第45話 重大で深刻な発見

 現れたモンスターは三種。モスイーターと光トカゲのどれか、それに加えてバーグラーサーペント。厄介なのはバーグラーサーペントだったが、それはあっさりシッケスさんが仕留めた。

 瞬く間に駆けて、脳天を一突きだった。モスイーターはィエイト君がいつの間にか倒していたし、光トカゲの方もフェイヴが以前にも見た、登山用ピッケルのようなもので倒していた。

 実に危なげない戦闘であり、僕らの出番などなかった。ついでにいうと、シッケスさんとィエイト君の実力が、いまだに判然としない。僕ごときでは『超強い』というくらいの事しかわからないのだが、それがあのビッグヘッドドレイクを倒せるような実力なのかどうかは、残念ながら僕の中に物差しがない為に、計りかねている。


「あー、やらかした!」


 戦闘後の弛緩した空気を切り裂くように、シッケスさんが声を発する。それにフェイヴとィエイト君、ダゴベルダ氏が反応し、遅れて僕も緊張感を顔に滲ませる。グラは最初から最後まで無表情だ。

 すわ再度の襲撃か、はたまたなにかしらのトラブルかと警戒する僕らの前で、シッケスさんはあっけらかんと、舌を出して宣う。


「ショーン君にもらった耳飾りの効果を確認するのを忘れてた。敵が強くなる前に、使い勝手をたしかめときたかったのにぃ!」


 その言葉に安堵すると同時に、ちょっとだけイラっとする。いやまぁ、彼女にとってはまだまだ慌てるような場所ではないのだろうが、こちとらダンジョン探索は素人なのだ。大きな声を出されるだけでも心臓に悪いというのに、それが戦闘後ともなると、緊張感も一入だったのだ。

 まぁ、いいけど……。


「シッケスちゃん、不用意に大声を出さないで欲しいっす。モンスターを誘き寄せて、余計な戦闘が発生する可能性もあるっすし、戦闘後だといろいろと態勢が整っていなくて、予想外の損害を被りかねないんすから」

「あー……、りょ。ごめんごめん」

「まったく……。これだから貴様は愚鈍だというのだ。ダンジョンにもぐる度に同じ注意をされているだろうが」

「うっせーよ、クソエルフ。お前だって何回も、同じ事注意されてんだろ!」


 フェイヴには素直に謝ったシッケスさんだったが、ィエイト君には悪びれる事なく反論している。もしかして、ファンタジー小説なんかの定番通り、エルフとダークエルフは仲が悪いのだろうか。だとしたら、よくもまぁ同じパーティに所属しているものだ。


「……まったく、緊張感のない。これが【雷神の力帯メギンギョルド】とは……。一級冒険者パーティという事で、多少は期待しておったのだがな……」


 ダゴベルダ氏はダンジョン内で騒ぎ続けている三人を遠巻きに、ため息を吐いてからダンジョンの壁を観察したり、ヒカリゴケを採取したりと、以前ここを訪れた僕と同じような行動をしていた。グラはグラで、歩いた距離からダンジョンの地図を描いては、アルタンの町の地図と見比べていた。

 手持無沙汰というわけではないが、戦闘では役立たずなうえ、調査でもなにもしないわけにもいかず、これまでに冒険者ギルドに提出されていた資料を再読しつつ、今回倒したモンスターの種類と数を記録する。こんなに入り口付近でバーグラーサーペントが目撃された例を探したが、やはり前例はないらしい。

 それを告げると、ダゴベルダ氏は――


「ふむ……。興味深いが、モンスターの分布は例外というものが多い。一例だけを論うのは、不毛であろうな……」


 グラは――


「以前の事もあります。危険に敏感になるのは良い事です。私も、いっそうの警戒をしておきますので、ショーンもまた油断だけはしないよう心掛けてください」


――との事。まぁ、以前のようにモンスターの大群による波状攻撃の前兆とまでは、僕も思っていない。だがまぁ、あんな死に方はもうゴメンなので、グラの言う通り警戒だけは怠らないようにしよう。

 それからも何度かモンスターの襲撃はあったものの、プロ組は危なげなく襲撃者を撃退していた。シッケスさんも、イヤーカフの使い心地を確認して、ご満悦だ。

 彼女はどうやら、敵陣に切り込んではそこで暴れ回り、撹乱してから味方の元へと戻る、ヒット&アウェイのような戦いを得意としているらしく、撤退時に使える【霧中】のマジックアイテムは重宝するらしい。

 まぁ、こちらのもそう聞いていたから用意したのだ。想定外に不具合でも見つからない限り、ご満足いただける品を用意するのは当然だ。

 なおもう片方は、シッケスさんとィエイト君の二人ともに用意した、【幻惑】の装具だ。身を守る為にも闘争の為にも、あるいは、戦闘中のフェイントにも使えるので便利だろうと用意した代物だが、それなりに高度な幻術である為、多用はできない。

 無理に回数を使おうとすると、以前の【蘭鋳】や【夢海鼠】のように、耳ごと弾けてしまうと注意したので、濫用は控えてくれるだろう。もしも不用意に使い過ぎたとしても、こちらとしては注意事項を申し添えていたのだから責任はない。


「おっと、ここで行き止まりっすか……」

「そのようですね」


 先行していたフェイヴが、先のない壁に手をついて溢した声に、僕も頷きその壁を調べる。といっても、ごく普通の壁だ。これまでのダンジョンとの違いは、特に見付けられない。


「ふぅむ……」


 しかし、僕と同じようにその壁を調べたダゴベルダ氏は、なにかを思案するように声を漏らしてから、腕を組み考え始める。その隣ではグラもまた、なにかを書き込みつつ、町とダンジョンの地図を見比べていた。

 やがて、なにか重大な、それでいて深刻な新発見でもしたかのように、グラは口を開いて天を仰ぐ。その先にあるのは、赤いヒカリゴケが光る、不気味な洞窟の天井だった。


「なるほど【貪食仮説】……ですか……」



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