第49話 野営準備

「今日の探索はこんくらいっすね。どうします? 戻りますか?」


 先頭を歩いていたフェイヴが、そう切り出した事で、僕はホッと胸を撫でおろした。今日は、生まれてからこれまでで、間違いなく一番、戦い通しの一日だった。ィエイト君、厳しいんだもん。

 とはいえ、やはり指導は適格で、戦いつつもなるほどと舌を巻く場面が何度もあった。

 フェイヴの言葉に、ダゴベルダ氏が応答する。


「いや、今日は一度野営し、明日はいけるところまで進もう。その後、懸念の通りであれば、地上に戻る。あの、セイブンとかいう小僧も連れてな」

「了解っす。じゃあ、野営の準備を始めますっす」


 言うが早いか、フェイヴは薪と寝床、それに加えて簡単な調理器具の用意を始める。以前このダンジョンを調査したときと、ほぼ同じではあるのだが、他の人はやらなくていいのだろうか? 以前はフォーンさんも用意していたのだが……。

 そう思ってシッケスさんに顔を向けたら、僕の意図を察したらしく、少しバツが悪そうな顔で、頭をかいて苦笑した。


「いやぁ、こっちは野営の準備をすんなって、言い含められてんだよね。ィエイトもそう」

「適材適所だ。僕に、給仕や料理人の真似事などできん」

「あんたは、自分の好きな事以外、なぁんもできないっしょ。偉そうに言うなっつの!」

「貴様とて、野営の準備などできんだろ!」

「できないけど、ちゃぁんとフェイヴやフォーン姉さんには感謝してるし!」

「僕だって、感謝くらいはしている!」


 いつものように、シッケスさんとィエイト君が喧嘩を始めた。どうやらこの二人、野営の準備をすると足を引っ張る類の人のようだ。冒険者として、それはどうなんだろうとも思うが、僕だって冒険者のくせに野営の準備などできないので、言葉にはしない。でも、僕と違って野営経験も豊富なんだよね……?

 そうこうしている間に、テキパキと野営の準備を終えたフェイヴが、夜番の時間割を始めた。


「前回はショーンさんは依頼主だったし、カバーする人間が足りなかったから、不寝番はやらなくていいって事にしたんすけど、今回はどうするっすか?」


 ああ、そうか。前回はフォーンんさんとフェイヴしかいなかったから、僕だけに任せるのは逆に危ないという事で、夜番を免除されていたが、今回は二人を三組にできるわけか。


「では、僕とフェイヴさん、グラとシッケスさん、ダゴベルダ氏とィエイト君でいいのではないでしょうか?」

「ま、そうっすよね。あとは順番っすが……」

「ちょっと待て。その前に、なんで僕に対する敬称が、なのだ!? 軽んじられているようで、気分が悪い!」

「えー……」


 面倒くせぇ……。別に君付けに意味なんてないよ。単に、言動から受ける印象がなんか幼いんだよ、君は。まるっきり、反抗期の子供って感じ。


「まぁ、ィエイトの呼び方なんて、どうでもいいっすから、順番決めましょうっす。順番!」

「こっちは早い方がいいなぁ〜」

「そりゃ、みんなそうっしょ。ダメっすよ。一組二時間ずつ、順番は公平公正に決めるっす!」

「吾輩もそれで構わん。好みを述べるなら、真ん中は少し嫌だ」


 フェイヴとシッケスさんの会話に、ダゴベルダ氏も意見を述べる。たしかに、一番睡眠が途切れそうな、真ん中は嫌だな。だが、それは誰にとってもそうだったようで、シッケスさんは馴れ馴れしくダゴベルダ氏の肩を叩きつつ、明け透けな態度で言う。


「誰だってそうっしょ! んじゃ、なにで決める? ジャンケンはダメよ! こっち、ガチでジャンケンクソザコだし」

「なんでもいいっすよ。分け方はシッケスちゃんが決めていいっす」

「ちょっと待て! まだ僕の話は終わっていないぞ! それに、なぜシッケスの不利な選考方法が退けられ、代替案をシッケスがだすのだ!? それでは僕が不利になるではないか!?」


 自分をおいて進む話に、ィエイト君が食ってかかった。だが、そんなィエイト君を、シッケスさんが小悪魔の笑みで見ていた。


「ぷくく……。ィエイト激弱のカードで決めよ。時間潰しにもなっていいっしょ?」

「俺っちはそれでいいっすよ」

「吾輩も構わん」

「あ、僕も構いませんよ。ルール知りませんが……」

「私も構いません。ルールに関しては、その場で覚えればいいでしょう」


 フェイヴ、ダゴベルダ氏に続いて、僕ら姉弟までもカードでのチーム分けに応じた事で、完全無欠の少数派に追いやられたィエイト君が、ぐぬぬとでも言わんばかりの表情を浮かべたあと「勝手にしろ!」と言い捨てて、どかりと焚き火の側に腰を下ろした。

 さて、カードという事だが、まさかトランプではあるまい。なにげにこの勝負、ィエイト君よりもルールを知らない僕らの方が不利だ。まぁ、負けても夜番の順番が真ん中になるだけの事なので、別にいいのだが。

 その後、全員が焚き火の傍らでカードゲームに興じ、夜番は僕とフェイヴが最初、ダゴベルダ氏とィエイト君が真ん中、グラとシッケスさんが最後、という事になった。なるほど、たしかにィエイト君、激弱だった。


 それにしても、そのままトランプではなかったが、様式もルールもかなりそれに近かったな。まるで、トランプを元にこちらのカードを作ったような……。



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