第54話 ダンジョンの退き口
「ハッハァ!! とれぇとれぇ! んな動きでこっちを捕まえるなんて、百万年経っても無理ぎみだし!!」
朱柄の槍を携え、銀光が坑道を閃く。銀の稲妻が通り過ぎた道筋では、バタバタとモンスターが骸と化していく。
敵のはるか後方で混乱が巻き起こっているのを眺めつつ、僕らは生き残ったモンスターをなぎ倒して進んでいた。薄暗い洞窟を僕が照らしてはいるものの、流石に彼女のいるところまでは照らせない。
だが彼女には、鉢金が光る兜がある為、照明の届かない場所でもある程度は戦えるらしい。とはいえ、明暗の差が激しく、また敵の只中で戦い続ける事は不可能なようで、ある程度混乱が広がったところで、敵の目を眩まして戻ってくる。使ったのは、恐らくはイヤーカフの【霧中】だ。
白い霧がぶわりと広がり、そこから一目散に飛び出してくる銀雷は、再びモンスターをなぎ倒しながら帰還を果たした。霧の方は数秒で消え去る程度のものだが、一瞬の目眩ましとしては十分だろう。
「おお、格好いい……!」
僕はつい、目の前で繰り広げられた光景に、感嘆の声をあげてしまう。そんな悠長な状況ではないのだが、あまりにも絵になる光景だったのだ。
ヒカリゴケの微弱な赤色に照らされた空間に、僕が照らしている照明をスポットライトにして、舞台役者も裸足で逃げ出すような登場シーンになっている。突如として白い煙が広がったかと思えば、そこからまさしく疾風迅雷の勢いで飛び出してくる銀髪の美女。次の瞬間、彼女の背後で霧消するモンスターの霧は、スポットライトを反射するように、キラキラと煌めいて消えていく。
それがあまりにもハマりすぎていて、格好いい。本当に、なにかのアニメかゲームのようだ。いや、もういっそ、ニチアサのヒーローくらい、あからさまに格好いいといえるかも知れない。
それにしても、霧の色が変わるなんて初めて見たな……。これまで僕が倒してきた、ネズミ系はただの黒い霧に変わっただけだった。どこかに違いがあるのだろうか? あの現象が、内包されている生命エネルギーの拡散だと考えると、それぞれのモンスターが有していた属性の色か? いずれ自由にモンスターが作れる環境になれば、試してみよう。
「ショーン君、ごめ! もちっと敵を混乱させて!」
「了解です!」
そんな格好いいシッケスさんに依頼され、先程まで彼女がいた辺りに幻術を叩き込む。といっても、こちらは視覚的に派手なエフェクトがあるわけではない。僕が杖をそちらに向け――
「【
――と唱えるだけだ。以前フェイヴが、厄介だと言っていたモンスター、パニコスアクリダの使うのと同じ、【混乱】の幻術である。対集団の幻術としては、やはり【混乱】は外せないだろう。
狙い通り、モンスターたちが同士討ちや見当違いの方向に向かって走り出す。【混乱】の幻術の効果はゲームなどと同じく、同士討ちや無意味な行動の誘発だ。
効果だけ見ると便利そうな幻術なのだが、確実に相手にかける方法はないという使いづらさがネックである。通常時では、だいたい十回中一回程度の確率だ。
少数の敵が相手だと、無駄になる事も多い。勿論、成功率をあげる事はできる。その方法は、幻術ではない文字通りの意味で混乱している相手に使う事。
つまり、シッケスさんという稲妻に、群れをズタズタにされたモンスターたちに対して、効果は抜群なのだ。
ざっと見た感じ、三分の一くらい混乱していないか?
「よし! ィエイト、前線を押し上げるっす!」
「わかっている!! カラト一刀流――
ィエイト君が横なぎに振るった剣身から、青い閃光が迸ったとき僕は反射的に目を瞑ってしまった。そして、目を見開いたとき、またも驚きの光景が広がっていた。
こちらに押し寄せていたモンスターの肉体が、きれいに半分にされ、その断面がずらりと広がっていたのだ。そのあまりの威力に、上半身こそ地面に落ちていたものの、残った下半身は直立したままである。
僕の使った【混乱】などよりも、余程集団戦向きの技だ。たしかにすごいが、ちょっとグロい……。そして全然、一碧ではない。むしろ赤い。どこまでも赤グロい……。
「行くぞ!!」
躊躇する僕を後目に、この惨状を作り出したィエイト君はそう声を発する。ハッとした僕たちも、先導するフェイヴに続いて動き始める。またもシッケスさんが前にでて、その後ろをフェイヴが、間に僕とグラとダゴベルダ氏を挟んで、殿がィエイト君だ。
ィエイト君は、後方からの敵を一人で受け持ってくれているのだが、彼も彼ですごい。さっきのモンスター輪切り平原もすごい技ではあったのだが、彼の真骨頂はどう見てもその防御力だ。
たった一人で、僕らに追いすがってくるモンスターを防ぎ切っているのだから。ときに正面から敵を斬り伏せる事もあるが、それはあくまでも撤退において不利になる相手のみ。
大抵は、手足を傷付け、相手の進行の邪魔になるところに放置する。それだけで、敵の攻撃が鈍るのだ。
「カラト一刀流――
ィエイト君の持つ細い刀身の剣に、青い光が広がり、まるで盾のようになる。彼はそれを左肩にあて、大型のダブルヘッダーの突撃を真正面から受け止める。その後、双頭を斬り飛ばして僕らの護衛に戻ってくる。
あんな大きなトカゲの突進を受け止めるのもそうだが、守りにおいてあまりにもそつがない。ついつい、後ろに敵がいるという事を忘れてしまいそうな程、安心感がある戦い方だ。だというのに、あの攻撃力……。
うん、今日から君には『進むもィエイト、退くもィエイト』の称号をあげよう! 滝川一益みたいで格好いいな!
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