来たんだ! 早速で悪いが、例の死神召喚とやらを見せてくれ!」
なんという、明け透けというか、身も蓋もないというか……。いい言い方をすれば、表裏がないという感じだが、普通に失礼である。
どうしてティコティコさんの為に、僕らが手札を晒さなければならないのか。いやまぁ、話に聞くウサギの特性、まんまだけれどさ……。
とはいえ、幸か不幸かこういうときの対策は立てている。以前と同じ対処で問題ないだろう。
「いいですよ。『羅針の
「ちょ――待ぁ!?」
フェイヴの悲鳴が聞こえた気がするが、僕は構わずマジックアイテムを起動し、空間内にいる全員で、第二回サイコロステーキ体験会を開催した。
巻き込まれたジーガがちょっと可哀想だが、以前と違って短時間でオンオフを切り替えれるようにしているので許して欲しい。ジーガの精神衛生を鑑みて、オーカー司祭より短時間で切りあげる事にする。
そんな事を、バラバラになった自分の左手とフェイヴの情けない右顔面を眺めつつ思った。
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