第30話 秘密兵器

 食事を終えて、グラの分の食事という名目の僕の夜食を持って地下へと戻る。

 彼女はいまダンジョンコア側にいるので食事はいらないし、こっちに宿っていても、特段食事に思い入れはないようで、人体に必要な栄養素が足りているなら、味などどうでもいいといった態度だった。

 きっと、ネブカドネザル号の人工アミノ酸の食事であろうとも、文句を言わないのだろう。まぁ、もしも継続的にそんな食事をとらなければならなくなっても、僕は疑似マトリックスを幻術で再現できる。たとえ、鼻水のような食事であろうと、分厚いステーキのジューシーで美味しいという情報を、視覚情報にも味覚情報にも錯覚させられる。こればかりは、幻術の凄いところだろう。

 応用できる場面が限られるのが痛いところだが。まぁ少なくとも、グラが「知らぬが仏」と裏切る心配は必要ない。そもそもそんな心配などした事ないけどね。

 もしもこの技術を地球に持って帰れたら、僕はきっとダイエッターたちに引く手数多だろう。いや、その前に姉に拘束、独占されるか。


「あ、グラ。起きてたんだ」


 地下の研究室に戻ると、すでにグラは起きていて、もう別の作業を始めていた。グラの座っている机のうえには、僕が先程作ったアクセサリーが、所狭しと並べられており、ひとつは彼女の手の中にある。

 どうやら、品質をチェックしてくれているらしい。


「ええ。どれも良いできですね。もはや、幻術の装具に関しては、私が口出しするような点は見受けられません」

「いやいや、まだグラの作ったものに比べれば、粗が目立つ代物だよ。お恥ずかしい」

「そこは慣れてくれば、いずれ粗は削れていくでしょう。要は慣れです」

「そう願いたいね」


 僕は肩をすくめて、彼女の机へと近付く。そこには、僕が作れる二十数個のアクセサリーが、それぞれ二セットずつ用意されており、その形も瓜二つだった。別に変えても構わないだろうが、どうせ双子なのだからと、まったく同じ造形のアクセサリーにした。

 その点は、グラも大満足のようだ。一昔前に流行った双子ファッションちっくではあるが、まぁ僕とグラは装備も役割も全然違うので、アクセサリーだけで見間違う程姿が似か寄るとも思えない。まず問題はないだろう。


「さて、君が聖杯にかかりきりだった間の話をしておこうか」

「おや、地上でなにか変化が?」

「まぁね」


 ぎこちなく笑いかけてから、僕は今日あった出来事を伝えていく。

 スィーバ商会との協力。マフィアどもの襲撃。二人の闖入者と、セイブンさんの乱入。そして、以前から要請のあった通り、バスガルのダンジョン攻略に際して、僕ら姉弟にも協力して欲しいとお願いされ、それを了承した。

 それに加えて、玄関とシャッターを壊されたせいで、屋敷の防衛能力低下を鑑みたセイブンさんからの厚意で、二人の問題児を抱えたという点も伝えておいた。たぶんこの二人、特にィエイト君とグラとの相性は、このうえなく悪い。だから、問題を避ける為、しばらくは屋敷にあがらない方がいいだろうという、僕の所感も付け加えた。


「なるほど。まぁ、地上部の防衛に関しては、ショーンの裁量で好きにして構いません。とはいえ、実力者を複数人ダンジョンの入り口に貼り付かせるというのは、なんというか、落ち着きませんね」

「うん、やっぱそうだよね」


 それは僕もそう思う。ただ、たしかに屋敷を守る為には必要なのだ。それに、幸いな事に、僕らがバスガルのダンジョンに潜る際には、彼らもまたここを離れる。僕らがいない間に、ダンジョンを襲撃される心配はしなくていいだろう。


「防衛といえば……」


 ついでに、僕はダズからの進言について、グラにも相談する。武器の質が低いという話だ。


「武器の質、ですか……。あまり意識した事はありませんでしたね。これまでの侵入者の持ち物を参考に、それを品質のいい状態にして作っていたのですが……」


 自らの至らなさに歯噛みするような、苦悩の滲む声音でグラが内心を吐露する。残念ながら、これまで侵入してきた連中は、チンピラやそれに近い連中ばかりだ。一応フェイヴなんかもいたが、あれは死んでいないし、その武器なんかも手に入らなかった。


「だから、ダズに言って、質のいいものを買ってきてもらう事になったよ。一月に一種類だけだけどね」

「ほう! なるほど。それを私が解析できるようになれば、武器の質も高くなるという事ですね!」


 そう。それこそが、僕がダズに最高品質の武器を、一種類ずつ選んできて欲しいと願った理由だ。


「できれば、僕もノウハウを盗みたいところだけどね……」


 僕ごときに、そこまで細かい解析ができるとは、期待していない。だが、グラならばできる。

 そして、グラがコツを会得したら、僕はそれを教えてもらうという方法もあるのだ。なにせ、グラに僕の体を操ってもらい、僕はその感覚を再現するという、かなりイージーモードな学習が可能なのだ。文字通りの意味で、チートに近い。あるいはカンニングか。

 参考資料に、ダズが選んだ質のいい武器が届くのが待ち遠しい。


「そうそう、武器を新調するんだから、防具も新調したいと考えているんだ」

「防具ですか?」

「そう」

「実はさ、ちょうどいい素材に心当たりがあるんだ」


 僕はさらに、知識チートともいうべき代物の情報を開示する。今日はその開発だけで手一杯だったが、作る事そのものは拍子抜けする程簡単だった。


 まぁ、組成式は単純なB4Cだ。ダンジョンコアにとっては、赤子だって作れる代物である。



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