第31話 超プレート級ダンジョンのすゝめ
〈8〉
「あははははっはははっはははははははハハハハはははハハハははははははははははっはあはああっははっははアハハハッ!!」
洞窟内に哄笑が響き渡る。我はそのけたたましさに顔をしかめるが、ダンジョンの主を差しおいて楽しそうに笑っている金属ゴーレムは、それを気にするそぶりも見せず、ただただ楽しそうに笑い転げている。
「順調だ! 順調すぎる! アハハハハハッ!! くるぞくるぞ! 新たな大規模ダンジョンの誕生! 伝説の再来だ! クハハハハハハハハハハハハハハハハハハッハハハハハハハハハッ!! バスガル! 君は、ニスティス大迷宮と並び称され、地上生命どもに恐れられるダンジョンへと、その姿を変えるのだ!! 最高だ! 私は同胞の躍進に、胸躍らずにはいられない!!」
勝手な事を言う……。
我は別に、誰かの後を追いたいと思ったわけではない。伝説だ、ニスティスの再来だといわれたところで、嬉しくもなんともない。そも、ダンジョンコアとは独立独歩。最終的には、己こそが惑星のコアへと至らんと、自己研鑽のみに生きるが常である。
こうして、他のダンジョンコアと交流をもっていること自体、稀有な事態といっていい。
「いいぞいいぞ! 超プレート級のダンジョンが、この地域にできるという事の意味は大きい。ハハッ! 人類どもめ! 地上で指を咥えていろ! その間に、この惑星を支配するのは、我々地中生命なのだ!!」
「おい、超プレート級、とはなんだ?」
聞き慣れぬ言葉に首を傾げて問いかければ、それまでケラケラと笑っていた金属ゴーレムは、ようやく我の存在を思い出したとでもいわんばかりにこちらを向いた。しかし、次に発せられた声には、拭い去りようのない喜色が湛えられており、まだまだ有頂天のようだ。
「超プレート級というのは、私が付けた大規模ダンジョンの別名さ。リソスフィアを抜けたダンジョンを、私はそう呼称している。所謂プレートと呼ばれる層の先、ここまで成長したダンジョンは、人類に踏破する事は難しくなる。だが、それと同時に、我々ダンジョンコアも迂闊に先に進めなくなる。惑星のエネルギーが強すぎて、少しずつしか掘削できないんだ。それに加えて、地殻部分とは比べ物にもならない程分厚い。いまのところ、アセノスフィアの先にまで到達したダンジョンコアは、いないんじゃないかな?」
「リソ? アセノ? グリマルキンよ、我は貴様がなにを言っているのか、さっぱりわからぬ」
「ハハハハハ。まぁ、マントル層に至ったダンジョンは、その先の情報を秘匿するからね。ダンジョンコアの中には、コアに到達するまでは、ずっと地面が続いていると思っている者も多い」
「違うのかッ!?」
グリマルキンの言は、吃驚を禁じ得ないものだった。だが金属ゴーレムはそんな我の醜態を嘲笑うように、おどけて首を振る。
「いやいや、上部マントルは岩石だよ。下部マントルがどうなっているのかを知る者は、私の知る限りはいない。でも、その先は剛体から液体へと性質が変わっていくのは間違いない。外殻にまで到達すれば、もうそこは完全なる液体だ」
「……説明されても、貴様がなにを言っているのか、まるでわからん……」
「それでいいさ。君はいまだ、モホ面の先に到達していない、我々から見ればひよっこだ。いずれ、わかるまでに成長してくれれば、それでいい。そのときこそ、この惑星の神秘的な構造について、語り明かそうじゃないか」
むぅ……。またもわけのわからぬ単語がでた。地殻だのマントルだの、モホ面だのと……。だがしかし、たしかに我がこの者の後塵を拝しているのは事実。また、その手を借りている現状、未熟呼ばわりは甘んじて受けよう。
「しかし、そんな君もこの計画が成功すれば、我々超プレート級の仲間入りだ! 歓迎するとも、同胞よ! 共に、地中生命の栄華を築こうじゃないか!」
「貴様はどうやら、かなり連帯意識が強いようだな。我は少なくとも、そこまで同胞に対して思い入れはないぞ」
「いやいや、私だって仲間意識とか連帯感とかは、そこまで強くないよ。でもね、ダンジョンコアとして、共通の敵に対しては手を取り合えると思っているんだ。特に、人間という地上生命に対抗する、という立場としては」
「ふむ。わからんでもないスタンスではある」
要は、独立独歩の姿勢は堅持しつつも、地上生命の、とりわけ人間に対してだけは、協力して対抗しようという話であろう。実際、こうして手を借りている現状、それを否といえるような立場ではない。
我としても、種としてのダンジョンコアに対しては、肩入れする程度の思い入れはある。だがそれは、必ずしも他のダンジョンコアに対しての思い入れと、同義ではないのだ。
我がコアへと達する為ならば、当然他のダンジョンコアを倒す気概はある。それなくして、どうして生まれたてのダンジョンコアに宣戦布告などできようか。
「して、グリマルキンよ。そろそろ話を始めようぞ。なにやら問題が起きておるとか?」
我がそう言うと、いよいよゴーレムは楽しそうな態度をひそめて、神妙に語り始めた。
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