第96話 偽物
とはいえ、生命力が少なくなっている現状では、あの大怪獣をまともに相手できる余力は、僕にはない。幸い、憚る人目も減ったこの状況、存分に補給させてもらおう。
「――……くそ……」
最低だ。やはり依代であるせいか、エネルギーの変換効率が悪すぎる。瓦礫の中で死んでいた人間の生命力の総量は、概算ではあるが二〇MDPにも届いただろう。だがしかし、この依代に現在吸収できたのは、精々一Mだ。
僕の生命力の総量的には十分ともいえる量だが、吸収する為に三M程度を浪費している感覚がある。おまけに、残りの多くのDPを未だに吸収できていない。
それは、僕がダンジョンコアではなく、疑似ダンジョンコアとして作られた依代だからだ。流石に、己で生命力を生成できる依代が、ダンジョンコアと同じように他の生命体から直接生命力を吸収できる、などという都合のいい話はなさそうだ。
というか、もしそれができるなら、疑似ダンジョンコアは完全にダンジョンコアの上位互換になる。
「貴様!? どういう事だ? ただのモンスターごときが、生命力を吸収するだと!?」
「なぜって? それはここが、僕のダンジョンだからだよ?」
そんな不都合な点を丸っと無視しつつ、僕はものすごい剣幕で問うバスガルに嘯いてみせる。正直、想定していたよりも、状況はよろしくない。ここまでエネルギー吸収効率が悪いとは……。
それでも、できるだけ余裕の態度は崩さない。僕が死にかけだと気付かれるのは、避けないといけないのだ。もしバレたら、あっさりプチッと殺されて終わりだ。
「ダンジョンだと!? 冗談だとしても笑えぬ! 貴様は、我らダンジョンコアと同じ事ができるとでも抜かすつもりか!?」
「さて、まったく同じ事ができるかと聞かれると、流石にそこまで万能じゃないけれどね。それでも僕が、ダンジョンコアの代替品として作られたのは事実だ」
「バカバカしい! そのようなものがあってたまるか!!」
バスガルは苛立ちをぶつけるように、僕に向かって大口を開けると、ごうと火炎を放つ。これをまともに食らえば、ひとたまりもない。
けれど大丈夫。ここは僕のダンジョンなのだから。保管庫にものを移動させるのと同じ感覚で、隔離された部屋に自分を取り込む。さらに視覚を飛ばし、頃合いを見計らって元の通路に戻る。
ここが自分のダンジョンであるなら、この程度の事は造作もない。
「あっつ……」
熱された通路が、半分解けかけている。降りた床から、ジュウジュウと靴裏を焼く音と匂いが漂う。
壊れにくいダンジョンの壁を、一撃でここまで痛めつけるとは……。
「ダンジョンコア同士が、直接干戈を交えるなんて、不毛だと思わないかい?」
「黙れ下郎!!」
激昂するバスガルには、取り付く島もない。まぁ、仕方ないだろう。それでもヤツは、こちらに近付こうとはしない。お互いに、相手の領域に足を踏み入れたくないのだ。
ダンジョンコアにとってダンジョンというものは己の体のようなものであり、その内部にいる限りにおいては、あらゆる生物に優越する。勿論、同じダンジョンコアが相手であろうとも、だ。
現に、いま僕は自分の十倍、二〇倍の
自分のダンジョン内であれば、『なんでもできる』というのは過言だが、それに近いくらいに自由度が高いのが、ダンジョンコアの優位性である。だからこそダンジョンは、互いに侵略し合う場合においては、モンスターを送っての侵略を行う。できる限り、相手の懐に入りたくないのだ。
僕がなにをしたのか、ダンジョンコアであるバスガルには簡単に推察できたのだろう。その事で、僕自身がダンジョンを操っているという事実も、理解したに違いない。
「ぬぅぅうう!! 面白くない!! 我らダンジョンコアの紛い物など、虫唾が走るわ!」
だからこそ、バスガルは憤る。種に対する誇りか、単純な嫌悪感か、彼は怒りに歯をむいて僕を睨み付ける。
「貴様ら主従は、なにからなにまで癪に障る! 我の都合で、浅き貴様らに挑んだ勝手故、少々手心を加えていたが、もはやそのような仏心など消え失せたわッ!!」
「はッ! 笑わせてくれる。まさか、攻める相手に同情していただなんてね。君の死因は、舐めプだよ。こっちの準備が整うのなんて待たず、さっさと攻めてくれば良かったんだ」
そうしていたら、僕らは恐らく、尻尾巻いてこの町を出ていっただろう。最優先すべきは、グラの安全なのだから当然だ。
真正面からガチンコの殴り合いをして、小学生が大人に勝てるわけがないのだ。僕らとバスガルとの間には、それくらいの力量差が存在した。
「さぁ、侵略戦争を再開しようか!」
「戯けが!!」
僕らとバスガルのダンジョンとの争いは、いろいろな意味でイレギュラーだった。僕らは戦力が足りず、事もあろうに人間を引き入れたし、バスガルはバスガルで、別の目的を優先するあまり、僕らの事など眼中になかった。
ダンジョンコア同士の、本来の戦い方は直接対決ではない。それをここで、再現しようじゃないか。
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