第68話 三組の上級冒険者パーティ
「セイブン、酷い顔してるよ?」
「問題ありません。報告を」
「そうやって、気を張るだけが賢いやり方じゃないでしょうに……」
フォーンはため息を吐くと、すらすらとここから一本道までの道程について、情報を開示する。人の事は言えないだろうという言葉は、呑み込んでおく。
今回の探索で、率先して危険な場所を探し、攻略しているのは彼女だ。前回、護衛対象であるショーンさんを守り切れなかった点や、今回もショーンさんやグラさんが探索に加わっている事で、誰よりも張り切っているのが彼女なのだ。
その割には、ハリュー姉弟を避けている点は気になったが、まぁ、護衛任務を失敗した手前、気まずいのだろう。
そんなフォーンが率いていた探索隊からの報告をうける。報告を受ける場には、今回のダンジョン攻略において、主力と目されている四級冒険者二名を含む上級冒険者パーティもいる。探索能力や経験は少々心許ないものの、戦闘能力だけを評価するならなかなかのものだ。冒険者ギルドにおいて評価が高いのも、納得の実力である。
予想通り、ダンジョンの主は保有するダンジョンの戦力を、ほとんどショーンさんたちに差し向けているらしい。進路には、疎らなモンスターが散見されるばかりで、形ばかりの防衛にしか感じられない。
いまを好機と判断したのは、間違いではなかったのだ。
フォーンに対して、決定事項としてこれからの方針を伝える。事前に、フェイヴたちと分断され、恐らくはそちらに
フォーンはその眉間に深い皺を刻み、私の判断に対して不服そうな表情を浮かべたものの、私と同じように町の安全を優先してくれたらしい。しかめっ面のまま、無言で頷いた。
「我々の目的はバスガルに続いていると思われる通路の確保と、それが適った際にはその場の死守です。これには、戦略的にとても大きな意味があります。ただし、この状況自体が罠であり、我々を誘き寄せようと画策された策略である可能性もあります。各々、それを念頭におきつつ動いてください」
「まだるっこしいぜ、セイブンさんよぉ」
異議を唱えたのは、四級冒険者のエルナトだ。その目には、私に対する反発心がありありと窺える。歳はまだ十代後半。なまじ才能があるだけに、階級的に目上の私に反発心があるのだろう。
深い藍色の短髪に勝気そうな青い瞳で、いかにも思春期真っ盛りの悪ガキといった風情だが、その風体は一流の装備に身を包んでいる。腰の剣も、恐らくはかなりの業物だろう。
彼のパーティ【
だが、エルナトにはどうしても言いたい事があるらしく、静止する仲間を振り払って私に突っかかってきた。
「モンスターがいねえなら、さっさとダンジョンの主のところまで攻め込めばいいじゃねえか! お仲間が下手こいたからって、日和ってんじゃねえのか!?」
「おい、やめろエルナト! いくらなんでも失礼過ぎる!!」
「うるせぇ!!」
まったく……。冒険者ギルドの冒険者の評価基準は、基本的には戦闘能力だけだ。それは、現在の冒険者の役割的には仕方のないところなのだが、それでも別の評価基準の重要性を、こういうときは痛感する。
少なくとも、大きな攻略作戦中に足並みを乱すような輩は、上級冒険者にしてはいけないだろう。これならば、ハッキリ言って彼らの代わりにハリュー姉弟がいた方がマシだ。いや、どうだろう……。ショーンさんはともかく、グラさんはこのエルナトと大差ないかも知れない。
「私はセイブンさんの判断に従うわ。そこのおこちゃまと違って、作戦行動中の指揮者に従えないような、ド素人じゃないもの」
エルナトの罵声を遮ったのは、高くはあるものの力強い声音の女言葉だった。それを発したのは、長い飴色の髪を艶やかにたなびかせた、長身の美丈夫――もう一人の四級冒険者、フロックス・クロッカスだった。
シャツやズボン、鎧を始めとした武具はまっとうな代物なのだが、どこか小奇麗で瀟洒な印象を受ける格好だ。こんな場所だというのに、その肌や頭髪は手入れの行き届いた輝きを放っており、その顔にはばっちりメイクが施されている。
彼ら自身が持ち込んだ物資でその状態を維持しているのなら、文句を言う筋合いではないのだが、それでもやはりこの状況では無駄といわざるを得ない。
ただ、その点以外においてフロックスのパーティは常識的な四級冒険者といって差し支えないだろう。全員が女装しているという点は多少特異といっていいが、それは実力や作戦行動においては、さしたる問題ではない。
「なんだと、このカマ野郎!! 殺されてぇか!?」
「イキってんじゃないわよ、クソガキ。そんなんだから、四級になっても舐められてんだってわかんないの?」
エルナトは同じ四級であるフロックスに対しても、対抗心があるようで事あるごとに諍いを起こしている。
正直なところ、エルナトを始めとした【
ギルドの職員としても、彼らはあまり評価できない。冒険者の評価基準が戦闘能力なのは、彼らの主な役割がダンジョンでの戦闘だからだ。だからこそ、ダンジョンでの作戦行動に支障を来すような輩を、高く評価するわけにはいかない。
だが、そんな扱いづらい駒も使う事が、指揮者には求められる。彼らの扱いづらい点を抑制し、なんとかその戦闘能力だけを発揮してもらおう。
その後、彼らのギルドにおける評価がどうなるとも、私にはあずかり知らぬ話だ。
残念ながら、いまアルタンの町の近くで作戦に参加できそうな上級冒険者パーティは、この二組だけなのだ。これ以上の戦力は、現状では期待できない。
「【
「おいおい、どうせなら一番槍だろうがよぉ! おっさんは休ん――」
面倒なので、エルナトの頬を鷲掴みにして黙らせる。こういう輩は、犬と同じだ。実力差がわからないから、キャンキャン吠えるのである。一度上下関係を教え込めば、案外扱いやすい駒になるかも知れない。
私はエルナトを片手で持ちあげると、その半分だけの顔にぐいと自分の顔を寄せる。額が触れ合いそうな距離で、真正面から見つめ合う彼の青い瞳には、明らかに怯えの色が浮かんでいた。
「お前の役割は遊撃。これは決定だ。もしも役割外の行動をして迷惑をかけるようなら、お前ら全員モンスターよりも先に私に殺されると思え」
なんとか私の手を外そうと【
やれやれ、本当に世話が焼ける。これだから、冒険者というものは……。
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