第26話 奥義・丸投げの術
「なんと!? あのダゴベルダ氏がですか!? ショーンさんは彼の方とお知り合いで?」
そうそう。これが正しい反応だよね、やっぱり。
驚き身を乗り出したセイブンさんに、僕はゆっくりと頷いた。
「僕もギルドでお会いしただけなので、知り合いというのは、いささか以上に分不相応かと。ただ、ダゴベルダ氏は、件のダンジョンを調べる為、この町にきたと言っておられました。ギルドにも御用がおありのようでしたね」
「なるほど。博士の協力が得られれば、これ程心強い事はありませんね。一度、ギルド経由でお話してみます」
「それがいいと思います」
神妙な面持ちで考え込むセイブンさんに、僕も頷き、彼を騒動に巻き込む事を提案する。忍法・道連れの術だ。
ダンジョン側のスパイである僕よりも、余程ダンジョンに詳しいという彼の御仁だ。きっと僕なんかが考えるよりも、正確な知見を得られるだろう。人類側にとっても、そっちの方がありがたいはずだ。
「そういえば、ダゴベルダ氏は【魔術】を使っておいででしたね。もしかしたら、ダンジョン探索にもご同行いただけるかも知れませんよ?」
さらりと、僕らの負担もダゴベルダ氏に半分肩代わりしてもらおうと目論む。あの人のバイタリティだったら、ダンジョン探索に同行してもらえれば、僕らお役御免かも知れない。まぁ、それならそれで問題はない。こちらとしても、できる事ならこちらのダンジョンを離れたくなはい。奥義・丸投げの術だ。
「なるほど。一度、博士と話し合ってみます。それと、この二人を置いていきますので、動きがあるまでは雑用でもやらせて、こき使ってください」
後ろの二人を親指で差しつつそう言ったセイブンさん。シッケスさんとィエイト君も驚いている。
「え、要りませんけど……」
咄嗟の事で、ついつい本音が口をついた。というか、ただでさえ一級冒険者パーティのメンバーなんて危なくてダンジョンに近付けたくないっていうのに、短絡思考の二人を預かるなんて、リスクでしかない。
「貴様! 要らないとはなんだ!?」
「ちょっと失礼じゃね?」
侮られたと思ったのかィエイト君は憤慨し、シッケスさんも不機嫌そうに唇を尖らせる。だが、そんな抗議の声も、セイブンさんの「はぁぁああ……」という、盛大すぎるため息によって押し止められた。
「いいか? いまこの町は、新たにできたダンジョンのせいで、てんやわんやの騒動だ。商人のなかには、町を捨てて逃げようとしている者もいる」
カベラ商業ギルドとかの事だな。他にもいるのだろうか?
「そんな、緊急事ともいえる状況では、便乗してよからぬ真似をする輩が現れる可能性もある。衛兵はそれなりに動いてはいるようだが、やはり常のようにはいかない。まして騎士団や領軍ともなると、ダンジョンの方にかかりきりになる可能性が高い。つまり、治安維持機能が低下するという事だ」
なるほど。それは考えてなかった。たしかに、衛兵だけで、町で起こるトラブルをすべて解決するなんて不可能だ。彼らのバックには、本来領主がいるのだが、その手が塞がっているとなれば、それを好機と見る連中は少なからずいるだろう。
「ショーンさんたちは屋敷の修復をしなければならない。扉は破られ、防衛機構の一部はお前らによって破壊されている。いまのこの町で、依頼を受けてくれる業者を探して、依頼をして、受けてもらって、施工して、諸々すべて終わるまで、別のならず者がこの機にこの屋敷を攻めてこないと誰が保証する? 余計な作業に割かれる人手はどこから持ってくる? 彼らの安全は、誰が保障してくれる?」
「「…………」」
セイブンさんの質問に、二人は答えられず無言で立ちすくむ。僕も彼の言葉には考えさせられた。なるほど、常ならばマフィア連中の襲撃も散発的なものだが、町の状況や僕らの防衛態勢の不備などを鑑みれば、断続的な襲撃があってもおかしくはない。
僕ら姉弟はどうにでもなるが、使用人たちの安全を考えれば、たしかに護衛要員は必須だろう。
「扉とシャッターが直るまで、お前らはここで雑用をしつつ、屋敷の警護にあたれ。言うまでもないが、これ以上問題を起こせば、私がお前らを殺す。これ以上、私の顔を潰すようなら、脅しでもなんでもなく潰してやるから、そのつもりでいろ」
一度も振り返らずそう言うセイブンさんの声音に、重苦しい怒気が混じっていてとても怖い。二人も、冷や汗を垂らしつつ直立不動だ。ついでに、ジーガとディエゴ君も緊張から気を付けの姿勢である。
ピシリと引き締まった空気を割るように、柔らかい声でセイブンさんがこちらに語りかけてくる。だが、あのドスの効いた声のあとでは、どんな猫撫で声も虎の唸りに勝る威嚇でしかない。
「そのようなわけで、頭の足りない役立たずではありますが、好きに使ってください。シッケスは頑丈なだけが取り柄ですので、重労働を任せてもかまいませんし、ィエイトの方はそれなりに【魔術】が使えますので、いろいろとお役に立つかと」
「そ、そうですか。ではまぁ、お預かりします……」
そう言うしかなかった。いや、いまこの状況で、この人に逆らうとか無理!
まさか、問題児のお守りをやらされるとは……。奥義・丸投げの術を返された気分だ……。
お見事!!
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