第18話 いつもの襲撃?
僕とジーガは、慌てる事なく避難を開始した。まずは、廊下へとでる。襲撃なんて慣れたものなので、二人とも慌てたりはしない。
「旦那はどうします? 地下へと戻りますか?」
「いや、襲撃者と鉢合わせしたら洒落にならない。今回は、僕もパニックルームに避難するよ」
「それがいいですね」
そんなやり取りを終えた途端、ガイィィンというけたたましい音が屋敷中に響く。廊下の先を見れば、そこではちょうど、玄関に続く廊下にシャッターが下ろされたところだった。
この家は玄関のエントランスに、通称【地獄門】と呼ばれているダンジョンへの入り口があり、その両脇に廊下が延びている構造だ。なので、その廊下の入り口にシャッターを下ろせば、侵入者に対してかなりの足止めになる。
とはいえ、現代のようなシャッターを作る事はできなかったので、天井から格子状の鉄柵を、簡単な仕掛けで下に落とすだけの代物だ。だから作動させると、あんなに音が響く。頑丈に作った分、結構な重量だしね。
鉄柵を下ろしたのはウーフーだろう。この家の避難マニュアルでは、緊急事態を通知後、二、三分程度の余裕を見てから、二階から玄関を監視していた者が、監視部屋の仕掛けを使って、鉄柵を下ろす段取りになっている。当然、一階にいる者は、警報ののち、速やかに玄関から離れるよう訓練されている。
あちこちの部屋から使用人がでてきて、廊下の隠し通路の奥へと消えていく。そのなかには、両足のないキュプタス爺もいる。だが、避難している者のなかで一番落ち着いているのが、そんなキュプタスだった。
「慌てるでない。落ち着いて動いても、十分に間に合うぞい」
「は、はい……っ」
キュプタス爺が落ち着くように言い聞かせても、やはりどこかソワソワしている。まぁ、彼らがこの家にきてから、初めての襲撃だしな。浮足立つのも仕方がないのかも知れない。
「おや、ショーン様。お元気そうですな」
「キュプタス爺もね。みんな落ち着きがないね」
「まぁそうですな。しかしまぁ、数をこなせばそのうちみな落ち着きましょうて」
「そうだね」
落ち着かないとはいっても、十人程度が避難するのに、それ程時間はかからないだろう。彼らが避難するのを見届けたら、僕もさっさと隠し通路に入ろう。避難にそれなりに手間取りそうなキュプタス爺を見送ってから、避難してくる使用人がいなくなったのを確認し、僕らも隠し通路に避難する。
廊下の腰壁にある隠し扉を開き、そこに体を潜り込ませた瞬間。ドォンというけたたましい音とともに、我が家の扉が破られた。
「おらぁ!! でてきやがれ、クソガキィ!!」
「おいおい、そんな脅したら怖がってでてこれねえだろ。ぎゃはは」
「白昼夢くぅ~ん。お兄さんたち、怖い事しないからでておいでぇ~」
隠し通路に潜みながら、侵入者たちの様子を窺う。どうやら、かなり質の悪い連中のようだ。
「襲撃者の質も下がってきたなぁ……」
「そうですね。まぁ、いまだに旦那を倒そうと思ってる時点で、質の低さは証明されているようなもんですがね。これからはもう、そんな連中しかきませんよ」
「気の滅入る話だね……」
それはそれで困るんだけどなぁ……。ダンジョンに吸収できる生命エネルギーは、結構個人差がある。きちんと鍛えた健康体であれば、かなりのエネルギー量になるのだが、その逆もまた然りなのだ。あんな連中が、きちんと己を律して鍛えているとは、とても思えない。
とはいえ、あんなんでもDP的にはいい収入になるからなぁ。
「ま、そのうち下に行くでしょ」
「そうだといいですね。鉄柵を破られると、家を荒らされる恐れもあります。価値あるものはそれ程おいてませんが、掃除や補填が面倒です……」
「この忙しいときに……」
ゲンナリしつつ、互いにため息を吐く僕とジーガ。
そんなおり、なにやら壁の向こうから聞こえる音に、変化があった。いつもとは違った雰囲気に、僕とジーガは顔つきを真剣なものにして、壁に耳を寄せる。
「な、なんだぁ、てめぇら!? 俺たちを、ベラス一家と知ってんのか!?」
「はぁ!? ベラスなんて知んねーし! どこのチンピラ集団だっての。こっちは、セイブンのヤツに言われて、仕方なく挨拶にきただけだっての。したら、そいつの家がいきなりチンピラに荒らされてて、なんかもうめんどくせーんですけど? マジ帰っていい?」
「やめろ。副リーダーの命令を軽んじるな。こんな虫けらのような連中を言い訳に、命令の不履行など認められるわけがない。お前はどうして、いつもいつもそう不真面目なん――」
「あー!! うっさいうっさい。お説教なんて聞いてないし!」
どうやら、襲撃者たちとは無関係の人間が、現れたらしい。口の悪い女と、生真面目そうな男の声だ。声を盗み聞きしていると、どうにもこの二人の方が揉めているように聞こえるのは、気のせいだろうか?
それにしても、セイブンさんの知り合いか? わざわざウチに出向く用事がわからないな。ダンジョン関連で、なにか緊急の用事ができたとかなら、本人がくるだろうしなぁ……。
「おい、てめえら!! 俺たちを無視してんじゃねえ!!」
「うっさい。もう面倒だから、こいつらのしてから家主探そー」
「それがいい。このようなカスどもに、僕の時間をこれ以上使われるなど我慢ならん。一人残らず、物言わぬ肉塊にしてやろう」
「上等じゃねえか! てめえらこそ二人まとめて、ミンチにしてから白昼夢に食わせてやんよ!!」
「ちょっと待てよ! 女の方は、俺らに楽しませろ」
「俺は男の方をくれ。女になんぞ、興味はねえ!」
うわぁ……。混沌としているなぁ……。仕方がないので、僕は自分の手のひらに魔力を集め、そこに理を刻む。
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