第27話 武器の質
〈7〉
地下へと戻る前に、ダズの話を聞く。なにやら話があるらしい。声をかけてみると、彼は言いづらそうな面持ちで前置きする。
「いやよぉ、奴隷の身であんまこういう事を言うのは贅沢だとは思うんだが……」
なおも気まずげだったが、それでも言うべき事は言うという態度で、おずおずと付け加えられた。
「ちぃとばっか、パニックルームに備蓄されている武器の質が悪ぃんじゃねえかと思う。奴隷の使う武器だって事で、質素なもんを置いてるってぇならわかるが、ありゃあどう見ても新品だし、ショーン様はあんまそんな主人に思えなくてな。もし騙されて粗悪品を掴まされてたら事だしよ」
という事らしい。ちなみに、備蓄の武器を作ったのはグラだ。だが、そんな彼女の作った武器が、ダズから見れば粗悪品だという。
「質が悪いっていうのは、どういう風に?」
「ありゃあ、多分鋳造品だな。材質は鋼だが、全体が均一で、どこかのっぺりしてやがる。たしかに硬えだろうが、二、三度打ち合えば、ポッキリいっちまうだろうぜ」
「なるほど」
僕らダンジョンコアは、それなりに特別な方法で物を作る。一度物質を光の糸に変えてから、編み込むように形作るのだが、その際にやろうと思えばかなり細かく作り込める。
ただし、作れるものはかなり細かいところからできる分、きっちりと作り込まないと粗悪なものができる。以前、布の作り込みが甘くて、まともなものが作れなかった僕のように。
だが僕には、武器の組成に関する詳しい知識などない。ダズの言葉を真に受けるなら、どうやらグラにもないようだ。
「ふぅむ……。ダズは武器の目利きができるのかい?」
少し考えてから、僕はダズに問うた。いうまでもなく、この問題にこれまで気付かなかった僕に、武器の品質を見極められる審美眼などない。だったら、アウトソーシングできる事は、任せてしまおう。
「まぁな。これでも一応、ジグ・ドリュッセンの鉱人だしな。俺自身には鍛冶の才能なんてなかったが、武器防具の良し悪しくらいはわからぁな」
「だったら、一回ダズがいいと思う武器を買ってきてくれない? 金貨一〇〇枚くらいまでならなんとかするよ。それとも、相場的には一〇〇枚くらいじゃいいものは買えない?」
「いや、そんな事ぁねえよ。由来や宝飾がないなら、いいものはその半分でもありゃあ揃う。ただ、一つでいいのかい?」
ダズは不思議そうに首を傾げつつ、僕に聞いてくる。たしかに、防衛用の武器だとしたら、人数分ないとどうにもならないだろう。でも、僕がダズに質のいい武器を揃えて欲しいとお願いしたのは、グラと一緒にそれを研究する為の資料として欲したのだ。
あ、でも……――
「いや、そうだな……。剣、槍、弓のいいものを選んでくれ。それぞれ金貨一〇〇枚を目途に。できれば、その余りで矢もいいものを買い求めて欲しい。あー……、でも、全部を一月で揃えるのは、流石に出費だな。一月に一種類で」
「一種類? まぁ、いいが……」
腑に落ちない顔をしているダズ。まぁ、そうだろう。ただ、残念ながらいくらなんでも、一気に金貨三〇〇枚も四〇〇枚も、スィーバ商会に借金はできない。
とはいえ、まぁ、借金する事には変わりはない。だんだん債務が増えていくな……。
あのケチルであれば、喜んで財布の紐を緩めるだろうが、その分僕らは彼にイニシアチブを握られる事になる。乗っ取り計画を、彼に乗っ取られるなんて事になったら、笑うに笑えない。きちんとバランスを見極めながら、精々ビジネスライクな関係を築いていきたいものだ。
「ともあれ、武器の質については了解したよ。防衛に必要なものは、近々揃えるつもりだ。それまでは、悪いがいまあるもので対処して欲しい」
「ああ、了解したぜ……」
「ただ、こちらとしても君たちを粗末な武器で戦わせて、死傷されるのは困るね。追加で、いくつかマジックアイテムを支給するよ。隠し通路内で使用する事を考えていくつか作ってみるから、ダズはしばらくその実験をお願いするよ。ザカリーには僕から言っておく。きちんとレポートを提出してね」
「お、おう! しかし、いいのか? 奴隷の身を守る為にマジックアイテムなんて。売っ払った方が、俺たちよりもいい値段になるだろ?」
いやまぁ、たしかに奴隷としての彼らの値段は、驚く程安かった。だが、だからといって、たかだかマジックアイテム一、二個と比べて、後者に天秤が傾くとは……。どうなんだろ? もしかして、マジックアイテムの相場って、そこまで高いのかな? よく考えたら、【鉄幻爪】以外のものは売りにだしてもいないし、相場とかわからないな。
まぁでも、こういうのは値段じゃない。信用の問題だ。使用人をぞんざいにあつかいすぎれば、下手をすれば寝首を掻かれかねない。信用を勝ち取れる機会があるなら、活用しておくに如くはない。
「そんなものより、君たちの方が大事なんだよ。マジックアイテムはまた作ればいいが、死んだ人間を生き返らせる事はできない。だからダズも、いざというときはそんなものは捨ておいて、自分の身を守ってくれ」
僕はそんな打算から、ダズに笑顔で応えた。対するダズは、その髭もじゃの顔にわずかに覗く頬を赤らめ、照れたように頬を掻いて視線を逸らす。
「そ、そうかい。ま、まぁ、心配してねえよ。ろくでもねえ連中は、あの目立つ扉の向こうに行くんだし、あのパニックルームは防衛に最適の作りだからな。俺がこれからきっちりと、そのマジックアイテムの性能を検証すれば、万全だとは思うぜ」
そう言ってダズは仕事に戻っていった。僕もまた、彼の背を見送ってから地下へと足を向ける。
まったく、言い訳がましい自分が、こういうときは本当に嫌になるな。好ましいものは好ましいから、手元に大事に取っておきたい、くらいの傍若無人さがあったら、変な言い訳をしなくてもいいのに……。
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