第22話 謝罪とお願い
〈6〉
諸々の後片付けが全部終わり、僕とセイブンさんと連れの二人は、応接室にいた。使用人たちも、一度部外者全員を追い出してから、パニックルームの外にだしているので、ジーガとディエゴ君もいる。ダズがパニックルームの防衛に関して話がしたいと言っていたのだが、流石にいまは無理なので後回しにさせてもらった。
「それでは改めまして、一応僕がこの家の家主である、ショーン・ハリューです」
いささか手遅れ過ぎる自己紹介をしたら、二人がバツの悪そうな表情で顔を逸らした。ちなみに、ソファについているのは僕とセイブンさんだけで、ジーガと久々に見たディエゴ君と、その他二人は立っている。使用人の二人は当然なのだが、爆乳褐色美女とエルフ剣士くんは、セイブンさんの後ろで気を付けの姿勢で、まさしく立たされている。
「お前らも自己紹介をしなさい。どうせ、まだ名も名乗っていないのでしょう?」
底冷えのするような声音で、見向きもせずに命令するセイブンさん。爆乳褐色美女の方が、気を付けの姿勢のまま青い顔で口を開く。
「こっちはシッケス・サイズ。セイブンの仲間です」
これまでの荒々しい口調とは打って変わって、ぎこちないものの、こちらに気を使ったとわかる丁寧な口調だった。ちなみに、あのパイロットキャップのような兜は脱いでいるので、彼女がダークエルフである証拠の笹穂耳も確認した。もう一人のエルフ剣士君と違って、横ではなく後ろに伸びている感じで、その長い銀髪に隠れ、先っぽだけが少し見えるくらいだった。
「……同じく、ィエイト・エナブル。【
続けて、エルフ剣士くんが渋々といった態で自己紹介をする。こちらは初対面のときからエルフであるのが丸わかりのシルエットだったが、その耳があからさまに垂れ下がっている。戦闘中はピンと横に伸びていたので、感情で動くようだ。
神経質そうな、いかにも耽美なイケメンが、気落ちしつつも、それを覚られまいと不機嫌な表情を作り、尊大な口調で謝っている。きっと、その筋のお姉さまたちには垂涎の光景なのだろう。が、僕としてはちょっとカチンとくる態度だった。
なんて思っていたら、僕以上に彼のその態度に腹を立てた人がいたようだ。
「……失礼」
そう口にしたセイブンさんを見ようとしたら、ソファはもうもぬけの殻。ガッという鈍い音がして、ディエゴ君の「ひぇっ……」という怯えた声が聞こえた。
こちらからはソファの陰になって見えないが、その奥から何度も何度もガツガツという鈍い音が聞こえる……。見えない分余計に怖い。青い顔で直立し、頑なにそちらを見ようとしない、シッケスと名乗った爆乳――ダークエルフの女性と、逆に目の当たりにして、ぷるぷると震えているディエゴ君との対比が、より恐怖心を掻き立てる。
やがて音が聞こえなくなると、すっくとセイブンさんが立ちあがる。まるで当然の仕事をこなしただけ、とでも言わんばかりの平静な態度だったが、拳と頬には返り血が飛んでいた。彼は淡々と手と服にとんだ返り血を処理すると、再び席に着く。えっと、まだ頬に返り血が残ってますよ……?
その、さも当然といわんばかりの態度に、僕やジーガ、ディエゴ君といった、暴力とは一線を画す人間は、ドン引きである。肉体言語の行使に躊躇がなさすぎる……。僕としては、近所の気のいいおじさんだと思っていた人が、ヤの人だったかのような驚きと恐怖を、いままさに覚えているところだ。
「本っ当に、我がパーティの馬鹿どもが申し訳ありませんでした!!」
だというのに、そんなおっかない人が、僕に頭を下げてくる。いや、どうしろと? こちらとしては、勿論二人に対して言いたい事や憤りはあるのだが、セイブンさんの制裁が苛烈すぎて、ついつい「もうその辺で……」とか言いそうになってしまうのだ。それが、セイブンさんなりの交渉術である可能性は否めない。だとすれば、その思惑は成功していた。
頬を腫らして鼻血を垂らしながら、よろよろと立ちあがったィエイト君を見ていたら、さらにこちらから制裁を加える気にもならない。もう十分に罰は受けたと思ってしまう。
「ま、まぁ、謝っていただけたのであれば、こちらとしても遺恨にするつもりはありません。屋敷の修繕費や、壊したものを弁償していただければ、今回の件は不問といたします。僕も、こんな事でセイブンさんとの関係を悪くするのは、本意ではありませんし」
衛兵に突き出したマフィア連中の生き残りは、別に懸賞金付きとかでもなかったし、彼らの財産から屋敷の修繕費が払われるとも思えない。なので、もっけの幸いと、彼らにたかる事にする。
シャッターを壊したのは、間違いなくこの二人だしね。特注だから、今回の襲撃被害で修繕に一番費用がかかるのは、間違いなくあの鉄格子の新調なのだ。
「そう言っていただけると、私としてもありがたいです」
「タイミングが悪かったというのもありますし」
二人だって、流石に僕の屋敷がマフィアに襲撃されているタイミングでなければ、普通に訪問する事くらいはできただろう。それすらできないのであれば、セイブンさんだってお目付け役も付けずに送り出したりはしないはずだ。
そして、マフィアの連中を倒している最中、その場に自分たちを覗き見るように幻術で姿を隠した僕がいたのだ。訝しむのも、ある意味当然だろう。状況を整理してみると、僕自身たしかに怪しいと思う。
「とはいえ、苦言くらいは呈させてください。ここは我が家であり、盗賊たちの根城ではありません。問答無用で襲い掛かられては、事態が終息しても様子見として使用人を外にだす事すらできません」
「おっしゃるとおりです。まったく、バカにも程度や限度はあるだろうに……」
呆れて肩を落とすセイブンさん。その後ろで、二人は気まずげに顔を逸らした。
そう、僕がなによりも気に入らないのは、僕がマフィアの一員だと勘違いした事よりも、問答無用で襲い掛かってきた点だ。そんな事をされては、使用人たちにとって危険すぎるのだ。
残機が一ある僕だったからまだ良かったものの、これがジーガだったら今頃は彼の葬式の準備をしていなければならなかった。そうなればもう、僕とセイブンさんたちとの関係は、修復不能なものになっていただろう。
彼が激怒するのも当然だ。今回の件では、顔に泥を塗る形で決着したが、下手をすれば顔を潰されていた。親であっても、子を勘当するくらいの不行状である。ある意味、ボコボコにされるくらいなら、まだ温情ある措置といえる。
「それで、そのお二人を挨拶にこられた理由は、ただの顔合わせですか?」
「そうでした……。実は、当初の懸念通り、サリーがこの町を訪れられるのは、早くても三ヶ月後という報告が入りました……。その他の【
心底申し訳なさそうに、セイブンさんはそう申し出た。さて、どうしようか……。
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