第3話 お勉強と嫌な予感
死霊術というのは、まぁ、端的に言えば簡易モンスター生成術だ。そこにある理は、大まかにいえばダンジョンのモンスターを生み出す過程と、それが受肉していく過程をなぞる。
とはいえ、本来のダンジョンのモンスター生成にはDPを用いる。その根幹は生命力であり、ダンジョンにおけるモンスターを生み出す術は、基本的には生命力の理に属す。
由来となるエネルギーが違うので、理やプロセス、結果も違ってくる。死霊術を生み出したダンジョンコアも、流石にダンジョンの基本構造をそのままに、【魔術】に落とし込むような愚は犯さなかったらしい。
「それでもやはり、ここまでモンスターの根源を、人間に漏らした罪は大きいかと」
「相変わらず、グラはそのダンジョンコアに厳しいなぁ」
「当然です」
きっぱりと言い切るグラに、僕は苦笑する。まぁ、ダンジョンコアからしてみれば、まったく余計な事をしてダンジョンコア全体を危険に晒したのだ。それなりに文句もあろう。
とはいえ、死霊術そのものに罪は……いや、あるか……。死霊術そのものが罪であろうと、それに利用価値があるのなら利用するべきだ。下手にこの技術が発展し、ダンジョンの生態に関する知識が、人間側に漏れるという危惧はわかるが、それでも技術というものは発展する。その過程を、完全に敵勢である人類に委ねるというのは、如何様拙かろう。
勿論、僕が手を出して、そこにダンジョンの秘奥を付け加え、人類側に流布しないよう、重々留意するつもりではあるが。僕だって、そのダンジョンコア並みにグラに嫌われるのは、絶対にごめんなのだ。
「とはいえ、死霊術に関しては人類側でもそこまで研究が進んでいるわけではなさそうだ」
「そのようですね。そもそもが、そのダンジョンコアの用いていた死霊術を、見様見真似で取り入れたのが元です。人類としても、完全な形でそれを修得できたわけではないのでしょう」
「その分、こっちはそのダンジョンコアの残した死霊術の全容がわかるわけだ」
「はい。基礎知識に載っています。当のコアは、この死霊術がダンジョンコア全体の、エネルギー問題を劇的に改善せしむると、心の底から信じていたのでしょう」
「そう考えると、多くのダンジョンコアから蛇蝎の如く嫌われている現状は、少し同情しちゃうね」
「仕方がありません。その心意気はどうあれ、結果があまりにもお粗末だったのですから」
まぁ、結局そこに行き着いちゃうよねぇ。どれだけ立派な志、崇高な目的であろうと、結果的に種そのものの立場を危うくしたその者は、卑下され侮蔑される対象にしかならない。
僕が多少同情的なのは、未だにダンジョンコア全体の生存戦略に対して、当事者意識を持てないからなのだろう。まぁ、これは必ずしも、悪い事だとは思っていない。
僕はあくまでも、グラを神に至らせる為に生きているのであって、ダンジョンコア全体の繁栄という目的に、心血を注ぐつもりはそうないのだ。この点、グラはどうかは知らないが、僕としてはグラさえ良ければ、他のダンジョンコアがどうなろうと、あまり頓着するつもりはない。勿論、積極的に狩っていくつもりはないが、表の立場である冒険者というカバーを守る為なら、ダンジョンの主の討伐を請け負うつもりはある。
ダンジョンコアが惑星のコアを目指している以上、いずれ相争うのは必定なのだ。それが、早いか遅いかの違いでしかない。
そんな事を考えつつ、僕はグラに教えられるままに、死霊術の基礎を学んでいく。既に幻術、属性術と、【魔術】の基礎を学んでいるので、それなりに手慣れたものだ。とはいえ、深淵に近付けば近付く程に理は複雑怪奇に、術式への応用は艱難辛苦を極めるものだ。
とはいえ、学問の入り口というものは、その道の険しさによらず、胸が躍ってしまう。僕はそんな事を考えつつ、死霊術の基礎の基礎を学んでいく。
●○●
次の日の朝も早く、なんとこの町の代官からアポイントメントの依頼が来た。
いやまぁ、先の騒動を思えばある意味当然の動きなんだが、こちとらバカンスにきてるんだっての……。お偉いさんとの面会とか、正直勘弁してくれと思う……。
「とはいえ、会わないワケにはいかなんだけど……」
「気乗りしないのなら会わなければ良いのでは?」
「そうやって、面倒がって人間関係の構築を怠った結果が、あの【扇動者騒動】だったんだよ。権力者との関係は、良好にしておいた方が面倒がない」
あの騒動でも、領主との関係が僕らにとって有利に働いた結果、過程の面倒事はともかく、後片付けの面倒は避けられた。
封建国家の地方領主ともなれば、その領内においては王様も同然の権力者であり、その領主に町を任せられている代官であれば、その権限は驚く程大きい。下手に角を立てるような真似はすべきではない。より大きな面倒事を招くだけだ。
「それに加えて、今回はこのウワタンの住人たちとも、良好な関係を築きたいね。ホント、あんな騒動は二度とゴメンだからさ」
「そうですね。こちらの町には、まだ我々の拠点がないのですから、敵を引き込む場所がありません。厄介事はできるだけ避けた方が、なにかといいでしょう」
まぁ、グラにとっては、騒動が起きてもダンジョンで殺せるなら、そちらの方がいいのだろう。だが、このウワタンの地上付近には、まだダンジョンがない。そういう意味で、彼女は争いを起こすべきではないと言っているのだ。
まぁ、穏便に済むならそれでいいかと、僕は町の代官との面会を了承した。面会日は明日の昼頃という事らしい。代官のくせに、なかなかフッ軽のようだ。もっとどっしり構えていてもいいのに……。
――……と思っていたら、午後には他にも面会依頼が舞い込んだ。それも三つ。この町の冒険者ギルドの支部長。カベラ商業ギルドのジスカルさん。そして、どこかの誰それの使いと名乗る、誰か。
いや最後のヤツ、本当に『
それにしてもジスカルさん、あの人なんでアルタンから離れてんの? ジーガ残してきた意味ないじゃん。
まぁ、アルタンからウワタンに続く道は、スティヴァーレ圏に向かう道だし、カベラ商業ギルドではスティヴァーレ半島の担当だったジスカルさんからすれば、こっちの方が自分のテリトリーに近いからなのかも知れないが、勘弁して欲しい……。僕がジーガに代わって、彼と交渉する事になったら嫌だなぁ……。
「なんか、バカンスにならないような気がしてきた……」
「奇遇ですね。私もなぜか、嫌な予感がしてきました……」
いきなり舞い込み始めた面会依頼に、僕が不安を吐露すれば、グラもまたそれに頷いた。彼女の心配そうな視線に、僕は苦笑を返す。
まぁ、大丈夫だろう。流石に、釣りをする時間くらいは確保できるはずだ。……できるよね?
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