第24話 カツカツフィクサーは舞台にもあがる

 たしかに、ギルド側の対応のまずさに思うところがないでもないが、バスガル攻略にはギルドは不可欠だ。正確に言えば、冒険者による人海戦術が必須なのだが、それを統括するのは冒険者ギルドである。多少頼りなかろうが、既に僕らの防衛計画に勝手に加えられている以上、ギルドを抜きに話は進められない。

 勿論、セイブンさんたち【雷神の力帯メギンギョルド】の力も必須だ。ただの有象無象だけでは、決定打が足りない。なので、ここは僕らの勝利の為にも、彼らとの協力が必要なのだ。

 ふっふっふ、見てろよバスガル。君はダンジョン対ダンジョンの戦いを想定しているだろうが、こちらはダンジョン対人類という、君が逃げ出した戦いを強いる。そして、勝利だけ掠め取るつもりなのだ。

 とはいえ、僕らとバスガルの戦いの趨勢を、人類の動向に委ねるつもりは、端からない。すべてをセイブンさんたちと冒険者に任せ、フィクサー気取りでほくそ笑むのも悪くはないが、あまりに他力本願すぎれば、想定外の事態に介入できなくなる。そもそも、常にキャスト不足の舞台なのだ。フィクサーだって舞台にあがって、モブ役くらいは演じなければならない。


「いいんですか? 先程は言いませんでしたが、ギルドからの事態を軽視した情報が届いた事で、国は招集していた軍を別の中規模ダンジョンに充ててしまいました。これをもう一度、アルタン、もしくはシタタン方面に派遣するには、時間と予算がかかります」

「具体的にはどのくらいでしょう?」

「サリーがこちらに着くくらいは、おそらくかかるでしょう」


 ふむ。つまり、三ヶ月は国も対処できない、と。たぶんバスガルと僕らとの戦いが、最大限長期化したって、そんなに持たないだろう。蓄えている兵糧DPの量が段違いなのだ。

 つまり、対バスガル戦において、この国の軍はアテにできなくなったのだ。まぁいい。そもそも国軍に対して、僕はまったく伝手を持たない。そうなると、動きをコントロールするのは難しい。となれば、下手に突っ込まれてDPになられる危険が減った思えばいい。

 ますます、セイブンさんたちに、失敗してもらっては困る。存分に協力して、是非ともバスガルを討ってもらおう。


「わかりました。そのサリーさんがこの町に到着するまでは、僕ら姉弟はバスガルの攻略に協力しましょう。その後はまぁ、必要ないでしょうから手は控えさせていただきますが」

「ええ、是非よろしくお願いします」


 そう言って、もう一度頭を下げるセイブンさん。中間管理職の哀愁っぽいものが、そのつむじから漂っている気がする。不憫な……。


「ふん……」


 鼻を鳴らすような音にそちらを見れば、不機嫌そうなィエイト君が、顔をそらしていた。セイブンさんの態度に、思うところがあるのか?


「なんで僕らが、人間どもの後始末をしなければならない。愚鈍に過ぎる」


 吐き捨てるように言ったィエイト君を一瞬睨み付けたセイブンさんだったが、言っている事には同意しているのか、肩をすくめてため息を吐いていた。そんなィエイト君を見てか、シッケスさん


「くくく……。拗ねてんじゃねえよ、クソエルフ」

「愚昧なダークエルフが。僕はただ、人間という種の愚かしさを嘆いていただけだ。その下品な笑いを引っ込めろ。ただでさえ下劣な品性が、もはやおぞましいまでに汚濁しているぞ」

「んだと、このクソエルフ。てめぇは単に、尊敬しているセイブンが、どう見てもただの子供な、そこの家主にぺこぺこしてんのが面白くねえんだろ!?」

「んなっ!? ち、違うぞ! 僕はただ、人間というものは、どうしてこうまで愚かで、愚鈍で……――」


 ィエイト君の白皙の頬に、さぁっと朱が走る。どうやら図星らしい。まぁ、あの慌てようを見ていれば、誰の目にもわかるか。どうやらこのィエイト君、かなりセイブンさんを尊敬しているらしい。

 などと思っていたら、シッケスさんとィエイト君が、小学生みたいな口喧嘩を始めた。


「愚かと愚鈍で、意味被ってんじゃねえか! やーい、バーカ、ばぁーか!」

「う、うるさい。低能なダークエルフが! 貴様こそ、その空っぽな頭に、少しは教養を詰め込め!」

「おやおやぁ? ィエイト君は知らないのかなぁ~? こっちはこのたび、四級の筆記試験をクリアしたんだぜぇ!」

「……、ふん。四級の筆記試験など、僕は四級になったその日にパスした。まさか、いまのいままで、筆記を突破していなかったとはな。むしろその事実に驚いている」


 調子に乗ったシッケスさんが墓穴を掘ったのを見逃さず、ィエイト君は落ち着きを取り戻し、嫌味っぽくその失点を論う。というか、四級って筆記試験あるの? 正直、そこまでのぼり詰めるつもりはないからいいんだけど、それが何級からあるのかは気になるところだ。

 グラの知らない知識、たとえばこの国の歴史とかがあると、僕だってお手上げだぞ。


「う、うっせぇ! うっせぇ! いろいろと忙しくて、後回しにしてたんだよ! こっちだってなぁ、やろうと思えばもっと早くクリアしてたっての!!」

「やろうと思えばできる事を後回しにする。それこそが、愚鈍だというのだ、馬鹿め。自ら己が愚劣である事を証明したようだな」

「はん! 筆記ができたって、お前がバカな事には変わりねえだろうが! こっちら、バカだからこうして立たされてんでしょ!? やーい、バーカ、バーカ!」

「……自己弁護ができなくなったからと、道連れか……。本当に愚図だな」


……なんだろう。この二人を見ていると、まるで外見だけは大人に育った子供を見ている気分になる。中学生くらいまで縮んだ僕の前で、十二分に青年といっていい姿のエルフとダークエルフの二人が、稚拙な口喧嘩を繰り広げている。

 そんな姿を見ていると、本当にもう、怒る気も失せてくる。


「いい加減に、黙りなさい」


 そしてそんな二人は、セイブンさんが一言発するだけで気を付けの姿勢に戻り、口を噤むのだった。その姿は、中間管理職のサラリーマンというよりは、どこか小学校の先生のようだった。



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