第100話 ネタバラし
「さて、それでは種明かしをしてもらえるかな?」
エスポジートさんたちが見えなくなり、周囲から余計な勢力が消えた事を確認してか、タチさんが問いかけてきた。その視線は僕ではなく、フェレンツィに向いていた。
まぁ、彼からすればそう問いたくもなるだろう。なにせ、今回の交渉において、彼ら大公側は一切の弁明も条件提示もせず、唯々諾々とこちらの要求に従っただけなのだから。
僕からの要求が些末な事だったというのもあるだろうが、あれでは自分たちに後ろ暗いところがあると言っているようなものだ。まぁ、チューバを送り込んでる時点で、あるのは明白だが……。
とはいえ、あれでは使者失格である。だが、それも仕方のない事だ。
「実は――」
「見つけたぞ、下郎ッ!!」
僕がタチさんに説明を始めようとしたところで、青空に突き抜けるような澄んだ凛々しい声が響き渡る。声の主を確認すれば、そこには見覚えのある影が……。
え? なんでこの人ここにいんの?
「ポーラ・フォン・ゲラッシ、推参である!! 我が領民を嬲りものにし、またいまもうら若き乙女たちを
そこにいたのは、重そうな鎧に身を包み、されど兜は着けていないという、ちぐはぐな姿のポーラ様だった。いや、え? あり得なくない?
だって、ミルとクルが誘拐されたってウワタンで教えてくれたの、この人だよ? 時間的に、このゴルディスケイル島にいるわけがないんだけど……。
「道を空けよォ!!」
まるで戦で先陣を切るような勢いで、ポーラ様が走り出す。道を空けるもなにも、いまのこの大通りには、僕ら以外に人影はない。もしかしてそれ、僕らに言ってる?
――ってか速ッ!?
五〇〇メートルは離れていそうな小さなシルエットが、瞬く間に等身大の大きさとなり、ポーラ様は既に抜き放っていた
「――ゥオオぉぉおおおお!! 天! 誅ゥ!!」
激高した表情のポーラ様が、口角泡を飛ばしながら、腰を抜かしているフェレンツィの脳天に
だが、そんなポーラ様の鬼気迫る一刀の前に、まるでフェレンツィを庇うように飛び出した影があった。誰あろう、我が家のメイド――ミルである。
「カラト一刀流――」
ミルが、どこかから取り出した鍔のない長剣を構えると、凍てつくような声音が耳朶を打つ。
「――
細身の刀身に青い光が広がり、まるで盾のようなそれを左肩にあてて、ミルはポーラ様の
「どういう事だ? なぜその悪漢どもを庇い立てる? よもや、端からショーン殿らを裏切っていた、不忠の輩ではあるまいな?」
ギリギリと、青い盾を押し込むようにしてポーラ様が問いかける。対するミルは、面倒くさそうにため息を吐いただけだ。いや、あれは本当に、説明が面倒くさいから投げた顔だな。
あの子、本当に自分の興味がある事以外は、やる気というものが一切ないんだよな。フェイヴやシッケスさんにアホの子扱いされているのも仕方がないと思う。
「ポーラ様、大丈夫ですから剣をお納めください」
「ふむ、グラ殿か。口出しはご無用。この者らが、其方らの屋敷から攫われたという事は、君の弟君には説明済みだ。また、こ奴らは我が領の無辜の民を殺害した。領主の代理として、決して許せるものではない。誅を下すは、騎士としても、領主代理の官吏としても、当然の義務である」
いや、それはたしかにそうだが、それでわざわざ治外法権の地に、海を渡ってまで追ってくるというのは、普通ではないだろう。だが、いまそんな事に言及しても仕方がない。
いまはポーラ様を止める方が先決だ。
「ポーラ様、無闇にその連中を殺す必要はありません。そいつらは既に、こちらの掌中にありますから」
「掌中? どういう意味だ?」
ポーラ様にそう問われ、僕は論より証拠とばかりに小指の指輪に話しかける。
「こちらブルー、こちらブルー。ゴールド&シルバー、応答願います」
すると、一秒程度のラグを経て、ミルとクルの左手の小指に嵌められていた指輪から、先程僕が発した声と同じものが聞こえてくる。まぁ、ここまで近ければ、流石に通信が届かないという事はない。
「こちらゴールド。なぁ、なんでわざわざこんな名前を使うんだ?」
「いぇーい、こっちはシルバー。っていうか、なんでブルーはレッドの格好してんの?」
ミルとクルの姿で、しかし使用人らしからぬ言動をとる二人。そんな二人の姿に、ポーラ様がぽかんとした表情で動きを止める。そんな弛緩した空気に便乗してか、フェレンツィ以外の、冒険者風の男たちが逃走を敢行した。
「バァーカ! んな真似、許すわけねーじゃん!!」
クルもまた、どこかから取り出した朱柄の槍を携えて男らの背を追う。全員を足払いで転がし、あっさりと踏みつけて取り押さえてしまう。男たちも、冒険者としては別段腕が悪いという事もなさそうなのだが、クルはまるで赤子を相手にするかのように、歯牙にもかけない有り様だ。
もうここまでくれば、彼女たちが誰なのか、ポーラ様にも、そしてタチさんにもわかったらしい。その答えを示すように、ミルの方がさっさと親指の【
そこにいたのは、怜悧な面差しに細身の長身の美青年。そして、金糸の髪に特徴的な長い耳のエルフ――ィエイト君であった。
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